第4話

結界内に入ったトキだが、魔神を目視することができずに居た。辺りを警戒しつつ、魔神を誘き出す為、トキは行動に出た。

守護のリングへ、自身の魔力を吸収させ、魔法石が虹色に光りだした。すると、トキの目の前に、片手で振り払えれば消えてしまいそうな、小さな黒い霧が現れた。黒い霧は、虹色に光る魔法石へ、吸い込まれる様に吸収され、黒い霧が目の前から居なく無くなった。

それを認知したトキは、守護のリングから、虹色にまだ光る魔法石を取り外し、結界内の地面に叩きつけた。ガラス玉の割れる音と共に、砕けた魔法石から、キラキラと眩しい光が瞬き、結界内を覆いつくした。

次第に眩しい光はなくなり、外から見守るリンや仲間達が、結界内へ目を向け様子を伺う。すると、さっきまで結界内で立っていたトキの姿がなく、彼が床にうつ伏せで倒れているのが見えた。

「トキ!!」神殿内に響き渡るほど彼の名を叫び、駆けつけるリン。

結界を張っていた仲間が結界を解き、駆け寄るリンに続く。うつぶせになったトキを仰向けへ戻し

「トキ!目を開けて!魔神はもう居なくなったでしょ!何で眠ってるの?起きてよ!」

肩を大きく揺さぶるも、トキは目を閉じたまま、目を開ける様子がない。

「傷は負っていないのに、どうして…。」

どうにもならない現状に、不安と悲しみに駆られたリンの目には涙が溢れ、次第に彼の頬に自分の涙が落ちていた。


目を覚まさないトキを胸元で抱きしめ、しばらく泣き崩れていたリン。そんな中、周りにいた仲間の1人が声をかけた。

「リン。彼はまだ、存在が消えていないから、助ける手段はきっとある筈だ。まずは、主様に見てもらおう…。」

仲間の声かけに、我に返るリン。目を腫らし、まだ流れる涙を拭いながら、改めて彼の様子を伺う。

彼はしっかりと息をしている。心臓も動いていた。

ただ今は、声をかけても、揺さぶっても目を覚まさないだけ。

「そうね…。ありがとう。主様の元へ行って、彼の事を話してみるわ…。」

そう言って、トキを床へ寝かせ立ち上がる。すると、神殿の扉の方へ目を向けた仲間の何人かが、ざわつきはじめた。

「主様!?どうしてこちらへ?」

「天界が危うく、ここを離れられたのでは?」

神殿の入り口から、小さな人影が歩みを寄せ、こちらへ近づいてくる。

トキを中心に囲んでいた仲間達が、主を彼の元へ通すためか自然と道ができ、あっという間に私とトキの前へ姿を見せられた。

床に横たわるトキへ目を向け、

「トキ。君は、天界や我らを守るため、力を尽くしてくれた。ありがとう…。だが、仲間を悲しませるな。君を好いている者たちが心配しているぞ…。魔神の呪いに囚われて、可哀想に…。」

「主様!魔神の呪いとは何ですか?彼が目を覚まさないのは、その呪いと関係があるのですか?」

見た目が小学生並の、今の主様へ食いつき気味で、リンは疑問を投げ返していた。

主は顔を上げ、リンへ目を向け話し始める。

「彼の身につけている指輪に、実体のない魔神が取り憑き、彼の魔力を食い続けているから、目を覚まさないだけだよ。」

「彼が目を覚ますには、どうしたらいいのですか?」

「魔神が取り憑いた指輪を、ただ外せばいい。だが、魔神も神の仲間だ。魔力源になっている今のトキを手放すまいと、阻止しようとするだろう。」

主からそう伺うなり、リンは彼の指輪へ手をかけ外そうと試みる。しかし、

『バチン!!』

強い電撃が走り、触れる事すら出来なかった。魔法で取り除こうと両手をかざすも、魔法陣を出した瞬間『パリン!!』魔法陣が砕けて消えてしまった。

「そんな…。魔法もだめだなんて…。主様!どうか彼を助けてください!お願いします!」

自分ではどうする事も出来ず、主へ助けを求める。だが、

「すまない…。私も彼を助けたいが、今はこの見た目だ。今の私は、君より力がないから、どうする事もできない。」

主にも、トキを助ける事ができないと耳にしたリンの眼には、また涙が溢れてきた。しかし主はこう続けた。

「だが、彼女ならこの指輪を外せるかもしれない。」

「…!主様!彼女とは誰ですか?天界の誰ですか?」

「彼女は人間だよ。名前はヨシオカスズ。彼女は強い力を持っているが故に、我々神の、監視、保護対象になっている。」

「そのヨシオカスズさんなら、トキを救ってくれますか?」

「さぁ、どうだろうね。随分前になるが、人間界に誤って飛ばされたトキを助けてくれたのは、彼女だった。トキから、彼女の事を少しは聞いてないか?」

リンは主の話を聞き、首から下げているネックレスを握りしめ、幼い頃、トキが私へ魔法石をくれた時の事を思いだす。

「スズと言う名前には心辺りがあります。トキへ魔法石を譲ってくれた人だと伺っています。」

「そう。彼女は、なんの変哲もないガラス玉を、無意識に魔力のこもった玉に変えるほど、魔力の底が知れない人物。そしてスズは、夢や願いを力に変える魔力の持ち主なんだ。」

「夢や願いを力に変える魔力…。」

「そう。だから、彼女がトキを救いたいと願ってくれれば、呪の指輪を外せると、私は思うんだ…。リン、トキを救いたいのならば、彼女の元へ行き、助けを求めなさい。」

主様の助言を聞き、張り詰めた気持ちが少し緩んだ。そして主はこう告げる。

「彼女は今、月明かりの下にいる。今すぐにでも彼女の元へ行き、助けを求めるならば、彼女の近くにゲートを繋げられるが、どうする?」

リンへ言葉を投げかける主。だが、リンは迷わず即答していた。

「お願いします主様!私を、スズさんの元へ連れて行ってください!」

「君なら、そう決断すると思っていたよ。」

リンの真剣な表情を目にした主は、続いて神殿内の天使へ指示を出す。

「トキを、自身の部屋へ連れて行きなさい。リンが彼女を連れて戻った時、彼女の底しれぬ魔力が天界にどう影響するか分からない。皆、外へは出歩かず、部屋で待機するように!用心のためだ!」

主の、号令で神殿内に居た天使が次々と動き出した。そして神殿内には、私と主様だけが残り、

「では、ゲートを開けよう。」

そう言って、主様は何もない空間へ手をかざした。そして主様の手に、白い光が集まりだし、その白い光はやがて扉の形へと変わっていき、白く大きな扉が現れた。

扉がギギーと重そうな音を響かせ、中から眩しい光が漏れ出し、扉が開け放たれる。

「では、行ってまいります。」

そう主様へ告げ、「気をつけて、行っておいで。」

主も扉へ向かうリンの背中へ声をかけ、彼女を見送った。


扉をくぐり抜けると、視界が開けた場所にたどり着いた。そして目の前には、空に昇る大きな月と、それを眺めている一人の女性が居た。

「あの人が、スズさん…。」

リンは辺りを見回し、自分と彼女以外、誰も居ないことを確認した。そして、通ってきた扉が光の粒となって消えるのを見届けると、大きく深呼吸をした。何度か深呼吸を繰り返す。しかし、胸のドキドキ、緊張はまだ収まらない。

その理由は知っている。それは、天界から今まで出たことがないリンにとって、初めての知らない世界。まして、自分より強い魔力を持っている相手にこれから会うのだ。身体が強張り、緊張するのは当たり前だ。

それでもリンは決心し、彼女の元へ赴く。

声が強張らないように気をつけ、「こんばんは」

彼女へ声をかけた。

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