第18話 ウサギとカメ?

 むかしむかし、あるところに、ウサギとカメがいました。ウサギは自らの足の速さを自慢に思っていて、それを他者に認めてもらいたくてしょうがないという厄介な状態にありました。


 あるとき、ウサギはカメに言いました。


「カメさん、あの山の向こうまで競争しようよ。」


 カメはとてもゆっくり歩きます。絶対にウサギにはかなわないでしょう。ウサギの足の速さを世に知らしめるための引き立て役にはぴったりです。


「はい、はい。」


 カメが二つ返事で了承したので、ウサギは大喜びです。


「じゃあ、早速用意、どん!」


 ウサギはぴゅーッと勢いよく飛び出していきました。足の速いウサギはどんどんカメを引き離し、ずいぶん遠くまであっという間に進みました。


「やっぱりカメさんはのろいな。一休みして、ハンデをくれてやるか。」


 油断したウサギはとごろりと寝そべり、そのままぐうぐうと眠ってしまいました。


 その隙に、カメはのそのそ、のそのそ、着実に歩みを進めていました。そのうちに、カメは眠っているウサギのところまでやってきました。


「やれやれ、予想どおりの展開だ。ほれ、ウサギさん、起きなさい。」

「ふが、ふが、あむ」


 ウサギが寝ぼけている間に、カメは背中にしょっていた荷物を下ろしました。むしろを敷いて、てきぱきと道具を広げます。ウサギがしゃっきりする頃には、すっかり野点の準備が整っていました。


「まあ、一服どうぞ。お菓子もありますよ。」


 カメに勧められるまま、ウサギはお茶とお菓子を頂きます。喉かな里山の風景を眺めながら頂く茶菓は得も言われぬ味わいで、心がしっとりと落ち着いていくようです。


「カメさん、こんな道具を背負って来たのかい。重かったろう。」

「私の甲羅も脚も丈夫ですから、何という事はありませんよ。それより、もう一杯いかがです。」

「あ、頂きます。」


 ずるずる、はー。のんびりと、緩やかに時間が流れていきます。ウサギは何だか、急いで走っていたのが遠い昔のことのように感じられてきました。


「なんであんなにシャカリキに走っていたんだろうなあ。」

「寿命が短いからじゃないですか。我々は何十年と生きますが、おたくは長くても10年程度でしょう。」

「ああ、そうか。ボクらは常に生き急いでるのかもしれないなあ。」


 ウサギが空を見上げると、動いているかいないか分からないくらいの早さで雲が流れています。


「残された時間が短いからこそ、ゆっくり味わうのも良いかもしれませんよ。」


 カメは落雁をぽりぽりとかじりながら呟きました。ウサギも一つ落雁を摘まんでぽいと口に放り込みました。落雁なんて仏壇で見たことしかありませんでしたが、しみじみ味わってみると渋いお茶によく合います。


「落雁、飾った後は捨ててたよ。勿体ないことしたな。」

「そうですね。まあ、落雁も質の悪いやつは美味しくないんですけどね。やっぱり、何事も手間暇かけて拵えたものには、その価値がありますな。」


などと他愛もないことを離しながら、カメとウサギは日が傾くまでのんびりとお茶を楽しみました。


「また天気の良い日に、いかがですか。川沿いなども清々しくておススメですよ。」

「絶対、行く。」


 こうして、ウサギとカメはしばしば居心地の良い場所へ出かけては、野点をゆるやかに楽しむようになりました。やがてウサギは老いて一足先に亡くなりましたが、その後もカメは野点の際には必ず2匹分のお茶を用意しつづけているそうです。めでたし、めでたし。

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