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「話を逸らすな! 心優しい彼女が謝れば許してくれると言っているんだ、素直に謝罪すれば良いものを!」

「ですから、証拠がないのに謝ることはできないと言っているでしょう? 私にも名誉というものがあります。私はそちらの方をいじめた覚えはありませんし、話すどころかこうしてまともにお会いしたのも初めてです。会ったこともない相手をどうやっていじめるというのですか?」

「どうせ取り巻きでも使ったのだろう。いつも一緒にいるそいつらだ。陰湿なくせして、口だけは良く回るようだな!」


 私の友人達の方を指差して言うレイモンド様。陰湿なことと口が回ることは関係ないと思いますよ。ですが……そうですね。


「……私の友人を取り巻きだなんて、そんな失礼なことを言わないでいただける? 私はあなたのように友人を取り巻きだなんて思いませんし、仮にそう思っていたとしても男爵令嬢のために時間を使うほど暇ではありません」

「なっ! この俺に対して失礼だぞ!」

「何が失礼なのですか? 失礼と言うのなら、証拠もなしに公衆の面前で婚約破棄を宣言するあなたの方だと思いますよ。この際ですから言いますが、あなたは、あなた達レモーネ家は私のこと何だと思っていらっしゃるので? 私とレイモンド様は政略結婚です。双方の利を考えての婚約ですのに、一方的に嫌がらせを受けて私がいつまでも黙っていると本気で思っていたのですか? もしそうだとしたら……」


 レモーネ家は終わりですね、と笑顔で続ける。レモーネ公爵夫妻もレイモンド様も、私がそんなに大人しい性格をしているとでも思っていたのですか? 自分がされていることを誰にも話せないような、気弱な人間だと勘違いしておられたのでしょうか。

 当然、そんなことはありません。私は早い段階でお父様に相談し、いざとなったら抗議していただけるように準備をしていました。私が言わなくても気付かれていたでしょうけど。


 自分で言うのも何ですが、私は家族に愛されているんですよ。そんな家族が敵対する家に嫁ごうとしている私の状況を調べないはずがないのです。


「言わせておけば……っ!」


 顔を歪め、私に向かって伸ばそうとした手を強く掴まれたレイモンド様。急に目の前に現れた人物の正体は私の護衛騎士だったようで、必死に抗っているレイモンド様の手首を余裕の表情で握り締めています。こちらを振り返る彼に大丈夫だと告げて下がるように言いましたが、このまま私の後ろに控えているつもりのようですね。


「女性に手を上げようとするだなんて、それでも紳士ですか? ……そろそろ本題に戻りましょう。婚約破棄の件は承知致しました。ですが彼女をいじめていたことに関しては認めませんよ。───国王陛下、発言してもよろしいでしょうか」

「許す」


 私を冤罪で断罪しようとしたのですから、相応の覚悟はしていますよね? 特に男爵令嬢。レイモンド様は気付かなかったのかもしれませんが、そこのご令嬢は相当計算高いと思いましてよ。なにせありもしないことで訴えて、私の地位と名誉を地に突き落とそうとしたのですからね。

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