【短編】幼馴染をNTRれたアニキが今になってよりを戻そうと彼女に言われて即断ったし、次の恋愛もエグいあてつけにしか見えない話

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【短編】幼馴染をNTRれたアニキが今になってよりを戻そうと彼女に言われて即断ったし、次の恋愛もエグいあてつけにしか見えない話





「断る」

「うぅっ……!!」




 幼馴染の泪条るいじょうひとみさんの頼みを、彼―――私のアニキにして現役ボカロP(顔出し済み)、一条いちじょう真一しんいちは一蹴した。




 わざわざアニキたちの大学のキャンパス内のカフェに来てくれたのに申し訳ないと思ったけど、だからってさっき彼女が言った頼みを承諾するかというとNOらしい。





 これが普通の元彼と元カノだったら、みんなただの痴話げんかと見做して見過ごしているところかもしれない。

 ただこの日は、少し周りからの視線が痛かった。

 彼女の職業が、その理由だった。




 彼女は、アイドル。

 歌って踊る、国民の恋人。

 それも、同じ音楽業界にいるアニキなんか目じゃないくらい人気の若手注目アイドル




 ……そう、彼女はアイドル、というよりアイドルだった、というのが今は正しいのだろう。

 現在の彼女は、既に事務所を退所している。

 芸能生命にかかわる問題―――スキャンダルを起こしたからだ。





「よりを戻そうと言われても、俺はもう君とは関わりたくないんだ。ごめんな、ひとみ」

「ねぇシン君……もう一度チャンスを頂戴? また昔みたいに仲良くやろうよ!」

「その昔の思い出を汚したのは、君自身だろ」






 昔と全く変わらないあだ名で、アニキのことを呼んで来るひとみさん。

 はたから見れば微笑ましい光景なのかもしれないが、その事実にアニキは反吐が出ているようだ。






 確かに幼稚園の頃の彼ら(一応私も)は、実の兄と妹のように仲が良かった。

 中学に入った頃に彼女がアイドルデビューし、アニキがボカロPを志し始めたときは、職業柄堂々と付き合うことこそなかったものの、それぞれのジャンルでトップになったら結婚しよう、と、将来の約束もしていた。






 


 だが、そんな関係も、あの日すべて打ち砕かれた。

 三年前、アニキが高一だった夏の日、ラブホテルからV系バンド・MANAGING マネイジングTIDEタイドのボーカルと出て来た彼女のスキャンダルを暴露系ユーチューバーが暴露した、その日に。

 そう、あの日アニキは彼女を寝取られ、彼女はアニキを裏切ったのだ。






「大体君には、”MANAGING TIDE”の"Soul-Chris"さんがいるじゃないか。あの人と一緒になればいい」

「シン君も知ってるでしょ……あの人は最低のクズだったのよ! だから麻薬所持で捕まっちゃったのよ!!」

「三年付き合っておいて、彼を庇う気もないのか。俺のこともそんな風に裏切ったわけだな」

「そ、それは……」







 ひとみさんの言葉は、傍から聞いてても白々しかった。

 なびいたV系バンドのボーカルのことを今になってクズ呼ばわりしてはいるが、少なくともアニキは誠意が一つも感じられていないようだった。

 まあ確かに本当によりを戻す気があるなら、明らかに彼の影響であろうV系風のシャツやネイルやなどをつけてここにはこないだろう。





「ねえ愛ちゃん、あなたからも何か言ってよ!」

「い、いやー、アタシも今アンタとは他人なのでなんとも……」

「で、でもあなただって昔は私に懐いてくれたじゃない……!!」

「泪条さん、もうおよしになったら?」

 ひとみさんのその言葉に答えたのは、アニキでも、私―――現役JKギャルの一条いちじょうあいでもなかった。




「あなたが彼の幼馴染であり、かつての将来を約束した仲だったということはわかります。でも彼の現在の恋人として、今のあなたの言動を見逃すわけにはいかないわ」

 凛とした口調で、元カノである泪条さんの言葉を遮るのは、私とアニキと三人でテラス席のテーブルに座っていた人物。

 アニキの今カノだった。






「彼にとって、あなたの愛は所詮偽物でしかなかった。私の愛こそが、本物だったのよ」

「……あなたに……あなたになにがわかるっていうのよ…………!!!」

(いやはや……)

 泪条さんは、眉間に思いっきり皺を寄せながら。










(何回見ても、今アニキが彼女と付き合ってるの…………)

 彼女―――今のアニキの恋人に、向き直り。

 彼女の名前を言った。











類似条るいじじょうひとみ…………!!!」








 


 類似条ひとみさん―――アニキの今カノさんにして、泪条ひとみのものまねタレントに。

(泪条さんへのエグすぎる当てつけにしか見えないんだよなー…………)






「彼女と違って君は本物だ。そう言って、彼は私に告白してくれたんですよ」





 今でこそ本気で愛し合っている類似条さんとアニキ。

 私は類似条さんと何度も顔を合わせているから、二人が本気で愛し合ってるのはわかる。

 わかるけど。

(泪条さんのこと意識してないと、逆に彼女と付き合おうって思わなくない……?)

 出会った時点では、アニキの中で彼女に対して負の未練というか、ある種の復讐心があったように思えてならない。

 さっき言った告白の言葉とか特に。







◆   ◆   ◆







「ねぇシン君、お願い、こんな女なんかより私とまた彼女になってよ。 同じアイドル仲間の松本まつもとその子さんに話をつけてもらって、あいつとはすっかり縁を切ってるから!」

「その件なら、私も聞きました。でもね、あなたは信用しない方がいいって言われてるんです、同僚のまね本その子さんからね」

国生こくしょう静香しずかさんも、相談に乗ってくれて、あいつに私には絶対に近づかないようにって言ってくれたの!」

「そういう話なら、同僚の酷似生こくじしょう静香しずかさんから、国生さんは人として信用できないと聞いていますわ」

「後輩の左右田そうだ綾香あやかちゃんも、私が真一くんとよりを戻すためなら間に入ってくれるって言ってたのよ!!」

「その件なら、後輩の相似田そうじだ綾香あやかさんにガード役を頼んでおりますわ。アナタが彼と話すとき、私以外誰も割って入らないようにね」






 す、すごい……

 すごいよこの会話……!?!?!?




「私にあの男を紹介した対馬つしまかなえちゃんとも、縁を切ってる!」

奄美大島あまみおおしまかなえないちゃんが言うには、昨日バーであなたと彼、彼女の三人で飲んでいたそうですけど」

「私に黙ってアイツと浮気してた瓜林うりばやし聖子せいこさんとも、別れさせた!」

瓜二うりふたにせい子さんの情報によると、昨日その方とラブホテルから出てきたばかりだそうですけど?」

「あとアイツの前の彼女だった平和島へいわじま美保子みほこちゃんのことも、洗いざらい週刊誌に話すつもりだから……」

断么島たんやおじま模倣子もほこちゃんが言うには、彼女はアイドルらしく清純そのもの、黒い噂があるとすればガセ確定、だそうですわね」





 昼ドラでよくある修羅場のはずなのに、登場人物の芸名がチープすぎて何も頭に入ってこない……!!!

              あとその界隈にいて清純派やれてる平和島さんすごいな……





「まあ口で何と言おうと、裏でいつMANAGING TIDEのSoul Chrisさんに会ってるか知れたもんじゃないしな。酷かもしれないが、俺のお前に対する信頼度はそれだけ低いってことだし、それもお前の自業自得ってことだよ、ひとみ」

「ひ、ひどいよ、シン君……!!」





 ……あれ、待てよ。








MANAまねGING TIDEのSoul Chriそっくりs……?)









 ―――多分そのバンドも、ものまねバンドだよね……?

 RISING TIDEとかそういうバンドの……

 







「大体さ、そのネイルとかシャツはなんなんだよ。まんま元彼のバンドじゃねーか」

「こっこれは違う!! 彼らのものまねバンドの”MANAGINGマネイジングTIDEタイド”っていうグループがいるの、今は彼らのファンってだけなの!!」

「ハッ、元彼のものまねタレントと付き合うってことはまだ彼らの幻影おっかけてるってことじゃねーかよ。尻尾を出したな、ひとみ」


 


 MANAGING 似TIDE……?

 ものまねバンドのさらにものまねバンドできてない……?

            あとアニキ、微妙にブーメランだよ今の発言。




「ともかく、泪条さん。今彼は私とデートしていますので、第三者にはお控えいただけると嬉しいのですが……」

「はァ? 大体あなた…………今はタレントじゃなくて彼の恋人として話しているのだから、芸名ではなく本名で話したらどうなの? ねぇ―――」

 信用できなさを看破されて困ったのか、違うところに怒る泪条さん。

 一般人の私はタレントとしての彼女しか知らないから、類似条さんの本名を聞く機会が無かったけど。








「――――――――――――北条院琴葉!!!」

「ブフッ!!!」

「…………汚いぞ、愛」

「……うん、ごめん、アニキ」








 いやなんでアイドルよりアイドル名っぽいの!!??

 そっち名義で活動した方がよくない!!!???

 個人のものまね一本でやっていくとかじゃなくて……







「いくら日本有数の財閥・北条院家の御令嬢だからって、調子に乗るんじゃないわよ!!」






 そんでお嬢様かい!!!!! 名前のイメージ通りに!!!!!

 あ、なるほどお嬢様が道楽としてものまねやってるんだ!?!?

 ものまね芸で食って行こうとしてこうなった、じゃなくって!!?

 すごいななんか、こんなゴージャスな方がこんなエンタメやる、そのギャップが……!!!







「私が彼と別れるのは良い。でもあなたなんかと一緒にいるのは気に食わない。明日だって明後日だって、シン君の前に来てやる……!!!」

「はぁ……いい加減にしてください。明日は彼と酷似生静香さんとでお茶会、明後日は彼と瓜二つ偽い子さんとでオペラ鑑賞なのですから」

 恨みごとのような泪条さんの言葉を、類似条さんははっきりと返す。

 あとどうやら彼女の同僚のものまねタレントは揃ってお嬢様のようだ。

 その界隈で何がどうなってものまね芸が流行したのだろう……




「ねぇシン君、あなたにはこんな家柄しか取り柄のない女じゃなくて、また私を見てほしいの。私、一流芸能事務所に所属したアイドルなんだよ!? 一流俳優や一流アスリートもファンだって言ってくれたアイドルなんだよ!? なんで私を見てくれないの!?!?」

「…………」

 元アイドルとしての体裁もお構いなしに罵倒する泪条さんに、完全に無視を決め込むアニキ。

「お言葉ですが、真一さんと出会った時私は実家のことを告げておりませんし、彼は家柄で私を選んだわけじゃありませんのよ? 大体今のあなたの発言……」

 代わりに反論したのは、類似条さんだった。





「人の権威に便乗するだなんて、恥ずかしくないんですか?」

(…………?)





「芸能人なら、女なら、自分の個性だけでアピールしようとは思わないんですか?」

(……………………?)





「今のあなたみたいに他人の栄光に乗っかろうとする人、私軽蔑します!」

(………………………………?)






 ―――いやそりゃ、アニキの彼女さんだから何も言わないけどさ……





 すっごいこのテラス席の周辺をブーメランがビュンビュン飛び交ってる幻が見えてるんですけど……







「あ……あなたみたいな人に乗っかるしかできないタレントと違って、私はアイドルなのよ!!!」

「私は私の芸に誇りを持っているの、スキャンダルを起こしたあなたとは違ってね」






 いや今カノとしての自信とかゴージャスさでギリギリ説得力出してるしよく聞いたらおかしなこと言ってないけど……

 どうしても【誰が誰に】感がぬぐえないよ類似条さんのその台詞……!!!

 【どの口が】感ではお互い割といい勝負だよ……!!!!!





 その時だった。

 どこからともなく、サイレンの音が聞こえてきた。





「上沼恵美子さん」

「え……? な、何でしょう」




 パトカーから二人の部下を従えて出てきた刑事らしき男性が、泪条さんを本名で呼んだ。





「あなたに著作権法違反の容疑がかかっています。署まで来てもらいましょう」





 えっ、パクられ……いや、ものまねされた当人が更にパクリ?

 ……あ、そういえばスキャンダル直前に自分で作詞作曲した曲をリリースしてたなこの人。

 どっかで聞いたことあるな―とは思ってたけど。




「やれやれ、裏切りだけじゃなく盗作とはな……どこまで幻滅させれば気が済むんだ、ひとみ」

「ちっ、違うのシン君。後で了承を得ようと思ってて……」

「いい加減にしなさい!」

 語気を荒くして、立ち上がる類似条さん。







「あなた……恥ずかしいとは思いませんの? 人の模倣なんて!」






 ……






 ………………






 言  い  切  っ  た  …  …  !  !  !






 この人、言い切った…………!!!!!





 しかも今までで一番でかいブーメランなのに今カノとしての存在感と持ち前のゴージャスさだけで押し切った……!!!




「くっ……覚えてなさい、類似条ひとみ!!!」




 泪条ひとみは警察へと連れられ、その場を去っていった。

 感情の矛先をいつの間にか元彼から恋敵へと変えた捨て台詞を吐くという、妙にリアルな元カノっぷりをちらつかせながら。




「はぁ……ろくでもない女だったな。別れてよかった」

「確かにろくでもないけど、アイドルをそんな風に振り切れるアニキもまあまあすごいよ……」

「それだけ、琴葉さんが魅力的だからだよ」

「ふふっ、真一さんお上手ね」

 元カノが去り、二人だけのイチャイチャタイムがまた始ろうとしていたその時。




「あっシンゾー!! こっちだよー!!!」





 今日のダブルデートの四人目の主役―――私の彼氏ぴっぴが来た。





「いやぁ、真一お義兄さん、いつもお世話になってます……」

「真三くん、相変わらず腰が低いねぇー」




 シンゾウ―――ボカロP・一条真一のものまねタレントの三条真三さんじょうしんぞう君は、腰を低くしてアニキに挨拶した。

 元彼の一条真二いちじょうしんじや、二条真一にじょうしんいちなんかよりも、よっぽど気が合うし、一緒にいて楽しい恋人だった。





 いつの間にやら、私たち兄妹は二人ともものまねタレントを恋人に持っていた。

 聞いた話だと、類似条さんの母親も、シンゾウの両親も、ものまねタレントだそうだ。

 そして、何でもシンゾウのお母さんは歌手をしていた類似条さんのお母さんのものまねタレントで、類似条さんの叔父さんはシンガーソングライターだったシンゾウのお父さんのものまねタレントなのだという。






 尚、それをギャル友に言ったところ、なんでかわからないけど、ものすごく混乱したような表情で「一回相関図書いて見せて?」と言われた。

 なんで混乱してたんだろう?







◆  二年後  ◆






「じゃ、類似条さんの誕生日と……」




 二人の前で、私はノンアルコールのビールの入ったジョッキを上げた。




「アニキとのカップルチャンネル【類似ップル】の登録者数100万達成を祝して、カーンパーイ!!」

「「カンパーイ!!!」」




 大ヒットボカロPのアニキと私と、大人気ものまねユーチューバー・類似条ひとみさんの三人で、ジョッキをかち合わせた。

 今日は類似条さんだけでなく、アニキにとっても、記念すべき日だった。

 




「いやー、でもすごかったね。こないだのあの人の炎上案件。批判コメントまみれだったし」

「思い出させるなよ愛……考えただけで腹が立ってくる」

「いやいや、でもでも! あの人達のあの動画があれだけ炎上したってことは、アニキたちの知名度や好感度が上がってるって押しも押されぬ証拠じゃん! ノリにノッてるんだよアニキたちも!!」

「……ま、悪い気はしないね。 な? 琴葉っ」

「真一さん」

「何」

「カップルユーチューバーとしての記念日ですよ。今は、芸名の、類似条ひとみ、って呼んでほしいです♡」

「ごめんごめん、ひとみっ♡」チュッ

 二年間で二人の絆はますます深まり、今や実の妹がいてもお構いなしにキスできるほどのイチャイチャっぷりだった。

 芸名だと下の名前元カノと一緒なんだけどそこは気にしないのかな、ということはさておき。




 結局あれから二年、類似条ひとみさんは今も泪条ひとみのものまねを続けていた。

 彼女個人のユーチューバーチャンネルでは、最初泪条さんの楽曲の【歌ってみた動画】をヒット曲からマイナーどころまでアップしていたが、最近はものまね力だけでなく純粋な歌唱力もブラッシュアップさせた結果、他アーティストのヒット曲の【泪条ひとみによるカバー風歌ってみた動画】などを配信している。

 コメント欄でも【泪条out 類似条in】【V系と寝なかった世界線の泪条ひとみ】などのひねった賞賛コメントが多く、概ね好評のようだ。





 そして半年前に始めたのが、交際と同棲を公表したアニキと類似条さん、二人によるカップルチャンネルの【類似ップル】だった。

 内容は何てこともない、お互いの作った手料理を食べ合ったり、旅行して色んな所を回ったりと、お互いの恋愛生活をそのまま配信しているだけのもの。

 でも、だからこそ【類似ップル】は人気となった。

 内容の深くなさ、流し見しながら甘い雰囲気にひたれることこそ、カップルユーチューバーチャンネルの利点なのだから。





 イチャイチャしてるアニキと類似条さんに内緒で、こっそりスマホでユーチューブを開き、話に出た炎上動画を確認する。




 チャンネルの名前は、【泪ップル】。

 スキャンダルの上に盗作騒動にまで見舞われた泪条ひとみさん(罰金800万円支払済)と、MANAGING TIDEのSoul Chrisさんから十四回くらいとっかえひっかえしたあげくの彼氏とのカップルチャンネルだった。

 内容はというと、何てこともない、お互いの作った手料理を食べ合ったり、旅行して色んな所を回ったりと、お互いの恋愛生活をそのまま配信しているだけのもの。

 まあ要するに、【類似ップル】のパクリチャンネルだ。

 当然コメント欄も、【全く反省していない】【盗作癖がついている】【だらしなかった世界線の類似条ひとみ】と、荒れ放題。




 最新動画も、【類似ップル】をパクった件に関しての謝罪動画だった。

 厳粛な表情の割にいつもの私服ということや、開始早々の【これ以上の誹謗中傷には法的措置を取らせていただきます】という発言からして、謝罪と言う名の脅迫動画だけど。

 ともかく。




(ものまねする側とされる側が二年で完全に逆転しちゃったなー……)

                あとこんなメンタル強いなら普通に芸能界復帰すればいいんじゃないの……?




「そういえば、愛さん?」

「はい?」

「次に【類似ップル】で上げる動画のテーマ、決めようと思ってたんですけど、ちょっと相談に乗ってくださる?」

 カップルユーチューバーを始めてからというもの、企画を担当している類似条さんはよく私に動画内容についての相談をしてくる。

 私みたいな現役女子大生がチャンネル登録者の主たる層、というのがその理由だ。





「これが、その内容なんですけど」

 サムネの絵コンテ案の書かれた紙を私に手渡してくる類似条さん。

【【謝罪】この度は、イチャイチャしすぎて申し訳ございませんでした】

「…………………………………………」

 二人の背景も服装も、【泪ップル】の最新謝罪動画そっくりだった。





(自分のものまねを、さらにものまねしてる……)

 ものまね力すっご……

 多芸だけど、ものまねだけは譲りたくないん芯の部分なんだろうな……

 本物への扱いはともかく……





 と、思ってたところに、着メロにしていたアニキ作曲のボカロ曲のメロディがスマホから鳴った。 





「ハーイ、もしもし???  あ、十分じっぷんで来れる~~?? ヤッター!! うん、待ってるね~~!!!」

 思わぬ来客に思わずテンションが上がる私を、アニキが訝しげに見ていた。




「…………愛お前、今度はちゃんと長続きする彼氏なんだろうな」

「だーい丈夫だって。なんとかやってくから」

「俺としては、できたら真三くんと復縁してほしいけどな、良い子だったし」

「あーもう!! とっくに別れたんだからアイツの名前出してくんな!!!!! 今度の彼氏ぴっぴはアイツなんかと全然違うもん!!!」

「そー言って何人の彼氏かれしと別れたんだお前……」

「ほんとだから!! 今度はほんとーにアニキも認めるいい彼氏ぴっぴだから」

「本当か? 本当にいい奴なんだろーな? その、えーと……………」

「いや思い出せないんかいっ……」




 妹の今カレの名前も覚えていないなんて、 実の兄にあるまじき薄情さだ……

 類似条さんが耳打ちして、アニキに彼氏の名前を教えた。





「…………十二条真二十一じゅうにじょうしんにじゅういちとは…………」

「真一さん、魅力的だからものまねタレントの方も多いんですよね」

 今カレ―――アニキのものまねタレント、十二条真二十一に会える嬉しさを噛み締めながら、私は思った。

 芸能界ではものまねの標的になることは人気の証拠だが、本人の大ブレイクとともに、アニキのものまねタレントの数もぐっと増えた気がする。




「そうだよねー、何てったってアニキは……………………………………アレ?」

「……どうした? 愛」

「…………いや、なんでもない。それよりさー…………」





 自分でこんがらがりそうになったので、脳内にふと湧き上がった疑問を追いやって、私はアニキたちと他愛無い会話をしながら、今彼を楽しみに待ち構えるのだった。









 【…………なんでボカロじゃなくてPの方が?】という疑問を追いやって。






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