第8話 シャボン玉の日々 その六

 俺はガッコに電話した。


「今晩は、遅い時間にごめんね、聞いてもらいたいことがあるんだ」


「いいよ、話して」


「あぁ...あのさ、先ず、謝らせて」

「拓磨にさ、ガッコに電話するなって言っちゃったんだ、本当、ごめん」

 

「うん、知ってるョ、マー君に聞いた」


「怒ってる?よな、俺はガッコに取って、何者でもないのにさ」

 

「ミー君は、友だちだよ」

 

「ごめん、友だち....やめたいです」

 

「................でも、友だちだよ?」

 

「答え、分かっているけど.....ちゃんと、聞きたい」

「お、俺と、付き合って下さい!」

 

「ごめんなさい、私は、マー君が好きです!」

 

「ありがとう、ちゃんと答えてくれて」

「じゃぁ.....さよな........ら」

 

「待って!ミー君、お願い.....友だち、やめないで!」

 

「ごめん、それ、辛すぎる」


「じゃぁ、私と、浮気.....しない?」


「ええっ!えぇっと、それは、どうゆう......こと...ですか?ガッコさん?」

 

「私が、納得出来ないの」

 

「でも、ですね、俺としては、友だち?みたいな,宙ぶらりんは.....あの....高所恐怖症で....絶対無理....無理なので、勘弁して!」

 

「だから!友だちぢゃ無いよ、間男、ま、お、と、こ.....間男!」

 

「ま、お、と、こ.....間男?」

 

「そう、それ、ミー君も、真男まおとこ真の男なら、私をその気に、させて見せなよ!」

 

「えっえ〜、無理、無理.....無理だ...って」

 

「もう、決めちゃったんだから!今度の休みの土曜日、私を、その気にさせてネ!私の間男さん」

 

「勘弁してくれ!」



 どうやら、俺はガッコにキープされたらしい。

 このポジションに、どんな希望があるのやら?無いのやら?

 どうせ、他には、何のあても無いのだけれど。嬉しいと、苦しいでは、今のところ苦しいが圧倒的だ!


 何せ、振られたばっかりだ。

 傷口に、塩を塗り込むつもりは無いんだろうけれど。

 楽しい未来は、俺のまわりで飛び跳ねながら、器用に俺だけを避けて行くようだ。

 そんな、絵面えづらが思い浮かんで、思わず苦い笑いが、顔面に貼り付いて息苦しくなった。




 私は、ミー君と話した後で泣いた。

 家族がいるから、聞かれたくなくて、声を殺して泣いた。

 どうしても、ミー君の想いに応えられないコトが申し訳なくて、悲しくて。

 どうして、意地悪なマー君のことが諦められないんだろう。

 何で、ミー君を無理やり引き止めてしまったんだろう?


 ミー君が、もう会いたく無いって!

 言ったんだから.....そのまま、それを.....受け入れれば......今すぐ....マー君と!

 それなのに.....言えなかった....ごめんね、好きになってくれて、ありがとう.....さよなら....って...言えなかった。


 ミー君が....可哀そうだから、じゃなく.....私が、寂しかった?

 ..悲しくて....言えなかった。

 私は、何時も守ってくれるマー君に頼り切りで。

 でも、高校生になったら、マー君は側に居なくなっちゃつて!

 だから、自分を変えたいと思っていて。

 マー君から、もう、そんなに私のために時間は使えないって言われて。僕の代わりに、匠と付き合ってあげてと言われて。

 何となく、解った。


 いつか、マー君は私の前からいなくなるつもりで。ミー君に私を渡すつもりなんだって。

 だから、私は強くなって、ミー君なんて要らないんだって!

 そう、言いたかった。


 マー君が、ミー君につなぎをつける前に。

 心配ないよ、私、一人で平気だよって言いたかったのに出来なくて。

 久しぶりの、ミー君は私のことが大好きで、それが、全然隠せてなくて、弟....みたいだった。


 私には、お兄ちゃんしかいなくて、弟はいないけどこんな感じだろうなと思った。

 可愛くて、守ってあげたいと思った。

 そのくせ、私を揶揄からかってくるのは、正直、イラッとしたけど。それも含めて、可愛いと思った。


 お兄ちゃんも、マー君も私を守ってくれる存在。

 言われたことに従うことに慣れていたから、ミー君との関わり方は、新鮮で面白かった。だから、自分で振ったくせに、放って置けなかった。


 きっと、私の中に、マー君の言う通りにしたく無い私が居て....全部に逆らいたい私が......思ったんだ。

 ミー君と、浮気するって!

 決めたんだ!

 浮気するって!



 ガッコにこくった翌日、学校を休みたかったが。

 「ガッコに振られて、学校ガッコ休む」

 なんて駄洒落が頭に浮かんで、離れなくなり馬鹿馬鹿しくなって登校した。

 こうゆう時の、カイタローとノゾキヤローの馬鹿コンビは、精神衛生上非常に有効だ。

 今日も今日とて、部室に集まりお悩み相談の開催だ、相談者は、俺こと井竿いさおたくみ痛いけな高校一年生。

 相談は、勿論ガッコの間男に俺が指名された件。


「いやいや、森の妖精さんを舐めすぎだろー」


「一発、かましてやれ、百発百中の寸足らずの死に神」

 

「それは、俺のことか?もしかして」

 

「他にゃー、誰も居ねえぞ寸足らず」

 

「そうだ、そうだぞ、寸足らず」

 

「いい加減にセーヨ、最早悪口!森の妖精さんでも!シモヘイヘイでも!ねーじゃねーか?」

 

「その通りだ、一寸法師」

 

「お椀の船に箸の櫂、背中に背負った、ベースギター」

 

「なんのキャッチフレーズだよ」

 

「まぁ、冗談は此処までだ」

 

「豚鼻ガリコに振られた挙句あげく上等かまされた、我らが、一寸ベーシスト」

 

「一寸ベーシストは呑んでやるが、豚鼻ガリコは許せねーぞ」

 

「まだ、んなこと、言うぅんか?色ボケ男爵」

 

「死人に鞭打つようなこと、言いやがって、ガリガリ女」

 

はたから見てると、お前が、あの二人に揶揄からかわれてるようにしか、見えねーぞ」

 

「お前らが言うな!」

 

「いや、冗談抜きで言えばだ」

 

「あの二人と、縁を切るのが正解だと思う」


「お前が傷つくだけだ!このままじゃ」

 

「大体、おかしいだろが、自分が受験に集中したいからって、自分の女を片恋慕している友達に譲るなんて高級古着ぢゃ有るまいし」


「それを、有り難がる寸足らずは、さぞかし滑稽こっけいだったろーな」

 

「........」

 

「.......」

 

「悪い.....お前らの言うことも分かるよ、でも、基本.....馬鹿だからさ、俺、騙すよりは、騙されてーんだ」

「ありがとうナ、心配してくれて」

 

「お前は、そう言う奴だよ、妖精さん」

 

「辛い時は、話し聞いてやるよ、寸足らず」


「でさ、今度の土曜どこさ行くって話し、いーか?」

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