第6話 ドキドキ☆決闘タイム

 睨み合うデュラと山垣。先に仕掛けたのは山垣だった。

 山垣の魔法、毒ガエルを生み出す魔法はそれ自体を自在に操ることができる。

 例えば今やっているように数秒後に爆発させ、毒液を浴びせる事やまとわりついて動きを封じる事など。彼の発想次第でいくらでも奇跡を起こせる。


 しかしその肝心の毒が効いていない。彼は何事も無いように毒ガエルを切り伏せてじりじりと前に進んでいるが、それに比例して山垣の焦りも高まってくる。


(まただ!なんでこいつは浴びたら死ぬ毒液を喰らっても死なないんだ!?)


 その異常性は他の組員も気付いており、槍長はその事について佐天と話していた。


「あいつ……魔法が効かないのか?」


「山垣はマヌケではありますけど魔法の威力は確かッス。なーんか隠してるんじゃないですかね」


 戦いを見て万が一があれば介入する気でいる佐天だが、山垣も負けじと奮戦している。あまり野暮な真似はしたくないのが本音だ。

 だが配色の色は拭えない。デュラがその気になればもうとっくに山垣の首を刎ね飛ばしているだろう。気にしているのは槍長の隣に置かれている女の様子だ。

 槍長の性格からして約束を違えることは無い。しかし激高して魔法を使う事はありえるだろう。そうなっては誰も止めようがない。


 頼むからそんな展開はやめてくれよと佐天が願い始めた頃、戦況は一転する。

 デュラが返す刀で山垣を逆袈裟に切り裂き、倒れた彼の頭を踏みつけて刀の切っ先を突き付ける。

 勝負ありと言った状況。デュラもこちらを見ているようなので、槍長が手を上げて止めに入る。その顔は難しいものだった。


「扶桑組の期待の星である山垣を倒したのは褒めてやろう。次は俺が出る」


「ハ!?ちょいちょい、アンタが魔法を使う時はシュテルベルケン城に申請しないと……」


「組員をやられて黙ってる訳にはいかんだろうが!……ボスの威厳を見せてやる」


 そう言って山垣を担ぎ、縁側に寝かせる。

 和風な庭にて向き合った二人は、互いに呼吸を見極め機を窺う。佐天が思うに、勝負は一瞬だ。

 そして動く。瞬く間に距離を詰めた槍長が、その左手でデュラの胸に触れたその時、全てが終わるはずだった。


「うお!速いな。……で?」


「冗談だろ……?」


 槍長は自身の魔法が発動しなかった事に動揺し、その場で立ちすくむ。

 動揺が隠せない中、目に入ったデュラの刀に触れると、それは大量の蠅の群れに変わり霧散していく。魔法の力が通用しないのはデュラだけのようだ。


「俺の刀が!なんだよお前!」


「こっちのセリフだ。魔法が効かないサンクチュアリの人間なんて、聞いたことが無い。……佐天、モブハントにこいつの名前は?」


 その言葉を受けてスマホを操作するが、アプリの検索欄には特にない。掲示板を見ても書き込みは無かった。


「無いっス。マジでなんだお前……」


「なら登録しておけ。おい首無し、お前はなんで魔法が効かない?」


 槍長が自身の手を見つめた後に問いかけると、蠅を振り払っていたデュラが気怠そうに答える。


「知らねーよ。こちとら記憶がねーんだ。……なんか知らない?あとニコを戻してよ。もういいだろ?」


 その言葉で全員が毒気を抜かれてしまった。

 リベンジマッチはなんだか気の抜けた終わり方になった。山垣は川内が病院に連れて行ったので安心できる。

 ならばと槍長は縁側に座り込み、いくつかのテストを始めた。

 まず樋口の石化の視線も通用しない。目を合わせなくてはならないと言う制約はなく、視界に入った全てを石化させるのでこれは異常な事だ。

 再度槍長も自身のなんでもハエにする魔法を試したが、まるで意味を成さない。こんな事は初めてなので、全員が頭を悩ませた。


「逆にこいつに効く魔法はなんだ?得体の知れん……気味が悪いな」


「傷付く~……。で?ニコはどうなんだよ。もう満足だろ?」


 デュラが石化したままのニコを見ながらそう言うと、槍長は目くばせをして佐天を動かし解呪のポーションをニコの頭にかける。

 すると石化していた部分が砂に変わってほどけていき、ニコは驚いた表情のまま息を吹き返す。


「だあ!……あれ?あれ?……お客さんが来て……なんかそれ……てかここどこ?ガスが……おえええええ!!!」


 混乱の中、ニコは魔法使いの国に充満するガスに耐えられずその場で嘔吐する。

 流石にデュラも一歩下がったが、それを見てひとつの気付きを得た。


「な、なあ。俺ってガス吸っても吐かないけど、もしかして本当の俺は魔法使いだったりする?」


 その問いに槍長は目を見開いて頷くと、指を鳴らしてクラックを開けながらこう返す。


「その線はあるかもな。ま、今は帰れ。ウチの若いのが迷惑をかけたな」


「あ、ああ……。おい、大丈夫かニコ。帰るぞ」


「おえええええ……早く運んでぇ……」


 デュラがハンカチでニコの口元を拭いながらクラックを超えてサンクチュアリに戻る。

 振り返れば槍長たち扶桑組の幹部が見送っており、樋口に至っては手を振っていた。

 これで面倒事も終わりかなとデュラが行こうとした瞬間、佐天が思い出したかのように言う。


「お前、この国に来た時赤い薬酒って言ったな?それって禁制品なんだが、ひとつだけ大っぴらに密造してる組があるんだわ」


「え?」


「比叡組(ひえいぐみ)。ま、覚えといて損はないかもな。……こっちと行き来するのは無理な話だが」


 そうしてクラックはパキパキと音を立てて塞がり、デュラとニコはモーテルの前に戻された。


「いいんすか、逃がして」


 佐天がそう言うと、槍長は腕を組んでから遠くに霞むシュテルベルケン城を見て呟く。


「今は泳がせておけ。何か……大きな異変の始まりを感じるんだ」


 §



 魔法使いの国に攫われた事件から数日経った。

 ニコは迷惑をかけたなと言って感謝していたが、デュラの胸中は次々に湧き出る自身の謎について考えてばかりでいた。


 モシンナクランのタトゥー、赤い薬酒の記憶、首のない体、魔法が効かない体質。


 何本もの糸が複雑に絡み合った謎。それを前にして、もどかしいがひとつひとつ解いていかないといけない。じれったいがそれしかないのだ。


「俺は……いつまでデュラでいられるのかな」


 モーテルの部屋を清掃しながらそう呟く。

 首から下げるスマホだけが、陽気な音楽を流していた。

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