16:母の姿が見当たらないんです

 待つこと10秒、20秒。ダメか、と思いかけたところで。


『はいは〜い。呼んだ?』


 女神さんの声が脳内に響いた。気配も感じられる。


(いやさ、なんか見えない人が居て。声だけは聞こえるんだけど……女神さんの同類?)


『え? どゆこと』


 そこで。タイミングよく、居間の方から、


「どうぞ〜。上がってちょうだ〜い」


 アティ母の声が聞こえる。3人(プラス神)で入ると……宙を浮く湯呑みに度肝を抜かれた。


『ひゃあ! お、オバケ!? 私、超常現象とか苦手なんだ! う、うわ! こわ!?』


 いやいや、アンタだって超常そのものだろ。


『…………いや、そうか。これは……!』


(何か分かったの?)


『うん。これはだね。つまり立ち絵が無いんだよ』


 立ち絵?


『うん。エロゲには当然キャラクターの絵が出てくるワケだけど、それぞれのキャラデザにお金がかかるのは分かるよね?』


 まあそりゃ。二次元コンテンツは、全部そうだろう。絵師さんに無給で描いてねなんて鬼みたいな話は、流石に……


(あー。なるほど)


 つまりアティのお母さんの立ち絵を用意できるほどの予算が制作会社になかったということか。


『重要でない役割だと、そういうことも多々あるみたいだよ』


 そっかあ。多分だけど、お母さんにモブの汎用立ち絵を当てるのも「違うな」ってなって、結局立ち絵ナシの判断が下ったんだろうな。


(じゃあ逆に言うと、メロウさんの方はまだ役割があるワケか)


 メタ読みだけど、そういう話になる。


『そうだろうね。ただ、前も言ったように……キミが主人公に成り代わったせいで、イベントもズレてるからね。実際どうなるかは……』


 なるほど。

 って、そろそろ喋りすぎてる気が。と、思ったら。


『今は時間を止めてるよ。今度から長いヘルプの際はそうしようと思う』


(ああ、そりゃ助かる。毎回、女神さんと話しこんでる間、俺は放心してるような感じになっちゃったら、困るもんな)


『そういうことだね』


(ちなみに、その時を止める能力……お貸しいただけたりは?)


 思い起こせば、俺って転生したのにチートとか貰ってないし。


『厚かましい……爆乳ハーレムが既にチートでしょ』


 それを言われると弱いな。


『それにキミに時間停止のチートなんて貸したら、ヒロインのおっぱいチューチューするでしょ』


(そんなこと…………ないよ)


『その検討してる間がもう無理』


 クソッ。即答でウソをつけなかった自分が憎い。


『ったく。それじゃあ、私は帰るから』


(うん、ありがとう。またなんかあったら、よろしく〜)


 そうして女神の気配は消えた。

 なんだかんだ、面倒見が良いよね。






 フッと。体に感覚が戻ったような、僅かな間があって。


「っとと」


「ん? どうしたんじゃ?」


「あ、ううん。お邪魔します」


 どうも本当に俺と女神が話してる間は、時間が止まってたみたいだな。すげえな。これでオバケが怖いとかほざいてたんか。


 玄関で革靴を脱いだらすぐに居間なので、まあ上がるというほど大仰でもないけど。

 とにかく、そうしてテーブルまで招待いただき、椅子に腰掛けた。隣にアティが座る。対面がメロウさんと……見えないけど母親が座ってるハズ。


「改めてありがとう。ウチの母は腰が悪くてねえ。あまり出歩かない方が良いんだけど」


「動かないのも……それはそれで……衰える」


 まあそれは間違いない。


「ワシ以外の年寄り連中も、似たようなモンじゃよ」


 諦めたような口調で、フルフルと首を振ったメロウさん。

 うーん……


「せめて道を舗装……路面の凹凸を平らにしたらどうなんだろう」


 至極当然の提案をしたつもりだが。2人(多分お母さんも)はポカンとしている。隣のアティが、


「道の方を……そんな……発想……なかった」


 え? そ、そうか。普通に出てきそうなモンだが。


「道路というのは土だから、凹凸があるのは当たり前というか」


 ああ。まあ自然と共に生きてる感じだもんな、この島。あまり環境に手を入れようとは考えないのかも知れない。


「でも……どうやって? 重たいフィニスに……踏み均してもらっても……」


「こら。そういう冗談は言わないの」


 どうもフィニスという体重がアレな人が居るようで、それをからかった冗談をアティは言ったらしい。

 まあ今はスルーして。


「……レンガを作ろうかなって」


「「「レンガ?」」」


 親子3代のハモリ。やっぱ無いのか。焼き物があるから、土から物を作る習慣はあるハズだけど。


「うん。土を焼いて固めたブロックで、それを道路に敷き詰めれば、変な凹凸とかは出来ないんだ」


 レンガ自体が劣化や割れを起こして、凹凸が出来るケースはあるけど……まあずっと先のことだな。


「なるほど……道に平坦な物を敷き詰める……」


 アティがアゴに手を当てて考え込む。横からだと、前髪に隠れてしまっている方の目も見える。青い右目とは違ってライトグリーンだ。オッドアイってヤツだな。俺が見てるのに気付いて、サッと前髪を引っ張って隠した。

 しまったな。コンプレックスだったか。覗き見した格好になってしまった。謝ろうとしたところで、


「面白い……発想」

 

 本人が殊更に普通のトーンで続けたので、逆に蒸し返さないでおく。


「実現したら、島のお年寄りたちも小さな子供たちも、みんなきっと喜ぶよ」


 インビジブルお母さんも、


「それやってくれたら、ワシは例の選挙でオマエさんの永住賛成に入れるわい」


 メロウばあちゃんも、


「私も……やってみたい。道路の工事なんて……初めて」


 アティも。

 

 つまり、みんな乗り気だ。


「よし。じゃあ俺がこのセフレ島のために最初に作るのは……おばあちゃんや子供たちが安心して歩ける道路だ」


 決意表明も兼ねて、そう高らかに宣言した。

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