ということになっている。

 住民票を見た時には気が付かなかったが、というより


 きちんと目を通さなかったことを反省する。自動車学校の入学証明書を確認して違和感を禁じ得ずにはいられなかった。何度見てもおかしい。



 ―――――――よし。重大な瑕疵がある、見間違いではない。



「課長、僕」

「うん、わかってる」




 生年月日と年齢が明らかにおかしい。19歳にされている。




「見た目の年齢ってどんどん下がってるっていうからさ。確かに夏海くん中学生くらいにしか見えないからね」




 中  学  生  だ  と  ?




「どうせ一から住民票作るんだから、って思ったみたいだよ」



 鳥海社長がですか、と口に出しては言わなかった。僕は大人だから。もう何が起こっても驚かないと決めたじゃないかと自分に言い聞かせる。そのついでに、今後はどんな説明書も契約書もちゃんと細部まで目を通そうと心に誓う。



「細かいこと気にしないでさ、この書類自体瑕疵みたいなところがあるんだし」

「まあ、そうですが」



 それもどうかとは思うよ。でも罷り通ったのならば仕方あるまい、僕は35年前で19歳からやり直すのだ。



「大丈夫、見える見える。初登校は私も一緒に行くからね」

「ありがとうございます!」



 そういえば以前に免許を取った時にも社長が一緒に来てくれた。社会的に地位がある彼が保護者として後ろ盾になってくれるのは心強かった。

 



「保護者がいないと舐めてかかってきて実技進めてくれなかったり何回も試験落とされたりする学校もあるんだよ」



 この時代ではハラスメントが起きてもくちコミが広まることはない。拡散されず狭い範囲に留まってしまう。もし訴えがあったとしても、せいぜい該当職員が解雇される程度だろう。問題として取り上げられることもなく外部に漏れず終わることになる。



     [そういうの見つけて発信してやれよ]



「それでなくても大人になってから免許取るのって時間かかるって聞いたことあります」



 思い切りが足りないとか運動能力の低下だとか。それだけでもなさそうだ。



「そうそう。引き伸ばしたらお金とれるじゃない。やられた方はヘタクソヘタクソって見下されて自信なくなっちゃうしさ」

「えー、怖い」

「怖いんだよ」




 なるほど、僕が未成年であれば何かと守ってもらえるのだ。「うんうん」と相槌を打ちながら課長が台所へ行き、何か持って戻って来る。凶器になりそうなガラスの灰皿だった。自分で使う為に用意してあったようだ。喫煙者ってそういうところがある。課長は煙草に火を点けた。



「課長、煙草が600円になっても吸いますか?」

「吸うよ。これだけが楽しみだもの。1000円になっても吸うね」

「そうですか」

「何、600円になるの?3倍だよ?」




 600円近くにはなるが、そうなる前に課長は禁煙する。今から30年近く後、初孫が生まれた時にスパッと辞めるのだ。




「秘密です」

「何さ」



 課長はニヤリと笑って追及はしてこなかった。知らない方が面白いことはある。僕は当分、人前では飲酒と喫煙をしないように気を付けなければと肝に銘じるのだった。





 *******************





 退屈するに違いないと正直ゲンナリしていたが、自動車学校の授業は思ったよりも楽しかった。それに懐かしさと改めての学びがある。当時は必死だったから楽しんでいる余裕など無かったのだと思う。それに自習室にアイスの自動販売機がある。




「家近いんでしょ?アイス買いにだけ来れば?」

「本当に?」



 何それ超嬉しい。来ちゃうんだから。



「どうぞ」



 どうぞは一回か。

 未来あっちでも通った学校だが、その中年男性とは面識があった。――――――40代になったばかりの課長よりもうんと年上に見えるが、もしかしたら見た目よりも年齢は若いのかもしれない。




「片石くん社長さんなんだって?凄いねえ」

「え、誰情報ですか?」




 言われてみれば、この時代に於いて二十代で個人事業主というだけで珍しいのだろう。もっとも話題にならなかっただけで存在はしていたのかもしれない。しかも今、僕は19歳ということになっている。社長と名乗るにはかなり前衛的である筈だ。もっと言えば、僕は社長でも事業主というわけでもないんだけど。





「・・・・・・・・手続きにきた、あれお父さんなんでしょ?」



 誰情報=誰から得た情報、と解読するのに時間がかかった様子だった。此処では課長が父親ということになっている。本当にそうだったら良かったのにと何度も考えたことが、こんな形で実現するなんて。



「どんな仕事してるの?」

「父ですか?」

「ううん、片石くん本人。あっ」


「あっ」




 うっかり指先の腹でハンドルを操作してしまった。いつもの癖というわけではなく、危険物の無い場内で油断していた。いつもはこんな運転の仕方はあんまりしないのに何ということだ、気を引き締めねば。教官が連絡帳に何か書き込む。


 彼は未来あっちで校長になっていた。仮免の筆記試験で満点を取った時と卒業の時に話をしたことを少し思い出して、なんとも感慨深い。





********************





 この後、もう一時間ずつ実技と筆記の講習を受けて家に帰った。家から徒歩5分もかからない場所にあって、途中に買い物をする場所なんて当然無い。アパートの裏にコンビニができるのはまだまだ先のようだ。帰ってもやることが無いのでスーパーまで20分ほど歩いて、買い物がてら散歩をした。


 テレビは今日発注したばかりだから届いていない。まだ見ぬ “未来あっちでは放送できないようなギリギリを攻めた面白いドラマ” をリアルタイムで見るのが楽しみで堪らなった。


 ワクワクしているせいか夕陽がやけに輝いて見える。夕方になったら涼しいことに驚いてもいた。そういえば今朝も肌寒いくらいだった。8月の初めだというのに何て過ごしやすいのだろう。帰ったら晩御飯を作って風呂に入って、課長にもらったカタログを読み込もうと考えている。楽しみだ。











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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 応募作は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。













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