第19話 即席即戦力

「で?」

「ん?」

「いやだから何をすりいいんだよ‼」

「そうね、アンタ身体で覚えるタイプでしょ」

 元陸上部ミリア。

「走るのか?」

「いえ、近所の怪異の位置情報送るからソコ行きなさいな」

 通話が切れて程なくスマホに情報が表示される。

「フフフ…一晩で追い抜いてみせる‼」

「無理や…それは無理や」

 ブランブランと白虎ハッカをぶら下げたままミリアは走りだした安っすいサンダルで。

「この角を曲がったところだな…いたー‼」

 なんか古いコインロッカーの前でグズグズしている黒い影。

「なんや楽勝ムードやなアレ」

「行くぞオラー‼」

 白虎ハッカを振りかぶり、黒い影に突進していくミリア。

 安っすいサンダルとは思えぬ速度である。

 黒い影と、すれ違いざま横なぎに白虎ハッカをスイングさせる。

 スカッ……

 なんか空かしたように空を斬り何の手ごたえも感じない。

「おやっ?」

「なんや手応えなかったで…ミリミリ」

 黒い影もコインロッカーの前で何事も無かったかのようにグズグズと蠢いている。


 PiPiPiPi……

「はい…というか…おい?」

「バカね修行だって言ったじゃない」

「なに?どういうこと?」

「アレはね、今のアンタ達じゃ手に負える相手じゃないのよ」

「メタルキング的な怪異じゃないの? 会心の一撃さえでりゃドーンとレベル上がる的な?」

「そんな都合のいいもんないわ」

「どうすんだよ‼」

「よく聞きなさい、アンタと白虎は他の娘と違うの繋がりがね」

「アレか? 深い絆で繋がっている的なやつやんな‼」

「バカ猫…いい、ミリアは死んだのよ、忘れてない?」

「忘れるか‼ 自分が死んだことだぞ忘れるわけねぇだろ‼」

 当然のように忘れてたミリア。

 言葉に動揺が混じっている。

「アンタねぇ…まぁいいけどね…他の娘と違うのはね、アンタの場合、魂的な結合が強いのよ四聖獣とね、大げさに言えば、そうね魂が一部融合している感じかしら」

 サラッと、とんでもねぇことを言いだすDrキリコ。

「……ん?」×2

 当然のように理解していない1人と1匹。

 ソレを察し無視して話を続けるDrキリコ。

「他の四聖獣は、いつものことで勝手に武器化とかしているわけで、別に、あの娘達がどうのってわけではないのよ、なんなら戦いをリードしているのは四聖獣なの、ところが今回の白虎はレアケースというか…初めてのケースというか…ね」

「そうなん?」

 白虎がミリアに尋ねる。

「いや…聞かれても」

「うん、だからね武器化も簡単じゃないというか、武器化しないみたいというか…まぁ予想できないわけよこの先もね」

「はぁ? 無責任な‼」

 ミリアはキレ気味。

「ワシのせいちゃうんや、それだけでもホッとしたわ~」

「安心してんじゃねぇ‼ 今期戦力外じゃねぇか‼」

「そりゃアカン‼ 白虎言うたらそりゃもう勇猛果敢の代名詞や、ソレが猫のまま戦力外通告って…1年目でやで、そりゃアカン‼」

 白虎ハッカ、遺憾の意を表明。

「だからね、ふんわり言うけど、魂を繋げる的なフュージョン的な感じで融合してみてちょうだい」

「…はぁ? 融合ってなんだよ‼」

「融合よ、アンタ勘違いしてない結合じゃないわよ、ほらっアンタすぐそういうことになりそうだからね、なんでも受け入れちゃダメよ先っぽだけとかないのよ実際にはね」

「考えてねぇわ‼ ネコとすることなんか考えるか‼」

「ネコネコ言いなや‼ 基本トラやぞ‼ もうちょっとしたら立派なトラ柄模様がでてくんねんぞ‼」

「でたらアタシを襲う気かこの野郎‼」

 ガンッ‼

 コインロッカーの影で言い争う1人と1匹を金属の破壊音が遮った。

 チラッと陰から覗くミリアと白虎ハッカ。

『く』の字にひしゃげたコインロッカーの前にハッキリとした黒いヒトガタ。

「…怒ってはるん?」

「なんか人っぽくなってない?」

「……アレ…土地神クラスよ…悪い方のね…ゴメンね頑張れとしか言えないわ、じゃあね…死ぬほどの怪我してもドンマイよ死なないから」

 通話は途切れた…。

「なに土地神? 響きだけでヤバそうじゃない?」

「ミリミリ、緊急招集や‼ ワシだけではアカン、最弱やでワシ」

「あわわわわ…」

 慌ててグループラインに『すぐ来い』とだけ入れたミリア。

 後は位置情報から誰が何分で来るか?だけなわけだが…残念なことに間に合いそうには無かった。

 ドシドシドシ…‼

 ものすごい足音で向かってくるヒトガタ。

「アカンアカンアカン‼ 無理よりの無理やでアレ‼」

 初速から全開で逃げ出すミリアと白虎ハッカ。

 幸いに足はそんなに速くないヒトガタ。

 とはいえ振り切れるもんでもなく逃げ回る。

 そして…

「あっ…」

 袋小路に追い詰められたミリアと白虎ハッカ。

 影からヌラッと顔を覗かせるヒトガタ、追い込んだことを理解したのかニタッと笑う。

 心なしか徐々に人っぽくなっている。

「ただキモい…見た目も覗く感じもキモい…なんでアタシの時だけ? キモい系ばっかなの?」

「せやな~、ファーストコンタクトから盗撮犯やったしな~」


 それは宿命よ…嬢の才能が引き寄せるのよ。

 モニター越しのミリアを観て思うDrキリコであった。



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