第10話 シャボン玉の日々 その八

 俺とガッコは、町内に有る“うみはま鉄道”の駅で朝9時に待ち合わせた。

 俺は、30分前から待っていた。

 ガッコは10分前に来た。

 

「おはよう!」

 

「おはよう!早いね、待たせちゃったかな?」

 

「少しは、待ったかな」

「でも、全然、約束前の時間だから、気にしない....見たいですね」

 

「失礼!失礼だよ!それ」

 

「いや、まぁ、ちょっといじるのは、お約束でしょ?」

 

「お約束じゃ無いよ!ミー君のくせに!」

 

「ガッコさん、何時もより強気ですね?」

 

「ミー君は、私の何かしら?」

 

「俺は、貴女の間ぁ、男ですか?」

 

「そぉ〜だよ、君は!私に、愛を請う立場なの!」

 

 アッ.....結構キツイかも、ちょい、泣きそ。

 

「承知いたしました!お嬢様?」

 

「私の間ぁ、男さん、私を見て何か言うことは、ないの?」


 ガッコは、頭に麦わら帽子、可愛いやつ、なんて言うか知らんけど!を被り。クリームイエローのコットンのブラウス、ジーンズ生地のガウチョパンツにスニーカーを履いて!

 天使のように微笑んでいた。


「お似合いです!とても!可愛い!です?」俺は、涙目のまま、そう言った。


「眼を潤ませて言うほどでも、無いけど」


 ガッコは、嬉しいみたいだ、涙目の意味はぜんっぜん、違うけど!

 マァ、それを言ってみじめなのは、俺だから......目的地迄の切符を二枚購入して、一枚をガッコに渡す。


「それで、本日の予定は?私の間ぁ男さん」

 

「貴女の間ぁ男が、お伝えします、本日は”うみはま公園“にて一日楽しく?過ごしましょう?」


 俺たちは、駅に到着した軌道車に乗り込んだ。

”うみはま鉄道“は、全車両が鉄道(レール)の上を走るディゼルエンジンの車両である。

 俺たちが、通学に使っているバスと同じ臭いがした。


 二人並んでベンチシートに座る、窓の外は海辺の町を走る鉄道なのに”イモの畑“だ。

 濃い緑が、地面に張り付くような風景は見慣れたもので。

 俺に、何の感情も引き起こさない。


 ほんの2〜3日前に、俺を振った”可愛い悪魔“はご機嫌みたいだ。その”可愛い悪魔“の隣の俺の心臓は、持ち主と同じ単純仕様で、うるさい程にドカついている。


 ガッコがいる側が、非常に熱くなっているのも、この間と同じ。違うのは、もしかしての可能性が無いことをはっきりと知ったこと。

 

「ねぇ、ミー君、私と会うのは、辛いだけかな?悲しいだけかな?私は、嬉しいし、楽しいよ!」

 

「ガッコには、拓磨がいるから愛する人がいるから」

 

「でも、マー君は、ミー君と付き合えって言った」

 

「出来ないよね?」

 

「今は、出来ない!」

 

「今は?」

 

「私は、ミー君と会うのは嫌じゃない、だったら、これは、チャンスだよ」

「私が好きなら、その気にさせてよ、私の、間ぁ、男さん!」


 そして、軌道車は目的地近くの駅に到着した。

 此処からは、”うみはま公園“行きのシャトルバスに乗って、目的地はすぐそこだ。


 ”うみはま公園“に到着して、かえりのシャトルバスの時刻をチェックした。シャトルバスは、一時間に2本、15分と45分が発車時間だ。

 ちなみに、入園チケットは到着駅の構内で販売していた。


 俺たちは、東口から入場し中央口付近を目指した。六月も終わろうかと云う時期に、見頃の花はほとんどなく、時期外れのバラが少し見れた程度だ。


 ともかく、幼児向けのアトラクションが多い中、なんちゃってローラーコースターには列が出来ていた。

 俺たちは、得意では無いのだが列に並んだ。

 

「ミー君、身長制限パス出来る?」

 

「ガッコさん、貴女よりは身長ありますよ!少しだけど!」

 

「本当に?そーかな、じゃあ、何センチ?」

 

「百六十五センチメートル!」

 

「エッ!ほんと?.....本当に、ミー君のほうが高いんだ、私より」


 まぁ、少しサバは読んだが、俺の方が絶対高い!

 十分にスリルを堪能した、俺たちはいくつかの、児童向けアトラクションを続けて楽しんだ。


 七月は、すぐ手の届くそこにいた。

 イートインコーナーの近くの広場に、水遊びコーナーがしつらえてあり、大人の膝位までの深さで水が貯められていた。


 小学校低学年ぐらい迄の子供達が、そこで、ずぶ濡れで遊んでいた。着替えを準備して、遊びに来ているのだろう。

 俺たちが、水遊びコーナーの横を取り過ぎようとした時。

 一人の男の子が追いかけっこに夢中のまま、俺の背後から激突してきた。


 突き飛ばされて、俺は水溜りに足を突っ込んだ。

 そして、足がすべり、水溜りに尻餅をついた。

 ずぶ濡れの俺に、爆笑しながらガッコが手を差し伸べる。

 

「お気の毒〜」


 その手を取りながら、俺は立ち上がった。

「水も滴る、いい男ッてか!」


 男の子のお母さんが、慌ててやってきて、謝罪と共に乾いたタオルを貸してくれた。

 濡れたパンツを重点にざっと全身を拭き取り、タオルを返しながら。


「大丈夫です、子供のしたことですから」


 などと言いつつその場を去った。

 どーした勢いか?

 俺は、ガッコに手を引かれていた。

 

「ガッコさん、大丈夫、手離していいよ」

 

「んっ!ミー君、迷子になるから」

 

「なっ、訳ないじゃん」


 二人で、可笑しくなって、笑った。

 手は、少しの間を開けて.....放れた。




 俺は、考えていた。

 こうして、二人だけの時は、その心地の良い世界がある。

 ガッコが、嫌がらないうちは、甘えさせて貰おう。

 嫌、本気で俺を好きになって貰おう。

 そのために、出来ることをやるだけだ。




 パンツが乾いた後、サイクルセンターに行ってタンデム自転車を借り。

 二人で、漕いだ。

 ハーブガーデン近くの、レイクサイドにある喫茶店で昼食をとりながら話した。

 俺は、ハーブチキンソテーのパスタを。

 ガッコは、サーモンマリネのパスタを注文して食べた。味はそれなり、ハーブティーは思ったより飲みやすかった。


「どぉ!楽しいでしょう、私と一緒は?」

 

「仰る通り、楽しい」

 

「また、会いたいでしょう?」

 

「ガッコが、嫌じゃなければ?」

 

「また、質問に疑問形で答える!」

 

「会いたいです!また」

 

「素直でよろしい、じゃあ、今度からはゲームしよ!恋人ゲーム」

 

「それは、どーいったゲームですか?」

 

「ミー君は、私の間ぁ、男として、私を誘惑するの」

「それで、私が耐えられるうちは、繰り返し会うわ!」

 

「耐えられなくなるって、どう言うことかな?」

 

「ふた通りあるかな?もう会いたくなくなった時、と、誘惑に負けちゃいそうな時」

「もし、そーなった時は、マー君と三人で会おう」

 

「了解、俺はエントリーする」

 

「じゃあ、私から、今日のお礼と、マー君に出来ない恋人ムーブ、お弁当イベントをミー君にプレゼント!」

 

「えっ!ありがとう?」

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