第30話 君がいなくても過ぎる日々 その八

 クリスマスがやって来る、冬休みを連れて!

 俺達のバンドも、2回戦を熟して自信がついた。取り敢えず、人前で、演奏って、あ〜ぁ!あの曲ね!と分かるくらいの力は有る。

 あ〜ぁ!あの曲?

 では、無いのだ!

 ライブハウスで演奏るには、オリジナル曲が最低5〜6曲は必要らしい。

 カノミーの知り合いの楽器屋さんが、ライブハウスの経営もしているそうで。その引きで出演チャンスを狙っては、いるのだが。

 ライブハウスも商売だし、対バンの関係もあるので簡単にはいかないらしい。

「兎に角、オリジナル曲が欲しいのよね」「“Ride on”は、一応形になったからキープして、後、4〜5曲は欲しいのよね」 

「なんかイメージくれれば、詩、書けるかも知んない」  

「取り敢えずは、皆んなで書いてみようよ、意外にいいものが出来るかも?」

「まぁ、まだまだ時間はあるんだ、焦る必要は全然無いだろ〜!ライブハウス、デビューは年明けてからだろ?」 

「クリスマスから年始までは、結構イベント盛り沢山だから、条件の合うライブもあるんだけど。持ち駒が、少ないんじゃ、いろんなところに迷惑だから」 

「やっぱ、そんなに余裕ないって事か〜」  

「早いうちに経験して、場数踏みたいじゃん!」 

「うん!一緒に、良い初体験にしよう!」

「「「何度だって、応えてやるぜ!」」」  

「お、お前ら〜!その返し!なんかヤダ!スッゴク!いや!」  

「「「え〜っ、理不尽!」」」




「一寸さん、服買うんだって?」  

「あぁ、ステージで、羽織れるやつ、欲しいかなって!」  

「一寸さんも、コイツらも、センスの欠片も無いもんね!よしっ!私が見てあげるよ!」「明日、学校の帰り駅で待ち合わせね!4時に、改札前の時計の下ね!」  

「何、勝手に決めてんだよ!」  

「あらっ!御不満なの?」  

「い、いや、有り難い、です」  

「お月見バーガー、セットで良いわよ」  「へっ、何でしょう?」  

「だから!お礼は、お月見バーガーセットで良いわ!サイドはポテトね!」  

「イ、イエッサー、マム」




「おっ!まった、せ!」  

「遅えじゃね〜か!10分近く待ったぜ!こっちは、遅れちゃなんねって!チャリ、全開で漕いで来たのに!」  

「レディが、待ち合わせに遅れて来るのは、作法なのよ。感謝、しなさいな!」  

「何の作法だよ、ったく!で、お礼先?ショップ先?どっち?」  

「こんな、可愛いJKと、ショッピング出来るのに、何を慌ててるの?まぁ、仕事もせずに報酬もらう気はないから、ショッピング行こ!手ぇ、つなぐ?」  

「な、何だよ、気持ち悪いこと言うなよ」 「失礼!サービスしてあげようと言うのに!迷子に、ならない様に、ねっ!」  

「そう言うと、思ったよ!」

 二人並んで、駅ビル内のメンズショップに入った。

 何処から、誰が見ても制服デートにゃ見えんだろ?カノミーと俺じゃ釣り合い取れなすぎ!って俺は思った。




 その日私は、結海と連れ立って学校帰りに、ミー君達の通学駅の駅ビルまでショッピングに来ていた。

 結海がクリスマスに浦安ランドに着て行く服を見たいと言うので、ついでに私も新しいジャケットを買おうかと思い見に来た。

 一通り、ウィンドウショッピングを楽しみある程度目星がついて、ふっと、エスカレーターを挟んだ反対側の通路を見た。

 アッ!ミー君だ!

 久しぶりに見た彼は、相変わらず曖昧に微笑っている。人待ち顔の視線の先に、いつか見たことのある美少女がいた。

 地域交流会で、ミー君達のバンドでドラムを叩いていたひとだ。

 背がすらりと高くて、色白の肌、艶やかな黒髪、整った顔立ちに眼鏡の似合う、どこか大人びた雰囲気の少女だ。

 彼女はミー君に近付くとミー君の左手を取って、引きずる様に引っ張って行った。

 な、何、何なの、あの二人、付き合ってるとか?私が、マー君に放られてしまった事は言っていない。

 だから、ミー君は今だに私をマー君の女だと信じている。きっと、望みを叶えて満ち足りて、マー君の傍らに侍っていると信じている。

 そんな私が、ミー君の事をどうこう言えるわけもない。本当は、今すぐ二人を追いかけて、ミー君に抱き着いて。

「私の王子様に、手を出すな!」

 って怒鳴ってしまいたい。

 でも、それをしたらミー君は自分のことは構わず、心の傷を塞ぐ事もしないで、私に掛かり切りになるだろう。

 それでは、だめだ!

 いつ開くか分からない、心の傷を抱えたままでは!

 私たち、私とミー君は幸せになれない。

 だから、今は我慢するしか無い!

 会いたい気持ちを抑えるしか無いんだ!

「どうしたの?ガッコ、涙出てる...」  「エッ、どうしたのかなぁ?疲れちゃったのかな?ううん!何でも無いよ、大丈夫!私も行こうかな?浦安ランド」  

「エッ?そうだよ、皆んなで行こう!きっと楽しいから!嫌な事なんて、忘れちゃうよ!直ぐに」




 俺がジャケットを選んでいるうちに、カノミーは男物のトレーナーを買った。

「カノミー!これ、どお思う?」  

「アンタ!センス!ファッション・センスもお母さんのお腹に置いてきちゃったみたいね?私が付いて来てあげて大正解ね」  「じゃあ、どれが良いんだよ」  

「これね、このスカーレット・カラーのスカジャンよ!」

「エッ、派手じゃね!う〜む、良いかな!“理由なき反抗”の、ジェームス・ディーンみたいかも!」  

「アンタ、いつの時代のタイム・スリッパーよ?まっ、良いわアンタの買うものこれで終わり?」  

「あぁ、そだよ!」  

「じゃあ、会計済ませて外でチョット待ってて」  「

え〜、早くしろよ」

 2〜3分後、カノミーはメンズショップから出て来ると、いきなり俺の手を引き。

「さぁ、お月見バーガー!食べに行くよ!」

 何を買ったのか?

 教えてもくれず、バーガーショップへ俺は連行された。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る