非現実

「すずー!お昼食べに行こ!」



賑やかな教室内の、少し離れた場所からあたしを呼ぶのは―…



「ゆり!俺にも声かけろよ!昼飯誘えよ!」


「勝手にれば良いじゃん…めんどくさいなぁ…」



程なくして、学校に来るようになった岸田ゆり子ちゃんだ。



「めんどくせぇって何だよ!」



アイは相変わらず胸糞悪い奴で、最近はもっぱらあたし達と一緒に居る事が多い。



「…ねぇ、とりあえず食堂に行こ?」


2人に呆れた視線を送る。



「行こ行こ!アイに構ってらんない」


「はぁぁ!?」




———あたしは、と言えば……


この現実と呼ばれる日常を、やっぱり受け入れきれなかった。



アイに真実とやらを聞かされたあの日から、2ヶ月が経った今も、何も理解していなかった。



季節が夏に移り、制服も夏服に変わり、それぞれが次へ進んでいるのに、あたしだけ過去に縛られたまま。



兄ミヤチと過ごした時間を思うと、兄ミヤチが居ないこの時間が、非現実だとしか思えない。



…だけど、そんな思いを口にしたりはしない。



あたしを好きだと言ったアイも、あれっきり何も言って来ない。



アイがあたしを好きだってゆうのは、誰が見ても明白だと…そう岸田ゆり子ちゃんは言っていた。



———それは、日曜日。


岸田ゆり子ちゃんがまだ登校拒否を続けていた時で…



「アイってね、一々、すずにケチ付けてたでしょ?あれって完全に幼稚な好きの表れだよね」



馬鹿にしているようで、微笑ましい口調で、彼女は語る。



あたしが自らの意思で岸田家を訪れたのは、兄ミヤチと約束をしていたあの日。



待ち合わせの渡り廊下に行かなかったのは、何故だか自分でも分からない。



だけど今日、岸田ゆり子ちゃんに会おうと思ったのは、少なからず罪悪感を感じていたから。



兄ミヤチとゆう存在に翻弄ほんろうされ、自分の視野を狭め、岸田ゆり子ちゃんをうとましく思ってしまったから。



…彼女は何も変わってなかったのに。あたしの見方や考え方が、歪んでしまっていたと…今ならそう思う。



だから“友達”をやり直したかった。



歪んだ眼鏡を外して、岸田ゆり子とゆう一人の“友達”を、きちんと見てみようと思った。



…だけど、兄ミヤチとの事や、あたしが彼女に対して抱いていた思いを、彼女に話してはいない。



自分勝手なあたしは、何だかんだ綺麗な部分しか見せたがらない。



「アイツは、ゆりの事が好きなんだと思ってた」



それはまるで、友達ごっこでもしているような…



「えー!?ないない!」



あたしの発言に呆れた様子で、岸田ゆり子ちゃんが笑う。



「あたしは……好きな人がいるの…」



そして彼女は、色々と教えてくれた。



「あたしの気持ちに、アイは気づいていたから…あたしも、結構分かりやすいのかも…」



薄く笑みを見せる彼女に、あたしも笑ってみせた。



「森ちゃんでしょ?」


「やっぱバレてたー…」



項垂れる岸田ゆり子ちゃんに、「本人も気づいてると思うよ」とは、言えなかった。



そんな事があってから、岸田ゆり子ちゃんに感じていた勝手な疎ましさは、あたしの中で吹っ切れたように思う。



少なからず、彼女の中でも変化があったのか…



家に帰って着替えを済まそうとしていた時、「あたし、明日から学校行く」と、そんな内容のメールが届いていた。

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