第26話
「ごめんなさい。余計なことかと思ったんですけど」
応接室まで来るとリリィは布地をテーブルに置き、しょぼくれた顔で振り返った。
目を潤ませて指をモジモジ。
泣きたいのを我慢しているみたい。
怒られた子供のような顔をしている。
「ううん。そんなことない。助かったよ」
「本当ですか?」
「えぇ。ありがとう」
居た堪れない気持ちになり、手を握ってリリィにお礼を言う。
するとリリィは安心したように小さく息を吐いた。
ニコッと愛らしい笑みを見せてくれる。
気を遣わせてしまって本当に申し訳無い。
声を掛けてくれて助かったのに。
リリィが来なかったら今頃、地獄のお茶会の幕開けになるところだった。
それこそ紅茶も凍る冷たさ。
淹れた直後にレモンティーシャーベットが出来上がる。
「旦那様ももっと気を利かせてくださればいいのに」
「まぁ…。しょうがないって」
「エマ様は嫌じゃないんですか?」
純粋な目で見つめられて胸が痛む。
嫌じゃないかって…、どうだろう?
それが当たり前の事だし。
でも、重ねて見られると無性に胸がざわつく。
どうしてかは、わからないけど。
「そうね。ちょっとだけ」
「なら旦那様に言いましょう」
「ダメよ。旦那様の大事なイトコなんだから」
「そう、ですか……」
首を横に振った私にリリィはもどかしそうに俯いた。
スカートの裾を握り締めて何かを深く考え込むように。
愛らしい瞳の影に悲しみの色を灯している。
騙していると自覚して尚更、心が苦しい。
本当は違うのに。
でも、『内密に』も契約のうちだ。
誰にも言えない。
覆せない。
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