第33話 君がいなくても過ぎる日々その十一

 12月の最終土曜日、マー君からの経過報告があった。

 今回で、4回目の報告だけど毎回19時丁度にくれる。付き合っていた時は、あんなに気を遣って電話したのに!

 そう、思うと、なんか悔しい!

「今晩は、今、大丈夫かな?」 

「うん、何も無い大丈夫だよ!」 

「僕の方は順調だ、夏休み明け以来トップは獲れていなけどね。一応、A判定は出し続けてる」 

「私達を、放り捨てた甲斐があったって事ね!」 

「毎回だけど、僕には何の痛みもなかったって、本気で信じてるの?」 

「もし、それが、あったとして気遣ってくれ、なんて言わないよね!」 

「まぁ、その通りだ」 

「お門違い、だもんね!」

「何時迄も、お気に入りなの?」 

「それだけ、嫌な思い出って事だよ!」 

「あぁ、そうなのか、でも、僕は間違っちゃいない謝罪はしないよ」 

「本当、嫌な奴!ど〜してこんな奴が、好きだったんだろう?」 

「好き?そこは、大好きだろう?」 

「本当!やな奴!」 

「ガッコは、何か、言いたい事あるの?」 「ミー君のこと」 

「匠!心配いらないだろう、大したことは仕出かさないだろう!」 

「会いたいの」 

「会えば、良いじゃないか。匠も、喜ぶぜきっと!」 

「会え無い理由こと解っている癖に、そう言う!」 

「あぁ、気の小さいやつは面倒だ!あとあと迄、尾を引くからな。でも、良い加減にしないと慣れちまうぜ、会えないことに」

「なら、いっそガッコ、今、気になる男は匠の他にいないのか?」 

「えっ、いない事も無いかな?」 

「じゃあ、そいつと浮気すりゃ良い、それで気に入ったなら、忘れろ、忘れろ!子ウサギ男のことは!」 

「ミー君は何時迄も、私のことを待ってるって、そう、言ったくせに」 

「あぁ、そうだとも彼奴は何時だって、待ってるだけなんだ。自分から、取りに来るなんて事、出来やしないのさ。ガッコ、君が彼奴を待ってしまったら、いつまで経っても始められないよ!」

「だったら、その間に別の男と付き合って、楽しみながら待てば良いのさ。そうして、女を磨けば良いよ」 

「わけ知りの、おやじ、みたいなこと言わないでよ!男に抱かれるとか、私には早過ぎた。赤ちゃん、出来ちゃってたら!どうするつもりだったの?」 

「僕とガッコの子供なら、匠は自分の子供以上に可愛がるぜ」 

「本気で、言ってる?」 

「君を抱いた時、絶対失敗しない確信があった。そして、失敗しなかったそれが全てさ」 

「まぁ、そうなんでしょうね本当に、嫌な奴!でも、私、もう、間違いたく無いの」「待てるだけ待ってみて、それで駄目なら、さらいに行くわ!子ウサギなら簡単でしょ、拉致らちるの!」





 冬休みに入った。

 俺達は、近所のコンビニで短期のバイトをする事にした。朝から昼まで短時間なので、それ程お金にはならないが負担が少ない。

 週1から週3に増えた音合わせにも、無理なく行ける時間帯と日程を選んだ!

 作詞の方は、皮肉なことにガッコと拓磨のお陰で、サクサク出来た!

 その中から、良さげなヤツを選んでメロディーを乗せた。

 俺は、寝不足で、貴重な成長ホルモンを無駄にした!

 ガッカリンコ!ガリガリ!◯⚪︎コ!

 ガッコの似顔絵帳は、2冊になった。

 泣けることには、ひとつも似てない!

 「やっと、5曲たまったね!あと、1〜2曲欲しいけど、それは、追々ね!」 

「まったく、骨が折れたぜ。これで、年明けにライブハウスデビューかなぁ?」 

「そこは、ちょっと、慎重にしたいかな?いきなり、恐い思いもしたく無いし、対バン関係調べてからでも遅く無いよね?」

「うちら、弱っちいし!」 

「「「何せ、うちらの最恐って、カノミーだもんな!」」」 

「えっへん!私は、強い女!」 

「「「カノミー最強!カノミー最高!」」」「広い平原〜っ、一人立つ、我等の女神〜ッ!ペッタン!カノミー!荒野の様な!平たい胸に〜っ!秘めた、闘志が、火と燃える!」

「「「ペッタン!ペッタン!ペッタン!カノミーィッ」」」  

「ちょ、ちょっと、待てお前ら!何だ、それ?何の、歌だ!」 

「「「イヤだな〜、僕らのテーマソングじゃあ無いですか!」」」

「「「我等の、女神様!」」」 

「ぉっ、お前ら!絶対、やっつける!ゆっ、許さん!打って、打って、打ちまくってやる!」   

「「「にっ、逃げろ〜!」」」 

「こらっ!待ちやがれ〜!」




 年末に、寧子から電話があった。

 浦安ランドに行ったメンバーで、初詣に行かないか?と言うお誘いの電話だった。

 私の町に大きな寺社は無いので、初詣でもそんなに混むことはなかった。

 でも、海辺の町だから年に一度くらいは、初日の出を観に行くのがお正月の決まりだった。

 だから、初日の出を観た後で、結海達の街にある大きな神社に初詣に行こう!

 と言うことだった。

 マー君と話した事もあり、西城君と顔を合わせるのも、憚れる気持ちも有った。

 でも、寧子に強く誘われて行くことにした。

 元日の朝、少し雲がかかったが初日を拝むことが出来た。和君、寧子と一緒にバスに乗り、結海達の街を目指した。

 私は、白いオーバーコートにロングスカートとハーフブーツ。寧子も似た感じで、オレンジのオーバーコートにガウチョパンツとハーフブーツを履いたラフな恰好だった。

 因みに和君は、レザーコートにジーンズとスニーカー!

 お正月感ゼロの3人組だ。結海の街に着いて、神社を目指して歩き始めてすぐに結海と小歳君、それと、西城君の3人と合流出来た。

「「「あけおめ〜!」」」 

「「「明けましておめでとう!」」」 

 結海達も、私達と同じくお正月感ゼロの出立いでたちだった。

 直ぐに、カップル2組とそれ以外1組になって神社を目指して歩き出した。

 神社に近づくと、人の数が増え始めた。

 カップル2組は、すでに手を繋いでいる。

「逸れないように、手、繋ごうか?」  

「えっ、う〜ん、手袋のままでも良いかな?」 

「良いよ、繋ごう」 

 西城君に手を取られた。あっ、思った以上に、違和感がある。

 申し訳無いけど!

 良い感じがしない!

 本殿まで、我慢して参拝のあとで、西城君に告げた。

「ごめんなさい、親切でしてくれたのに、やっぱり、彼のこと本気で好きなの...手...繋げない...」 

「あぁ、そうか、じゃあ、俺の肘んとこ持って。これなら、まだ、良いよね?」 

「ありがとう、ごめんね」

 私達は、屋台の“焼きそば”や“たこ焼き”などを食べながら漫ろ歩き、適当な時間にバス停で別れた。

「寧子ごめん、私、やっぱり、ミー君を諦められない。西城君には、何様?みたいに見えちゃうよね?もう、無理みたい」 

「分かった、無理にくっ付けようとは思って無いから。これからは、Wデートにするわ」

「ごめんね、心配してくれたのに」

 新年早々、重い気分で帰ることになった。

 本当に、申し訳なくて!泣きたくなった。

 

 

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