第12話

以下、本編より約10分後の、3人の会話である。


クエタ「あのとき~、フィトのポケット~、光ってたよ~」


フィト「ポケット?」


カルパ「……何それ、さっきのバッタ?ただの石みたいになった。…持ってきてたの?」


フィト「うん、クエタに渡されて…。でも、どうしてまた光ったんだろ?」


カルパ「光る理由ねぇ……あっ、わかった!それがフィトが受けた〈霊験〉なんじゃないかな。フィトがバッタの〈霊験〉を引き出したんだ。〈腕〉ってそういう意味だったんだよ。それであんなことが起こったんだ」


フィト「えっ?じゃあオレは、いつでもあの状況を作り出せるってことか?」


カルパ「そう。いつでもあの地獄をね」


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


 そのとき、八百屋と警官は、フィトに手を伸ばして捕まえようとしていた。


 フィトも、そのことに気づいて振り返ろうとしていた。


 すると次の瞬間、身の毛がよだつ音と共に、辺りが急に暗くなった。


 いや、暗くもなったが、黒くなったという方が適切か。


 大小様々な "黒" が無数に現れ、その場にいた人の視界を埋め尽くしたのだ。


 その "黒" の正体は、虫だった。


 その量たるや、町とその周囲から虫という虫が全てこの一カ所に集まったかのような、超大群だった。


 視界を埋め尽くすその超大群は、完全に包まれてしまえば呼吸すらままならなくした。


 たとえ虫が苦手でなくても、正気を保てるかどうかというおぞましさだった。


 そこにいた誰もが、それまで何をしていたかなどすっかり忘れて、少しでも逃れようともがき始めた。


 ある者は顔を手でおおってうずくまり、ある者は身をのけぞらせて必死に虫を払いのけ…、足をもつれさせては倒れ、前後不覚に陥っては壁にぶつかり…、みんなのうめき声が響き渡った。


 それは、他人を思いやることはおろか、自分が生きていることさえ忘れてしまうような時間だった。


 その地獄はしばらく続き、大半の人がもがく体力もなくなってきたころ、虫の群れが引き始めた。


 ちらほらとお互いの姿を確認できるようにはなったが、周りを見る余裕のある者は少なく、だいたいは、体中に虫をまといながら、思い思いの姿勢でこのあり得ない出来事に呆気にとられていた。


 そんな中、警官は体についた虫を払いながら、ぼそりと言った。


「何なんだ、これは…」


 だが、近くにいた八百屋の興味は、他にあった。


「…奴らがいない」


 他にいなくなった者はいなかった。


 あの虫の超大群だ。まともに移動などできるはずもない。


 それでもフィトたちがいたところだけは、ポッカリと空いていた。


「虫に喰われました?」


「発想がエグいな。逃げたんだろ」


「しかし、あの中を逃げられますか?」


「…あいつらは、逃げられたようだな」


「ちょっと考えられないですけど…あの虫の量ですよ?」


「……『大切な用』か…。あながち嘘でもなかったのかもな」


「ふ~ん。で、これからどうします?まだ続けますか?」


「…もういいか。やることがあるなら、もう滅多なことはしないだろ」


「じゃあ、ドローンも返しますね」


「ああ」


 八百屋の返答を受けて、警官は機械をポケットから取り出して操作した。


 そして、ドローンが頭の上を飛んでいったのを確認すると、機械をポケットに戻した。


「あれっ?」


と、そのとき、警官はあることに気づいて、声を上げた。


「どうしたんだ?」


「いや~、落としたかな~?マズいな~。なくしたら始末書ものだ」


そう言いながら警官は、キョロキョロとその大事な物を捜していた。

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