292:ちょっと削ったけども

 救出された後、大きく戦線から後退。母娘が駆けつけ、俺のズボンの裾を捲った。患部は大きな青アザになっている。


「折れてはいなさそうだけど……」


 シェレンさんがそっと触れると、ズキンとした痛みが走った。ただそれでも、確かにギリギリのラインは越えてなさそうな感じはある。重い打撲といったところか。


「歩けとるし、まあ思ったよりはマシじゃな」


 多分だけど、速度がスライムだったから何とかなったんだろうな。これで加速がついていたら完全に骨もキンタマもイカれてたと思う。それくらいには重たい一撃だった。


「しかしまあ、これが20体くらい居るからね。強行突破は無理じゃないかい?」


 アネビーさんの言葉に、全員が頷く。

 前回、煮え湯を吞まされた籠城戦と同じような構図だ。俺たちが攻めて、ヤツらが守る、この状況を作り出されると厳しいんだ。


「一応、火山の中腹にも転移ポイントがあったハズなんだよ」


 ポーラの言う通りなんだけど……


「スライム王国の目の前に出るのは危なすぎるだろ」


 ニチカが却下する。加えて言うなら、下から上がってくるノーマル軍団&高反発20体との挟撃という事態に陥ってしまったら……ガチで詰むよね。


「じゃあ見送るしか無いんだよ?」


「それもシャクだよ~~やられっぱなし~~」


 珍しくフィニスがキレ気味。農園を狙われた(意図的かどうかは分からないけど)のも腹に据えかねるみたいだな。そりゃ毎日毎日、丹精込めて育ててる作物が下手したら全滅させられてた可能性もあったワケだし、当然か。


「石を……投げつける……!」


 まあそれくらいしかないか。とても全部は削れないだろうけど、少しでもね。こういう時、機動力と突破力のある乗り物があったらなあ。

 ……やっぱ車、作ってみるか。俺の期待するような性能があるかどうかは未知数だけど、ワンチャン賭けてみても良いだろう。スライム王国が敵になる可能性が高まった以上、こういうシチュエーションはまたありそうだし。


「え~~い! 死ね~~!」


 意外と過激な掛け声で投石するフィニスと、それに追随する家族。ただまた上手いこと、高反発がスクラムを組んで邪魔しているようだ。石の何個かはカツンと鋭い音を立てて弾かれている。


「みんなも、こっち。農園の作業で掘り起こした石を置いてる場所があるから」


 姉Aに案内され、小屋の脇へ。そこには、ゴロゴロと大量の石が転がっていた。


「私に投擲は荷が重いから、リレーで渡していくわ」


 シェレンさんの提案に頷き、即座に陣形が組まれる。シェレンさん→ポーラ→メロウさん→アティ母の黄金リレーで、俺たちの元へ石が届けられる。それを俺とアティ、フィニス、ニチカが主力となって投げつけ続けたが……


「30から40ってところか」


 もっと削りたかったというのが本音だけど、もう弾切れだ。高反発クンたちに弾かれた石が、周辺に散らばってるけど、アレを拾いに行ったらまた攻撃されるだろうしな。


「歯痒いのう。恐らく合流させると良からぬことが起きそうなのは分かっておるんじゃが」


 それはそうだけど。接近戦で歯が立たないんだから、これ以上はやりようがない。

 

「せめてキングと合流して何をするかくらいは見届けたかったわよね」


 シェレンさんが苦い表情で言う。

 実際、得体が知れない気味の悪さは残っている。あの大群の中には何体か特殊個体が居て、そいつらを進化させるんじゃないかとは推理してるんだけど……ノーマル個体たちも肉壁以外の役割があるのかも知れない。

 いずれにせよ、シェレンさんの言う通り、見届けていないのだから何も確かなことは言えないという状況だ。


「……今は出来る範囲の準備をするしかないな」


「具体的には~~?」


「車を作る。役立つかは分からないけど」


 時計を見ると、15時に差し掛かっていた。

 レシピ帳で確認すると、『セフレ四輪駆動車』の組成は……大車輪石(×4)×カラスギの丸太×聖樹の枝×ネバリハスの根(×4)となっている。

 その内の大車輪石だけは所持しているが、他は採ってこないとダメだな。


「人選はどうすんだ? カラスギの木を切るってなったら、割とギリギリだぜ?」


 だよねえ。戦闘力のある人が、そのまま力自慢でもあるから。さりとて、全員を引き連れてカラスギの自生する岩山を往復するのも現実的じゃない。


「あーしはアキラについて行くぜ!」


「ネバリハスが要求素材になってるなら、アタシは家に採りに行かないとね」


「ゴメンね。大切に育ててる商売道具なのに」


「構わないよ。アキラの選挙が懸かってるんだから。アタシは育ててるハス全部を擲ったとしても、アンタにこの島に残ってほしいよ」


 ハス貸し……

 やっぱりこの島のヒロインたちは最高だよ。


「アティとフィニス、私たち母娘はそちらについて行こうかしらね」


「ついでに聖樹様の枝も拾っておくんだよ」


 と、提案してくれるが。


「また誰かに見られたら」


「大丈夫……もうとっくに私たちは……一蓮托生」


 アティまで……なんだ、これ。最終回が近いのか? なんて心の中で茶化さないとジーンと来ちゃうよね。


「アキラ、泣きそうなんだよ!」


 ケラケラと笑われる。全然、抑えられてなかった模様。

 ポーラを後ろから捕まえてくすぐる。おっぱいもモミモミ。


「わあ! 照れ隠しに使われてるんだよ!」


 そういうのは察してても、言うんじゃないの。


 それから少しだけ戯れて、みんなとも何故か抱き合ったりキスしたりして。


「そろそろ行動に移さんと、間に合わんぞ」


 メロウさんに呆れ気味に注意されて、ようやく我に返った。

 そして改めて班分けを行う。

 

 俺、ニチカ、フィニス姉のABでカラスギの伐採。アティとハス貸し&母娘で、ネバリハスの根と聖樹様の枝の回収。フィニスはおばあちゃんズを護衛しつつ、スライムが追加で現れないかの監視。

 決定したところで、散開。恐らく選挙前最後になるだろうターン行動を開始した。

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