第12話 シャボン玉の日々 その十
今朝も、七時の通学バスで、ガッコと待ち合わせした。
「おはよう!」
「おはよう、ミー君!」
「これ、弁当箱....返すよ、美味しかった、ありがとう!」
「一応、弁当箱、洗ったよ」
「うん、ありがとう!で、何が一番美味しかったのかな?」
「全部!でも、一番は、玉子焼きだな!」
「本当に、好きなんだ!」
「今日はね、おにぎり、タッパーに詰めてきたの」
「今日も、作ってくれたの?」
「うん、玉子焼きも詰めたよ!」
「ありがとう!」
「あっ!ミー君、髪跳ねてるよ!」
「エッ、寝癖かな〜」
「平気、平気、手櫛で、ちょちょっと....」
「ダメだよ、ちょっと、あっち向いて」
と言うと、ガッコは鞄からヘアブラシを取り出して、俺の髪を撫で付けてくれた。
「ウン、これで良いね!」
「ありがとう、なんか、照れる」
距離感バグってネ?
ホームルームまで、ずいぶん時間があるので。
授業の準備をしていると、寧子が話しかけてきた。
「ガッコ昨日と今日、やけに早くない?学校来るの?」
「んーとね、実は、ミー君に、お弁当作ってあげてるんだ」
「エッ。何で、ミー君なの?」
「マー君は、朝、早すぎだから渡せないの」
「ミー君だったら、渡せる時間に登校するから」
「それ、答えに、なってないよ」
「大体、何時から、ミー君と会ってるのよ?」
「五月の終わり頃?くらい、かな?」
「マー君に、久しぶりに、会ってみたら....って、言われて、会ってみたの」
「何それ、旦那に愛人斡旋されたみたいな」
「愛人じゃないよ!間ぁ、男、だよ!」
「エッ、エッ、まぁ、男には違いないけど」
「でも、それで、いいの?大丈夫なの?」
「だって、ミー君だよ」
「ミー君、ガッコにぞっこん、だったじゃない?それでzいいわけ?」
「ミー君、可愛いし、間ぁ、男だし」
「それに、弟みたいで、可愛いんだ!今朝だって、髪が跳ねてて、私が、ヘアブラシで直してあげたんだよ」
「うーん、サイズ的な意味では、可愛い?か?」
「今度、ハンカチ持ってるか確かめようかな?」
「そこまで、するの?」
「まぁ、あんた達、面白いことになっているのね!」
寧子には、もっと上手く説明したかったけど!
間ぁ、男、とか、可愛い弟みたい。
などの私の言葉に、誤魔化されてくれた様だ。
ミー君の、おかげだ!
ありがとう!
今日も今日とて、いつメンの工業高校軽音部部室。
「今日は、おにぎり?」
「うん、おにぎり!玉子焼き!美味しい!嬉しい!」
「で、それ、彼女特製って言って、いいの?」
「違う!彼女では、ないかな、でも、俺はガッコの、間ぁ、男.....だから」
「間ぁ、男?.....まぁ、男には違いないけど」
「俺、次第でガッコは、俺の女だー」
「そ、なの、っうか、出来るの?」
「出来る、出来ないじゃないんだ、やるんだ!俺達のために!」
「でも、今は、間ぁ、男?」
「そう、今は、間ぁ、男!」
「.............」
「なんか、プランあんの?画期的な?」
「無い!」
「...........................」
「とりあえず、夏休みか?ありき、だけど、千葉のTokyoに行ってみる?」
「なんか、ありきで、嫌、お金無いし」
「じゃあ、とりあえずバイト?」
「俺、知合いの“海の家”で、バイトするけど!一緒にするか?」
と、ノゾキヤローが言う。
「じゃあ、三人でしようぜ」
と、俺
「俺もなの?」
とカイタロー
「予定、ねーだろ、どーせ」
約束の、土曜日になった。
待合せは13時、それまでの時間は学校の自習室で課題を熟した。
待ち合わせ場所の、喫茶店“ラパン”は通学の途中見つけて、気になっていたお店だ。
ガッコが、好きそうな可愛い外観の喫茶店だった。
勿論、ガッコを誘う前に下見は十分にした。メニューも飲み物も、女の子受けしそうに思えたし。
お客さんも、女子高生が中心に見えた。
僕は、入り口から見える席に着いてガッコを待った。
僕は、望んで今の学校に入学した。ある程度、予想はしていたが。
これまでの人生で、初めて首席を取れなかった。
自分が天才で無いことを、嫌と言うほど思い知った。それでも、目標と定めた大学を諦められなかった。
だったら、努力するしか無い、目標としたもの以外は全部諦めてでも、狙ったものを取りに行くと決めた。
だから、ガッコとの時間を諦めた。
匠から奪った恋人、僕だけが気付いていたこと、分かっていること。二人の運命に、割り込んだこと。
僕は知ってる、僕が、匠ほどガッコを愛していないこと。匠に取られることが嫌で、それだけの理由で、ガッコに告白したこと。
誰も、気付いちゃいなかったが、ガッコも匠に惹かれ始めてはいたんだ。
皆んなはガッコが、僕のことを好きなんだと思い込んでいた。きっと、ガッコもそうなんだ。
だから、僕にとってのガッコは、匠と切り離せない存在なのだ。
僕は、目標のために、二人を忘れなければならない。だから、二人には、僕の事を絶対に忘れてほしく無い。
僕は、匠にガッコを返すのだから。
お店のドアを開けて、ガッコが入ってくるのが見えた。
僕は、片手をあげて、軽く振った。
すぐに、ガッコは気づいた。
「久しぶり!」
「本当に!顔も忘れちゃいそうだよ!」
「元気そうで、良かった」
「ふふ、今日もね、ミー君にお弁当渡したの、とっても喜んでました!」
「妬けるなー、ガッコが、そんなこと言うの珍しいね」
「ミー君、可愛いんだよ、私がx気をつけないと、ハンカチも持って行かないの」
「まぁ、
「ミー君ね、夏休みは、バイトするんだって、海の家で」
「だから、お盆過ぎまでは、私フリーだよ」
「分かった、会える日が判ったら連絡するよ」
ガッコと会う日でも、話題は匠のことだけだ。ガッコは、気付いていないだろうけど。
匠の話をする時は、漏れ無く嬉しさが溢れそうな顔をする。
妬ける、気持ちはあるが、これで良い。
ガッコに、匠に対して申し訳ない気持ちがあるのは分かっている。僕に対しても、後ろめたさを感じてくれれば。
僕の、意思に逆らうことはないだろう。
その日は、喫茶店で2時間ほど過ごして。
同じバスで、ガッコと帰った。
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