第108話

「ねえ、ユズちゃん……これは?」

「ごめんなさい。それはニードルポイントレースなので詳しくは……私、縫い針は苦手で……」

 普通に縫うこともできないのだと続ける。


「へ~、器用でも得意不得意ってあるんだ……」


 イザベルシア――アナは感心したように自分のお気に入りのハンカチと織り台の上のレースを見比べる。

「あたしはどっちもついていけないわ~」


「ていうか、普通に使ってたけどね……」

 自分のドレスの裾飾りをひらひらさせながら、イザベリシア――アムが言う。

「宮廷画家の絵より時間かかってたなんて……」


 アムのハンカチもレース店で、職人五人でかかれば四十日くらいではないかと聞いていた。


「私はまだそんなに上手くないですから、職人さんたちには敵いませんが……」

「え~?」

「こんな細かいのやってるのに?」

 言い、ボビンに巻かれている糸をしげしげと見て、

「こんな細い糸でこんなに織ってるなんて、誰が思うのよ~」

「っていうか、ライ君、これ知ってて使いまくってるの?」


「ライは……丁寧に使ってくれています……」

 鳥の粗相がついたものでも捨てようとしないほどだ。


「ていうか、ライ君、レース使うようになって色気づいたと思ってたら……」

「背も伸びたし、少しは男性になったな~、と思ってたのよ?」


 話はそのまま、二日前のことに触れて盛り上がっていく。

 その最中――いきなり静かになる。


「……あ……」

 いつの間にか帰ってきていたらしい、礼竜と目が合って。

「ごめん……」


 扉が閉まる。

 銀髪の残影が尻尾のようだ。


「…………」

「…………」

「ちょっとちょっと! 待ちなさい! ライ君!」

「ちょうど話してたのよ! こっち来なさい!」


 双子は急いで追いかけると、礼竜を両脇から掴んで戻ってくる。


 かくて――【お説教】は始まった。



◆◇◆◇◆

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