第2話

・・・+・・*・・+・・・*・・・+・・*・・+・・・


唇の熱に縋り合った病室での夜明け。



もっと、もっと 深く…

沸き上がる感情を抑える術など知らなくて


触れ合わせるだけじゃ足りない。



舌先でそっと唇の隙間をなぞれば玲奈の身体がピクッと揺れた。


それでも離そうとしないと悟れば、直は静かに玲奈の頭に手を添えた。


押さえ付けた事を詫びるように、そっと頭を撫でながら

唇の隙間に舌先を滑らせる。

綺麗に並ぶ歯列を辿り、その門を開かせた。



柔らかな舌に触れた。

玲奈の身体も舌も反応して小さく動く。


ゾクッと総毛立つ。

柔らかくて温かくて無防備で。

唇の奥でこんなに甘い世界が展開されていたのだと知った。

優しくそっと動くと吐息が直の口に流れ込む。



息苦しいのだろうか。

舌を引き抜き、唇を離す。


濡れた瞳と酸素を求め小さく喘ぐ唇はベッドの照明に輝き

"扇情的"なんて都合の良い処理を脳がすれば


角度を変えて深く重ね合わせ

直の舌は玲奈の蕩ける口内を暴いていた。



生きている事が、嬉しいと思う。


夕方の襲撃

腫れ上がる背中

玲奈が凌辱された夢



それが端を発し


柔らかな唇と熱い吐息


そこに感じる命を



確かめ合うように

喜び合うように


二人は唇を何度も重ねた。




ふいに押された肩に、直は我に返る。


熱はスッとひいていった。


「…な、直くん。駄目だよこんな事…。」

困惑を湛えながら 立ち上がって


「もう少し休んだ方が良いよ!」


貼り付けた笑顔で玲奈は部屋を出て行った。



友達としてでしか俺を見ていないかもしれない。

負傷した俺に負い目を感じただけかもしれない。



玲奈の足音と隣りの病室のドアの開閉音。




唇に溺れて、なし崩しで築いた甘い幻想は

数分後、拒絶と絶望の毒に変わった。

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