第四章
プレゼント
────……
「絋ーっ!見ろよ、雪降ってきたぜー?」
「ホワイトクリスマスになったな!」
「おい大地、龍!今日、はしゃぐのは多目に見てやるけど………雪で滑んなよ?」
「絋、心配しなくていいぞ。アイツらは一度痛い目みて大人しくなった方がいい」
「んだとー!?臣、てめえどーいう意味だよっ!………あ」
「………!!ばか、寄ってくんじゃねえ!!」
ガシャンッ!!
「……ほらみろ。大丈夫か?」
「へへっ、絋……ごめん」
「俺を巻き込むんじゃねえ」
「ぶっ、お前らダセー!!」
「何やってんだよ」
「………龍、拓也、お前らも笑ってねぇで手貸せ。………ぶっ」
「絋も笑ってんじゃねえかよ…、ほらヘタクソ。はやくどけ」
「ヘタクソじゃねえ、ちょっと滑っただけだ!」
「………大地、お前スピード出しすぎなんだよ。雪の日くらい少しは考えろ。二人とも、怪我ねぇか?」
「ああ」
「大丈夫だっ!」
「………ろ」
「…………絋っ!」
「………ん……」
「ん、じゃないわ!この寝坊助!」
「もうお昼だぞ?」
眩しさと同時に視界に入ってきたのは、あたしの真似なのか態ときょるんとした顔から怒り顔に変えて、表情の忙しい喜壱と呆れ顔の明だった。
「………あれ、夢…か」
「何の夢見てたんや!」
「………別に」
あー…、懐かしい夢見ちゃったな…。
確か去年の紅龍でやったクリスマス暴走の…。
きっと、白虎でクリスマス暴走やるなんて言ったせいでこんな夢見ちゃったんだな…。
来週はもうクリスマスだし。
そういえばあの時は……
「なぁ、はよお昼行かへんか。腹減ったわ~」
「じゃ購買行くか」
「今日は学食の飯がええなっ。久しぶりにピリ辛担々麺食いたいんや!後、肉丼っ!」
「はあ?お前の腹の我が儘に何で付き合わきゃいけねえんだよ」
「なんや、明は毎日パンで飽きひんのか?絋もパンばっかやったら嫌なんちゃう?」
「……あたしは別にどっちでもいいけど…」
「……!!俺は今日どうっっしても麺と飯が食いたいんやっ!なあ、行こ?学食行こうやーっ!」
「………分かったよ。分かったから、揺らさないで。明、パンは諦めて学食行こ?」
「……仕方ねぇな。喜壱、絋から手ぇ離せよ」
「あっ、すまんっ!」
…………この野郎…。
喜壱に肩を掴まれて、前後にブンブンとものすごい勢いで揺らされたせいで、あたしの頭の中はぐるぐるしていた。
寝起きにキツイって。
学食に行くと、喜壱は真っ先に担々麺と肉丼を頼むため食券を買うところに走っていった。
この大人数を掻き分けて前に進む、喜壱の神経の図太さは半端ない…。あたしと明はまだ、メニューの前なのに。
「絋、何にする?」
「んー…、あたしは塩でいいや。塩ラーメンにする」
「じゃ、俺は味噌にしよっかな」
「うおぉーい!絋、明あ~!決まったかぁー?決まったなら、そっから叫びぃー!!」
「塩と味噌頼むぞーー!」
「了ー解っ!」
………アホだ。なんだ、この遠距離会話。
おかげで周りの目線が気になるんだけど…。
「……あ、絋!」
「………総?」
あたしを見つけるなり、総は両手でエビフライ定食が乗ってるお盆を持って、駆け寄ってきた。
「……あーあ。絋、髪の毛長いままで良かったのに、何で取っちまったんだよ」
「……いい加減、その話題から抜けてくれない?」
あの日1日だけで結局、エクステは取った。それから、未だに会う度にこんな感じで言われる。
「髪が長いって、絋が!?」
隣にいる明は目を見開いて、あたしと総を交互に見た。
「あー、明は知らねえのか」
「総、もういいから」
「え、何?すっげー気になるんだけど!」
「持って来たでー!あ、総やん!!どないしたん?ま、ええか。せっかくやから一緒に食べへん?」
にぱっ、と八重歯を出して嬉しそうに笑う喜壱に、総はフッと笑って、仕方ねぇなぁとか言いつつ、同じ席に腰をおろした。
「………なあ、喜壱の食欲っていつもこんななのか?」
総は、目を丸くしながら口をポカンと開けて目の前の喜壱を見ていた。
まあ、あたしも初めてみた時は驚いたけどさ…。
「おう!俺はこのあとデザートもいけるで!」
喜壱のご飯は、特盛肉丼に大盛担々麺。ここの学食の特盛や大盛はタライくらいの大きい器に入っていて頼むのはかなりのチャレンジャー。それを2品も平らげるから、喜壱の胃袋はもはやブラックホール並みだ。
「………」
総は顔を引きつらせながら絶句していた。
「……総、大丈夫?」
「……はは、信じらんねえ」
「なんや、男ならこんくらいいけるやろ!」
「うわ!喜壱、食いながら喋るな!米粒飛ばすなっ!!」
「あっはっは、すまん!」
「……ったく。総、ごめんな」
「いや、見てて飽きねえよ」
なんだかこのメンツ、変な組み合わせだな…。でもちょっと面白い…かも。
「なあ、白虎はやっぱ今年もクリスマスは暴走するのか?」
「ああ」
「ふーん。聞いた噂じゃ、あの紅龍もクリスマスは遠出で遠征するらしいから、運がよけりゃ会えるかもしんねぇぞ」
「まじかよ!!」
「ぶっ……!!ゲホッ、ケホッ、ゴホッ」
「え、絋?大丈夫か?」
…………っ、思いっきり吹いちゃったよ…。何その情報…。でも、残念だけど、白虎の暴走ルートと紅龍の暴走ルートは被ってない。今年、紅龍がルートを変えるなら話は別になるけど。
「会えないから、期待しない方がいいと思うけど…」
「え゛?」
3人は声をそろえて悲しそうな顔をした後、すぐに眉間に皺を寄せた。
「……なんで絋がそんなこと言うんや?」
「何か知ってるのか?」
「………いや、別に…。……な、何となく?」
やばい、墓穴掘った…。つい、ポロッと言っちゃったよ。3人とも完全に箸止まっちゃってるし。あたしは冷や汗をかきながら、言い訳を必死に考えた。
「えっとその、か、勘だから!だって紅龍がいたあたしの地元って、ずっと遠くだよ?普通に考えて会える確率低いよ」
「あー…、そっか」
「なるほどなあ…」
「けどよ、向こうも遠出、俺たちも遠出でちょうどバッタリ会えるかもしんねぇじゃねえか!」
総…、そんなムキになんないでよ…。明と喜壱みたいに大人しく納得すればいいのに。
「まー、会えたとこで“桜龍”はもういねぇもんな」
「そうやな。あ、“桜龍”の事ですっかり忘れとったけど、今の紅龍の総長って誰なんやろ?総、何か知っとるか?」
「確か“桜龍”がいた時の副総長やってた奴がなったって聞いたけど…」
………そんなことも知ってたのか。いや、あってるんだけどさ。
今の総長を決めたのは、あたしだ。代々“紅龍”では、引退する総長が責任もって次の総長を任命することになってるから。もちろん、仲間の支持とかも考えて。
アイツは、しっかりしてるから大丈夫だとは思うけど…。無茶してなければいいな…。
「なぁ絋、ナルトもらってもええ?」
「お前、まだ食う気かよ!」
「明ー、お前は俺の腹の事情をよーく分かってるやろ?」
「……ハァ。そのブラックホール何とかならねえの?」
喜壱はお腹をポンッと叩いて「ならん!」と言って笑った。
「総も、エビフライ食わんなら俺がもろてもええ?」
「いや、やらねえよ」
総の鋭い睨みで、喜壱は渋々あたしのナルトだけ箸で持っていき、「総のケチ!絋を見習わんか!」と文句をブツブツ言った。
結局、お昼休みギリギリまで学食にいて、喜壱のデザートの特大杏仁豆腐を食べ終わるまで付き合ってあげた。
午後一番の授業は国語で、まっちゃんだった。相変わらず、まっちゃんの心地いい朗読はあたしの眠気を誘い、午前あんなに寝たのに、またウトウトしてきていた。意識がある内に、あたしはさっき夢で見た時思い出した、クリスマスについて考えていた。
そういえば……そう、あの時、去年は、紅龍の皆にピアスをプレゼントしたな…。一昨年、全員が一人一人あたしにプレゼントをくれるもんだから、去年はあたしも用意したんだよね。白虎の皆には、して貰ってばっかで、何も返せてないから何かしたいな。
ピアスじゃ、俊や由樹は開けてないし、どうしよう…。いや、紅龍と同じものあげるのもちょっと嫌だよね。そもそも、何貰ったら喜ぶんだろう?
クリスマスまで一週間…。明日は土曜日、か。
…………決めた。
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