第1話

 せわしない朝もひと段落し、人々が各々の業務に取り掛かり始めた頃。我々二人も、急激に人気が無くなっていく街並みを眺めながらタクシーに揺られ本日の目的地へ向かっていた。


「こんなに遠くまで出向くのは、このあたりに来てからは初めてです」


 声の主は隣に座る、シルバーのいわゆるツインドリルの髪型が印象的な同年代の女性、リン。

 数か月前、瘴気感染拡大の波に揉まれていた頃に出会い、その後色々あって生活を共にするようになった、元お嬢様である。


 騒動の末に流れ着いたこの地域で暮らすようになった俺たち二人はしばらく安全な区域でのジャンク(元市街地などに残された、人間の生活に必要なあれこれ。スクラップ類のみを指す言葉ではない。)漁りが主な収入源・生活源だったわけだが、今回はそろそろ大きい一発を当ててみようということで、共に警戒レベル2の少し危険な区域へ向かう運びとなった。




 不安だ。とてつもなく。


 警戒レベル2。それは命を落とすリスクが少なからず存在していることを意味する区域だ。俺は深く息を吐きだして軽くうなだれた。


「ま流石に死にはしませんよ!せいぜいレベル2ですから!

 一発ドカンと値打ちもの見つけて、ちゃっちゃと撤収してしまいましょ!」


 いつも通り口調が軽いリンの声を聞き、下げていた顔を上げるとそこには満面の笑み。効果音を付けるのなら間違いなく「にぱー」だ。

 そして目が合った途端、彼女の表情が今度はニンマリとしたものに移り変わっていく。


「アキさん、ちょー分かりやすくシケた顔しててウケますわね! 一攫千金のチャンスですわよ? ほらほら~」


 何とも能天気な。・・・なんて思ったが、これくらい軽い気持ちで臨んだ方が案外不幸を呼び寄せないのかもしれない。俺は角度の浅い午前中の陽光に照らされたその表情の眩しさにあてられ、明るい気分で今日の探索に臨むことをぼんやりと決意した。


「一攫千金もそうだけどとりあえず安全第一ね!どんだけ細い糸でも、足をすくわれたら転んだ先に何があるか分かんないんだから」


「もちろん心得ていますわ! ・・・・・・でももし修理要らずで使用可能なホバーユニットなんて見つけられたりでもしたら・・・! ふふふ」


「大丈夫かな・・・」


 まあなるようになるだろう、多分!






「さてお二人さん、降ろすのはこの辺りでいいですかい?」


 乗っていたタクシー運転手の男性から声がかかり、リンと話しているうちに目的地周辺に到着していたことに気が付いた。


「あ、はい! ここで大丈夫です、お願いします!」

「どうもありがとうございます!」


「了解、じゃ停めるよー」


 コロニーを出てから20分ほどのタクシーの旅を終え、俺たちは扉を開けて大きな建造物が立ち並ぶ瘴気以降未踏の区域、の少し手前にある元住宅街へと降り立った。

 タクシーの運転手はこれまでも何回か世話になった人ではあるものの、本格的に危険地帯となってくる区域への輸送をお願いするのも流石にということで、ここを乗り降りの場所としてあとの少しは自分たちで歩こうと決めた。

 そもそもそこまで危険なことをしてもらうことの対価を払えるほど金も無いし。


「はい、代金ね。いつもどうも!帰りの分はまたその時にもらうから、またよろしく」


「それじゃあ今回も撤収の目途がついたらフレア炊きますね」


「わかった、じゃ荷台の荷物回収したら言ってくれ」


「了解です」


 荷台からそれぞれの荷物、具体的には食糧やキャンプ用品、そして感染したロボットとの戦闘になる可能性を考慮し持ち歩いている武器を取り出す。

 こんな次の日の命も危ういような環境下でのサービス業においては提供側と享受側の信頼関係が何よりも大事。

 タクシーを使う際には武器類はもちろん、水筒や財布などを除き、荷物は基本的に荷台にしまって手が届かないようにするのがマナーだ。


「よし・・・ わたくし準備オーケーです!」


 軽くリンの方に目をやると、一般的な探索に必要な荷物類に加えバカでかい剣(10歳児の身長くらいはある)を背負っているお嬢様という強烈な情報が脳に注ぎ込まれ思わず顔が引き攣った。物騒すぎるだろ風貌が。

 ちなみにタクシーにこれを積み込む際、これを初めて目にした運転手の人も顔が引き攣っていた。そりゃそう。


 かくいう俺も探索用の荷物類が入ったリュックサックを背負い、加えて取り回しやすい中型の剣とエーテル銃をハードケースから取り出して腰のホルスターに納めた。そして緊急時の武器取り出し・構えで手こずらないように何度かイメトレをし、深く一呼吸して顔を上げる。


「・・・おし、俺も完了。運転手さん大丈夫でーす!」

「私も大丈夫です、またお願いします!」


「じゃあ頑張ってな!!」


 俺たちが声をかけるとタクシーはすぐに発進し、人の居ない住宅街にエンジンの駆動音が残響した。放置されてからまだ日が浅く、周囲の建物が綺麗であるにも関わらず人の気配がまるでないという異様な光景もまた不安を誘う。時間に取り残されたような気分だ。

 が、その不安はすぐにリンの明るい声よって打ち破られた。


「目指せ一軒家購入!行きましょう、アキ!!」


「ああ、行こうか!」


 俺たちは一層元気に本日の探索に繰り出した。






「「着いた・・・」」


 15分ほどの徒歩移動の末、今回の目的地である「センカ中央区」へ到着した。半島の隅に位置する我々の南センカコロニーからそう遠くないそれなりに大きな町で、農業や海産物の養殖が発達していたことも特徴だ。


 ちなみに同業者たちによる情報の累積および町の発展度合いから、危険度レベル2、「建造物の瓦礫、瘴気に感染したロボットなどによる死傷の可能性アリ(小) 必要の無い限り侵入は控えるべし」として扱われているエリアである。


 これは今まで俺たちがメインで活動していた、最も安全とされるレベル1「死傷の可能性ほとんど無し」とは明確に危険度が区切られているエリアであり、これまでのぬるま湯に浸かっているような(瘴気以前の生活と比べるとそれでも生きるのに精一杯だが・・・)環境とはわけが違うのだ。


「そこそこ発展しているのに人っ子一人いなくて気味が悪いな・・・」


 高めの建築が立ち並ぶ街の中へ入ると、街並みと人の気配の無さとのギャップが一層際立つ。センカ地域への避難者がそもそも少ないこともあってか同業者も見える範囲では一切確認できず、終わりの見えない草原に放り出されたような、高所に一人で立っているような、そんな根源的な恐怖に包まれた。


「暗い日に一人で来ていたらもうここでギブでしたわ。 ひとまず、仮の拠点でも決めましょうか・・・ あそこなんていいんじゃありませんの?」


 リンが指差した先は集合住宅の一階にある駐車場。荷物の一時的な保管場所や、万が一はぐれた場合の集合場所としてはちょうど良さそうだ。


「いいね、あそこにしようか」


「出入り口のシャッターがぶち破られているのだけ気になりますけど・・・」


 遠目では穴が開いている程度しかわからなかったが、近づくとそれはエーテル刃の付いた工具か何かで無理やり開けたような穴であった。


「大きいものがぶつかってできたような穴じゃない」


「先駆者、でしょうか・・・?」


 コロニーに近いという好立地かつ分かりやすく雨風が防げる場所の上、ガラス張りではないため瘴気に感染したロボットに見つかる可能性も低そうな場所であるため、その線は大いにある。


「斬り口はそんなに新しくはなさそうだけど、一応警戒して入ろうか」


 しばしシャッターの奥に耳を澄ましてから、のぞき込んで中を確認する。

 が、案の定先駆者はとっくに立ち去っていたようだった。


「大丈夫そうだ」


「ふぅ・・・ 同業者とトラブって一戦交えるとかになったら最悪でしたわ!安心安心!」


 この辺りは比較的生活必需品を自給しやすい(海産物が採れる&それなりの発展度合い)ためあまり聞く機会はないが、それなりに人口密度のある地域でジャンク漁り同業者同士が出先で揉め事になった噂は物流関連の人間から時折流れてくる。

 ただ今回はその心配は無さそうだ。

 念には念を入れていつでも武器を抜ける心構えだけは持ちつつ、俺たちは駐車場の中へと入った。


「「涼しい・・・!」」


 ほとんど日差しの入らない駐車場内は外よりもいくらかひんやりとしている。

 一瞬訪れた緊張の波が過ぎ去ったのもあってか、強張った体を冷ますこの空気がとても心地いい。


「じゃあ要らない物はここに置いて、探索を始めようか」


 俺はそう言いながら、先ず武器類をホルスターごと外して床に下ろした。武器類は素早く手に取れるよう荷物の中でも外側の方に着けているため、そのままだと荷物管理がしにくいし、なにより暴発が危ない。


「要らないのはまず寝袋と水タンクあたりでしょうか? とりあえず武器を下ろして・・・」


(ガシャン!)


 リンがその背中に背負っていた大剣を床に下ろすと、重たい金属の音が駐車場全体に鳴り響いた。思わず視線がそちらに向かう。


「さっきタクシー運転手の人それ見て顔引き攣ってたよ」


「あら、でも自身が作った物が注目されるのは誇らしいでしょう? ふふん」


「それはまあ・・・そうかも」


 そう、彼女の背負う大剣は俺が自らの手で作り上げたオリジナルの武器だ。

「パワーがあって身も守れる大きな武器がいい」という無茶苦茶・・・ではなくパワフルな注文を受け、安値で仕入れた(それが必要になる作業がコロニー内に現状ほぼ無い)工業用の大型エーテル刃を剣状に仕立てた特注品。

 趣味でやっていたレベルの機械いじりスキルを活かし、ほとんどベースパーツそのままに持ち手と小型エーテルバッテリー装填パーツを付けた程度の簡素かつ武骨なビジュアルだが、その存在感からリンに渡した際、もともと表情豊かな彼女がそれまでに見たことないくらい目を煌めかせていた光景をよく覚えている。


「あら、嫉妬なさらないで?」


「してないが?」


 何の話だ。あれほど大きな武器、取り回しが悪そうで俺は使う気にはならない。自分なりの使いやすい武器がある。

 俺は今回の探索に持ってきた武器たちに目をやる。

 この地域に逃げてくる際、警察ロボットから回収したリボルバータイプのエーテル銃に、リンのそれと同様工業用エーテル刃を中型の剣に改造した自作武器。

 前者はこれに命を救われた経験があり、後者は自作ということで、両方とも愛着がある武器だ。


 だからリンの大剣に嫉妬だなんて・・・


「あなたのそれも、実用性特化という点でまたロマンがありますから」


 リンもまた視線を俺の武器たちに向けて、微笑んでそう言う。

 完全に善意からのフォローだとは思うが、なんだか、少しばかり悔しいような・・・

 再度リンの大剣をじっと見る。

 嫉妬してないけど。

 高出力でパワーがある大剣が羨ましいわけじゃないけど。




「デカい武器、かっこいいな・・・・・・」


「でっしょ~~~!!!」


 俺は弱い。







「こんなもんか」


 カバンの中に飲料水を入れた水筒や最低限の補給食、探索に何かと役に立つロープ、武器用のバッテリーや弾を残し、他の物はここに一時置いていくことにした。


 リンの方もちょうど荷物整理を終え、武器の動作確認をしているようだった。

 普段ヘラヘラしてるのにこういうのはいつもしっかりやっているのでちょっとばかし調子が狂う。

 ほとんど素人が作った武器なので言われなくとも動作確認をやってくれるのは助かるが。


 なんて考えていると喉の渇きを覚えた。探索前の緊張…もあるが、思えば純粋に朝食以降水を飲んでいなかった。

 気持ちを入れる目的でも、少し水分補給をしておこう。俺はカバンから水筒を取り出し、リンに声をかける。


「軽く外の空気浴びながら水飲んでくるよ」


 柔らかい笑顔を浮かべ、無言で首を縦に振るリン。よくよく考えると武器を触っている最中に話しかけるのは危なかったか。

 少し申し訳ない気持ちに駆られながら水筒に口を付け、常温の水を喉の奥に流し込む。何の変哲もないただの水だが、するすると体に染み込んでいくように感じ、やはり水分不足気味だったことを実感した。


「ふう」


 水筒の蓋を閉めて一息つき、あたりを見渡す。

 朝に決定したままの勢いでセンカ中央区にやってきたものの、どう探索すれば効率的かとかはあまり考えてはいなかった。俺たちはここの出身ではないから土地勘も無いし。

 俺はとりあえず高価なジャンクの収穫が期待できそうな大きい建物に軽く目星を付けることにした。見える範囲でも1・・・ 2・・・ 3・・・


 そんなことを考えていると、少し離れた建物の陰から警察ロボが出てきた。

 ああ、こんな感じの警察ロボをなんとか仕留められでもすれば儲けものだ。CPUはもちろん、カメラや武器なんかも手に入れられて余す部分が無い・・・


 警察ロボ?


 今陰から出てきて、俺と目が合ったのは・・・警察ロボだ。


 え?




 殺傷力のある武器を持つ、瘴気に感染した警察ロボットだ!!!


「・・・やばッ!!」


 地面を思いきり蹴りつけ、駐車場の中へ飛び込む。

 どれくらいの時間目が合った?

 いやおそらく1秒にも満たない。ただ・・・考え事と現実の境が曖昧になって、それに警察ロボなんてしばらく見ていなかったせいでギャグのようなお見合いをしてしまった・・・!


「なんですの!?またゴキブリ・・・?」


 あっけにとられたようなリンの声。


「今回は違う!武器取って車の陰に!」


 ロボットと目が合った(向こうはカメラだが)時の距離感からして、ギリギリ武器を取って隠れる猶予はあるはず。狼狽えるリンと一緒に、急いで近くの物陰に隠れる。

 あと苦手なゴキブリには定住生活が崩壊してからというもの本気で参っているので、イジるのはやめてくれ。

 ともあれ何とか隠れるのは間に合ったようだ。駐車場に飛び込むのを見られている以上こちらに入ってくるのは確実だが、やり過ごせるだろうか・・・


 そして予想通り、俺たちが隠れた瞬間から少しして犯罪者制圧用の近接武器を携えた警察ロボが駐車場に入ってきた。入り口との距離は7、8m程度とまったく安心できない距離だがこれが精一杯だった。


 隠れている車の下部から冷たい足音が鳴る方を覗くと、どうやら俺たちの荷物に注目しているらしい。


「入ってきましたわ・・・ まさかとは思いましたけど本当にゴキブリじゃなくて警備ロボですわね、入り口まで歩いてきてる状態で視認されたら対処できずに終わってましたわ」


 確かに。そう思うとある程度距離がある段階で視認されたのは不幸中の幸いか。


「荷物を漁ってるな・・・」


 不便な視界の中でロボが完全に荷物の方を注視していることを確認し、今度は車の窓越しに少しだけ頭を出し様子を窺ってみる。焦って選んだ物陰だが、図らずもロボの背後という位置関係になった。

 そして全体像を見ても、やはりそれは警備ロボットだった。金属剥き出しの人型で、腰にはエーテル刃の短剣を提げている。頭の中心には大きなカメラが組み込まれており、単眼の人型化け物的ななんとも恐ろしいビジュアル。

 犯罪抑制の点では奇妙な見た目は少なからず貢献していたのかもしれない(こんな奴に取り押さえられた時の恐怖は想像もしたくない)が、ロボットが無差別に人間へ敵対するようになってしまった今、これと対峙することの恐ろしさを身をもって味わう羽目になってしまった。


「手に取ったのは・・・フレアでしょうか?」


 いつの間に取り出したのかレンズの大きな眼鏡を着けたリンが呟く。目が悪いなら常に着けてればいいのに。

 ただなぜロボはフレアを?

 そう思っていると、突然腰に下げていた短剣を取り出し・・・


「よ、よりにもよってフレアを壊しやがりましたわ・・・!」


 目を見開き、驚きの感情を隠し切れない様子でリンが呟く。

 奴はその短剣を複数回フレアに叩きつけ、破壊してしまった。

 予想外の行動に、思わず母音の抜けた声が漏れる。あれを壊されてしまっては帰るためのタクシーを呼ぶ合図を送ることができず、何時間もかけてコロニーに歩いて帰ることになる。まさか狙って大きな損害を与えられる行動をしてるのか・・・?


「撃つか・・・? いやどうする・・・」


 今ならリボルバーをじっくり狙って撃つことができるが、あいにく俺たちはロボットとのまともな交戦経験がほとんど無いせいで奴の耐久性能を判断することができない。

 ここで手を出してまったくの効果無し、そのまま発覚され抵抗できず斬りかかられたりしたら・・・


 なんて悩んでいたら、奴はリンのカバンから次の物品に手を付けた。それは・・・


「ああッ! 探索が終わったら気分良く食べようと思っていましたのに・・・!!」


「え、あれは・・・ 焼き菓子か・・・?」

 それなりにボリュームがありそうな焼き菓子。それもそれなりに上等なものに見える。金無いって散々言ってるのにいつの間にあんな嗜好品買って持ち込んでたんだ。思わず眉間に皺が寄る。


「あ、アキ!早く撃ってくださいよ・・・!!!」


「そう言われても・・・」


 なんて葛藤していたら、先ほどと同様奴は例の菓子に短剣を叩きつけ始めてしまった。さっきまで菓子だった黒い焦げの欠片がボロボロと散らばっていく。


「・・・・・・・・・・・・」


 黙ってそれを見つめるリン。流石に少しいたたまれない・・・

 フォローの言葉を投げかけ、軽くリンの方に視線を向ける。

「無事帰れたら買ったげるから・・・・・・」




 しかしさっきまで隣に居たはずのリンはそこから姿を消していた。


「え?」


 まさか。


 警察ロボットの方へ向き直す。


 居る。

 リンが。

 ご自慢の大剣を手に持ちながら、ロボットの背後に。


「ちょっと・・・・・・!?!?!?」


 特大の衝撃に、もはや俺は眼前の情報をただ脳に送り込む以上のことができなくなってしまった。


「食べ物の重みを知らない機械風情がァ・・・・・・」


 特大のエーテル刃がメラメラと滾る大剣を頭上に振り上げたド迫力の光景に、こちらまで腰が抜けそうになる。


「ごらあああああああッ!!!!!」


 建物全体を震わす怒号とともに、リンは渾身の一撃を繰り出す。

 ロボの方も掲げた大剣の影を視認したようで振り返って防御の体勢を取るも、お嬢様のパワーと高出力の刃が織りなすセレブな一閃はあまりにも、圧倒的だった。


 ロボが攻撃を受け止めるために構えた短剣を爪楊枝のごとくへし折った巨大なエーテルの刃はそのまま機械の体へと到達し、見る見るうちに上半身と下半身を真っ二つに斬り離していく。


 支えを失ったロボの上半身がしばし宙を舞って地面に落ちた頃、俺はようやく脳の情報処理が間に合うようになりお嬢様のもとへ駆け寄った。


「ストーップ!!!」


 いまだ機能しているらしいロボの上半身にトドメの突き刺しを喰らわそうと剣を下向きに構え直すリンを制止する。


「中の機械が生きてるまま持って帰って、それで好きなだけお菓子買えばいいよ」


 そう声をかけるとリンはピタリと動きを止め、肩の力を抜きゆっくりとこちらへ振り返った。


「名案ですわね!うっかり我を忘れていましたわ」


 聞き慣れた声色で話すリン。ちょっと能天気そうにも見える、いつもの雰囲気に戻っていた。なんだったんだ今のは。まだ少し処理が追い付かない。


「気を取り直して探索へと洒落込みましょう!」


 明るくそう言い放った彼女は、自身の荷物の方へ歩いていく。


「色々とメチャクチャだったけど、おかげで感染ロボットとも戦えることが分かったよ、ありがとう」


 ひとまず危機が過ぎ去って一安心した俺は、感謝を伝えた。

 リンの行動は無謀なようにも見えたが、あのままただ傍観していたらすべての荷物をダメにされていたかもしれない。


「いえいえ、どうってことないですわ! 今回は運が良かっただけでしょうし、これからはわたくしも突っ張りすぎないように・・・」


 笑顔で話し始めるも途中で言葉に詰まるリン。見ると、例の黒焦げ焼き菓子の破片の方を見て硬直していた。そしてしばし思いつめるような表情を浮かべた後、相変わらずの明るい表情でこちらへ向き直ってやや早口でこう言った。


「持ち運びづらいでしょうし、今のうちにロボットを解体してしまいましょ! ズタズタの腕は取ってしまって、カメラの付いた頭部も胴から斬り離しちゃいましょう、ね? 問題ないでしょ?」


「ああ、うん。じゃあそうしちゃおうか」


「あ、アキは荷物の確認の方に入ってしまって構わないですわ! わたくし一人でやりますから」


「そ、そう? じゃあよろしく頼むよ」


 俺がそう返事するとリンは無言で満面の笑みを浮かべ、再度大剣のエーテル刃を起動させ警察ロボットの解体作業に取り掛かり始める。

 俺は何となくそれを見ていてはいけない気がして、彼女に背を向けるようにして探索に持っていく荷物の最終確認を始めることにした。




「ふひひ・・・ いい勉強になりましたわねロボットさん・・・・・・ これからは相手と手を出すものを選ぶことですわ」


 金属がゆっくりと切断されていくギリギリという感じの音を聴きながら、俺は今後絶対にこのお嬢様に食べ物関連で恨まれてはいけないと確信するのだった。

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