第24話
パラシュートを脱ぎ捨てたヴァイは、通りすがりの車を目に留めると、ためらうことなく運転席のドアを開け、運転手を力任せに引き摺り出した。
「もっといい車買えよ〜!」
ヴァイは笑いながらシートに飛び込み、ハンドルを握る。放り出された運転手が道路脇に倒れるのを一瞥もしない。
エンジンが轟音を上げ、タイヤがアスファルトを引き裂くようなえげつない音を立てながら、車は猛スピードで街へ繋がる高速道路を目指して走り出す。
日はすでに沈みかけ、空が赤紫に染まっていた。
高速を降りたヴァイは、ふと脇を見ると、なぜか白バイ隊員が倒れているのを目にした。しかし、彼は気にすることもなく、そのまま車を進める。
だが——。
「封鎖?……あいつ、派手に暴れやがって!」
目の前に広がるメインロードは完全に封鎖され、警官や装甲車が並んでいる。何らかの大規模な事件が起きたらしく、進むことができない状況だった。
「チッ……しゃあねえな」
ヴァイは舌打ちし、車を脇に止めると、すぐさまドアを開けて放棄。
軽く肩を回し、冷静に周囲を見渡してから、そのまま走り出した。封鎖の混乱を逆手に取りながら、街中へと向かって駆け抜けていく。
駅前の街頭テレビの中で、アナウンサーが取り乱した様子で話していた。
「大変なことになっています!先ほど暴走車両が次々と一般車両と衝突し、そのまま逃走しておりましたが、犯人は車両を乗り捨てて駅方面に向かったとのことです!付近にいる方は部屋の中に入り、鍵を閉めて避難してください!」
画面に映し出される映像には、破壊された車両と混乱に包まれる街の様子が次々と映し出されていた。市民たちはアナウンサーの呼びかけに慌てて逃げ場を探し、駅前の喧騒はますます混沌としていた。
ヴァイは瞬時に端末を取り出し、電車の時刻表を検索する。シャトルベイまで行ければ、そこから最短ルートでGENプラントにアクセスできる。電車なら、渋滞も避けられ、一気に目的地に到達できるはずだった。
しかし、検索結果を見てヴァイは顔を歪めた。
「運行停止?なんだこれ……」
何らかの事情により、すべての電車が運行停止となっている。これは予想外の事態だった。原因は不明だが、非常事態による影響かもしれない。
「チッ……厄介だな」
ヴァイは舌打ちしながら、次の手を考え始めた。
ヴァイはすぐに近くの無人ネットカフェを見つけ、中に滑り込んだ。
店内は静かで、客もいない。彼は迷うことなくPCに座り、手際よくファイアウォールを上書きしてアクセス権を奪取。VPNを通して当局のデータベースに接続した。
「さて、どこに繋がってんだ……」
画面に広がるデータベースの膨大な情報を瞬時に解析し、GENプラントからサイト全体に広がる蜘蛛の巣状のインフラ共同溝に目をつける。
そこはすべての重要施設と繋がっているインフラ管理ルートであり、通常のルートが塞がれていても、ここを使えば最短でGENプラントにアクセスできる。
「ここか……よし、決まりだ」
ヴァイは共同溝からGENプラントに最速で辿り着けるルートを緻密に調べ尽くし、画面を閉じた。そして、カフェを後にし、決意を新たにしてそのルートへ向かっていった。
ヴァイは素早く路地裏に入り込み、周囲を確認すると、目に留まったマンホールに向かって歩み寄った。
普通の人間ならとても開けられないほど重い蓋だったが、彼は躊躇なくそのマンホールの蓋を怪力でこじ開ける。
「ったく、こっちは肉体労働かよ……」
彼は軽口を叩きながら、マンホールの中に滑り込んだ。
下水道の湿った空気が肌にまとわりつくが、気にも留めず、目的地に向かって足を速める。暗い通路を慎重に進みながら、ヴァイは地下の排水施設を抜け、次に目指すのは電源ケーブルのメンテナンス通路だ。
「ここを抜けりゃ……」
手元の端末で確認しながら、ヴァイはGENプラントへの最短ルートを突き進む。
ヴァイは暗く湿ったメンテナンス通路を見渡しながら、距離を確認する。
ここからGENプラントまではまだかなりの距離があるが、彼にとってはそれほどの問題ではない。
全身メタリックシルバーの彼は、物凄いスピードで走ることが可能だ。
「……ゴールテープくらい用意して欲しいもんだなぁ!」
ヴァイは軽口を叩きながら、瞬時にスタート。
ものすごい勢いで足を動かし、通路の暗闇を駆け抜けていく。鋭い目で前方の道を確認しながら、スムーズに障害物を避け、音もなく進むその姿は、人間離れしていた。
風のように、ヴァイは無機質な地下通路を突き進む。
エリシアは電車をハイジャックし、すんなりとシャトルベイまでたどり着けると思っていた。
だが、思わぬ事態が彼女を待ち受けていた。
突然、電車が耳障りなブレーキ音を立て、急激に減速し始めた。
「何ですって!?」
エリシアは激昂し、運転士に銃を突きつける。
「違う!俺じゃない!テロ対策で遠隔操作できるんだよッ!」
運転士は震えながら必死に説明する。エリシアは苛立ちを隠せず、唇を噛み締めた。
「くそっ……!面倒なことに!」
彼女は一瞬の焦りを見せながらも、次の手を考え始めた。
電車はB-3のホームで止まり、車内に緊張が走った。
エリシアは冷静にマガジンの弾数を数え、状況を見極める。
外からの声が響いた。
「警察だ!全員降りなさい!全員降りなさい!」
その言葉を聞くと、乗客たちはパニックに陥り、出口に向かって殺到した。悲鳴があちこちから上がり、ホームは混乱に包まれる。
「まったく、こんな面倒なことになるなんてね……」
エリシアは冷ややかな目でその光景を見つめ、すぐに行動を決めた。
彼女は運転手を座席から無理やり引き摺り出し、銃をその頭に突きつけながら押さえた。
「動くんじゃないですわよ……あなたの命、どうなってもいいんですの?」
運転手は恐怖で震えながら、何もできずに彼女の支配下に置かれた。エリシアはこの状況を利用し、さらに脱出のための策を巡らせた。
前方にはものすごい数のポリスメンが立ちはだかっていた。
エリシアは冷静に状況を見極め、運転手をしっかりと人質に取る。
「ぶち殺しますわよ」
彼女の声には冷酷な響きがあり、銃口は運転手の頭に押し当てられている。運転手は震え、警官たちは動けずにいた。
「無理だ!やめておけ!」
ポリスメンの一人が必死に叫ぶ。
「駅の外も包囲されている!」
別の警官が叫び、さらに圧力をかけてくる。
「もう逃げ場はない!」
だがエリシアは微笑を浮かべる。
「逃げ場?あら、それはどうかしら?」
彼女は警官たちを睨みつけながら、何か策を練っている様子だった。
エリシアはちらりと警官たちに視線を送りながら、密かに運転席のレバーに手を伸ばし、動かしてみる。だが、レバーは遠隔でロックされており、ピクリとも動かない。
「……チッ、やっぱり無理ですのね」
小さく舌打ちしながらも、冷静さを保つエリシア。彼女は一瞬、他の手段を考える素振りを見せたが、外の警官たちはそれに気づいていない。
運転席も使えず、電車を動かす手段は封じられている。エリシアは次の策を巡らせながらも、じりじりと後退して状況を見守っていた。
バイトの狙いがコアであることは明白だった。
彼がアノマリーを取り込んだ状態でコアと接触すれば、サイト-14がどうなるかは誰にも予測できない。エリシアの胸中に焦燥感が募り、脈打つように高ぶる感情が右手に集中する。
破壊のオーラが彼女の右手に集まり、青白い光が強まっていく。
「正義の味方はどっちでしょうね?」
冷笑と共に問いかけるが、警官たちから返事は返ってこない。沈黙が張り詰める瞬間——。
——バシュッ!
エリシアは運転手を弾き飛ばし、警官たちに一瞬で肉薄した。
「さあ、踊っていただきますわよ!」
激しい光と共にエリシアは猛攻を仕掛け、破壊のオーラが警官たちを吹き飛ばしていく。パニックに陥る警官たちは、次々と道を譲らざるを得なくなった。
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