エピローグ 未来からの贈り物

桜が満開を迎えた朝。千紗は目覚めの悪そうな顔で、ベッドの中でゆっくりと目を開けた。窓から差し込む柔らかな日差しが、彼女の頬を優しく撫でる。


「千紗、起きなさい。入学式の朝よ」


母親の美佐江の声が階下から聞こえてきた。千紗はゆっくりと体を起こし、窓の外を見つめた。満開の桜が風に揺れ、その花びらが舞い散る様子が目に入る。


「そうか...今日から高校生なんだ」


千紗は小さくつぶやいた。しかし、その言葉には何か既視感のようなものが込められていた。まるで、以前にも同じような朝を経験したことがあるような...そんな奇妙な感覚が彼女の心をかすかに掠めた。


制服に着替え、鏡の前に立つ千紗。そこに映る自分の姿を見つめながら、彼女は不思議な違和感を覚えた。何か大切なことを忘れているような...でも、それが何なのかはっきりとはわからない。


「千紗、朝ごはんができたわよ」


再び美佐江の声がする。千紗は首を振り、モヤモヤした気持ちを払拭しようとした。


「はーい、今行くね」


階下に降りると、健太郎が新聞を読みながら、いつもと変わらない朝の光景が広がっていた。しかし、両親の姿を見て、千紗は昨夜の不思議な出来事を思い出した。深夜なのに全く疲れた様子を見せない両親...。


「おはよう、千紗。入学式、楽しみだね」


父親の健太郎が穏やかな笑顔で言った。


「うん!」


千紗は嬉しそうに返事をしながら、食卓に着いた。


朝食を終え、玄関に向かう千紗。ドアを開けると、そこには浩介が待っていた。


「ちー、おはよう!」


浩介の明るい声に、千紗の心がふわりと軽くなる。


「こーちゃん、おはよう」


二人は並んで歩き始めた。桜並木の下、舞い散る花びらの中を歩きながら、千紗は浩介の横顔をちらりと見た。そこには、懐かしさと新鮮さが同時に存在しているような不思議な感覚があった。


「ねえ、こーちゃん」千紗が小さな声で言った。「なんだか...すごく特別な一日になりそうな気がする」


浩介は優しく微笑んだ。「うん、きっとそうだな。俺たちの新しい物語が、今日から始まるんだ」


その言葉に、千紗の胸が高鳴った。確かに何かが始まろうとしている。そんな予感と共に、二人は桜吹雪の中を歩み続けた。新しい世界の幕開けを告げるかのように、春の風が二人の周りを優しく包み込んでいった。

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