第21話
ヴァイは素早く立ち上がり、連続の蹴りをエリシアに浴びせ、彼女を一瞬怯ませた。
その隙に、彼は歩廊から飛び降り、もう一台のシップに素早く向かい、ロックを解除した。
「くっ……!」
エリシアはすぐに追いかけ、シップにしがみつくようにして食い下がった。
「ちょ、待ちなさいよ!こら!女の子をこんなところに置いていくつもり!?」
ヴァイはシップのコクピットを一瞬だけ開けて、叫び返す。
「女の子だって!?バカじゃねえの!?」
彼の言葉が終わるや否や、シップのスラスターが轟音を立てて火を吹き出す。猛烈な推力がエリシアを強烈に壁へと吹き飛ばした。
「きゃあああっ!」
エリシアは格納庫の壁に叩きつけられ、衝撃に体が揺れる。ヴァイのシップはそのまま、猛スピードで格納庫を飛び出し、視界から消えた。
カウントダウンが無情にも終了し、爆発シーケンスが始まった。
格納庫内のあらゆる配管が次々と爆発し、猛烈な炎が辺りを包み込む。火の粉と煙が舞い上がり、格納庫全体が揺れ動いた。
「時間がない……!」
エリシアは急いでシップに駆け寄り、乗り込もうとしたが、ヴァイが仕掛けたロックでびくともしない。何度試しても扉は開かず、焦りが募る。
「くっ……!かくなる上は……!」
覚悟を決めたエリシアは、視線をパラシュートに向けた。もう選択肢はこれしかない。
「こんなことになるなんて……!」
彼女は格納庫のハッチからパラシュートを手にして、炎に包まれる格納庫から思い切って飛び降りた。下へと広がる虚空に彼女の体が吸い込まれ、風がエリシアの髪を激しく巻き上げる。
「逃がすかよ!」
ヴァイは操縦桿を強く握りしめ、サイトに映るバイトの機体を捉えていた。バイトのシップの後部が確実に視界に捉えられている。
——後ろは取った!
ヴァイの口元に勝ち誇った笑みが浮かぶ。彼の指が、ミサイル発射ボタンにかかる。
だが——。
バイトのシップが突如、強烈なGをものともしない急旋回を見せる。
普通の人間なら一瞬で意識を失うほどの加速だ。しかし、アノマリーを取り込んだバイトの意識は異常なまでに明晰だ。彼の動きには迷いがない。
「チッ……やりやがるな」
ヴァイは苛立ちを覚えつつも、すぐに追従し、バイトの機体を再び捉えようとする。
空中での両者はまるで絡みつく蛇のように、激しいドッグファイトを繰り広げる。高度を奪い合い、互いに攻撃の隙を探りながら、回転と旋回が繰り返される。
「今度こそ、仕留める!」
ヴァイの目が鋭く光るが、バイトもまた、鋭い直感とアノマリーの力で全く隙を見せない。
ヴァイの機体に、突然無線通信が入った。
「初めまして、とでも言っておこうか?」
低く冷静な声が機内に響く。
「ずいぶん遅い挨拶だなぁ、おい!」
ヴァイは狂気じみた笑みを浮かべ、返答代わりにバルカン砲を放つ。機体のバレルが回転し、弾丸が空間を裂いてバイトの機体に迫る。
だが、バイトは既に一手先を読んでいた。
鋭い旋回で軌道を複雑に描き、ヴァイの攻撃をかわすと、そのまま急激に上昇。瞬く間に、バイトがヴァイの上を取った。
「チッ……やりやがったな」
ヴァイは苛立ちを抑えながらも、笑いをこらえきれない。ドッグファイトは一瞬で逆転し、今度はバイトが優位な位置を取る展開となった。
「どうだ?俺のところに来ないか?」
無線越しに、バイトが勧誘の声を投げかける。
「あ゛ぁん!?」
ヴァイが怒り混じりの声で吠える。
バイトの機体から降り注ぐバルカン砲の弾幕を、ヴァイはローリングで躱すが、わずかに被弾し、機体の装甲が焦げ付く。
「チンケな殺し屋なんかやってないで、どうだ?俺は楽園を作るんだよ!」
バイトの声には自信が満ちている。
「楽園ん?サイト一基乗っ取ったところで何になる?バカじゃねーの?」
ヴァイは嘲笑を浮かべながら、機体を立て直す。彼にとって、バイトの言う「楽園」など、無意味な幻想に過ぎなかった。
「俺はオリジナルの力を手にしたんだ!」
バイトの声は自信に満ち、狂気すら感じさせる。
ヴァイは弾幕を巧みに躱しながら、眉を顰める。
「なんのオリジナルだよ!?」
「お前も見ただろ?あの女……」
バイトの言葉に、ヴァイの脳裏に浮かぶのは——エリシア。
「やはり、あの女か……」
ヴァイは心の中で確信を得た。エリシアがただの魔術師ではないこと、そしてバイトが手にした「力」が、彼女と深く繋がっていることを。
ヴァイはバイトの言葉に軽蔑の笑みを浮かべながらも、巧妙に急旋回を繰り返し、再びバイトの機体の後ろを取った。
「魔法は実在するんだ!俺たちがこの力を物にすれば——!」
「おいおい、『俺たち』だって?お前が勝手に拗らせてるだけじゃねえかよ、オッ!」
ヴァイは冷笑を浮かべながら、ミサイルを発射。高度な設定により、ミサイルは複雑な軌道を描き、バイトの機体を追尾する。バイトは必死に回避運動を取るが、ヴァイはその一瞬の隙を逃さず、バルカン砲で正確に照射。
——ドガァン!
バイトの機体の片翼が被弾し、そこから煙が立ち昇る。
「お前の『楽園』、墜落寸前だぜぇ?」
ヴァイは不敵な笑みを浮かべ、さらに追い討ちをかける準備を整えていた。
バイトは舌打ちし、焦燥感を隠せない。
彼のコクピットの横には、アジトにしていた商業船が猛烈な煙を上げながら墜落していくのが見えた。船体が炎に包まれ、黒煙が空を切り裂いて広がっていく。
「クソッ……!」
バイトは計画の崩壊を悟りながらも、まだ完全に諦めたわけではなかった。アノマリーの力を手に入れた彼には、まだ切り札が残っているはずだった。
だが、目の前のヴァイの存在がそれを許さないかのように迫っていた。
バイトは自身の背後をあえて晒しながらも、急加速し、煙に包まれた商業船の下を滑空する。
瓦礫と部品が無数に降り注ぐ危険な空間を、一瞬の判断で突き抜けた。
「け、姑息な……!」
ヴァイは苛立ちを抑えきれず、表情を歪ませながら追跡する。普通なら、こんなリスクを犯してまで追いかけることはしない。特に、墜落しかけの商業船の下に潜り込むなんて、自殺行為にも等しい。
だが、ヴァイの直感が警鐘を鳴らしていた。
——奴に時間を与えちゃいけねえ……!
内なる勘が告げる通り、もしバイトに猶予を与えれば、次の手を打たれるのは明白だった。
「くそっ……!」
ヴァイは分かっていながらも、商業船の落下物の間を掻い潜り、追いかける。
バイトは操縦桿を握りしめ、ほくそ笑んだ。頭の中では、勝利への二つの道筋が明確に描かれていた。
もしヴァイが様子見をして距離を取るなら、このまま商業船の煙と瓦礫に紛れて逃げ切ることができる。
だが、もし突っ込んできたなら、これは狂気じみたバトルの継続に過ぎない。どちらに転んでも、バイトは優位に立てる自信があった。
アノマリーの力により、彼の感覚は極限まで研ぎ澄まされている。
落ちてくる部品の一つ一つが、まるでスローモーションのように見えていた。瓦礫が降り注ぐ中、バイトは精密な操縦でそれらを避け、さらにヴァイを引き込む準備を整えていた。
「さあ、どう出る……ヴァイ?」
バイトの口元に不気味な笑みが浮かび、次の一手を待ち構えていた。
バイトは後方モニターを睨みつけ、にやりと笑った。
「来やがったか。そう来なくちゃなァ!」
彼の声には狂気と高揚が入り混じっていた。
黒煙が立ち込め、瓦礫が容赦なく降り注ぐ中、ヴァイの機体が迫ってくる。後方からのバルカン掃射が、空間を裂きながらバイトの機体を追い立てる。
「チッ……!」
だが、アノマリーの力で感覚が研ぎ澄まされているバイトは、凄まじい軌道で迫りくる瓦礫や攻撃を次々とかわしていく。瓦礫がスローモーションのように見え、機体を巧みに操りながら、その一つ一つを切り抜けた。
「フッ、無駄だ!」
しかし、次の瞬間、バイトの目の前に瓦礫の破片が迫る。
彼は冷静にそれを躱すが、後方ではヴァイの機体がその瓦礫に直撃する。
——ドガァン!
ヴァイの機体もバイト同様に片翼が被弾し、そこから煙が立ち昇る。
「チッ……」
ヴァイは片翼の損傷を意に介さず、バイトを睨みつけながら追い続ける。
そして狂気を帯びた笑みを浮かべ、賭けに出た。
「行けぇッ!」
残っているミサイルを全弾発射!
連射されたミサイルが、バイトの機体に向かって猛烈な勢いで飛び出していく。だが、それだけでは終わらない。ヴァイはバルカン砲のトリガーを引き続け、銃弾の嵐を浴びせた。
「正気か!?」
バイトは思わず叫んだ。
全弾放出とは、継戦能力の完全な放棄。通常のヴァイならば絶対に取らない無鉄砲な選択肢だ。だが、その行動はバイトの予測を超えていた。
「くそ……!」
バイトは急旋回してミサイルと銃弾を避けようとするが、その数が圧倒的すぎる。ミサイルが周囲で爆発し、閃光と衝撃波が機体に襲いかかる。
「こんなバカげたやり方……!」
予測の外側で突如として展開されたこの全力攻撃が、バイトを追い詰める。
ついにミサイルの一発がバイトの機体のもう片方の翼に直撃した。
爆発音と共に機体が揺れ、バランスを失ったバイトはコクピット内で制御を必死に試みる。
しかし、その直後、ヴァイも瓦礫の直撃を複数受け、機体から無機質なアラート音がけたたましく鳴り響く。
「チッ……ここまでか!」
ヴァイは気合で機体を瓦礫地帯から抜け出し、決死の覚悟で脱出ボタンを叩いた。
コクピットが開き、ヴァイの体はパラシュートと共に空中に放出される。
急激な風が体を包む中、ヴァイはバランスを保ちながらフラフラと飛行するバイトの損傷した機体を睨みつけた。
「地獄の果てまで……いや、地獄にすら行かせねえよ!」
ヴァイの瞳には狂気と執念が渦巻いていた。彼は、バイトを完全に仕留める覚悟を決めていた。
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