ルフィーナはトラブルに見舞われやすい・後編

「邪魔者が消えて安心しましたわ」

 リュドミラは満足そうに微笑んでいる。

「リュダ、マカール様に失礼よ」

 リュドミラは肩をすくめ、リュドミラを窘めた。

「だってルフィーナお姉様を取られたくないのですもの」

 ムスッとするリュドミラ。しかしその表情はどこか可愛らしかったので、ルフィーナも本気で怒る気にはなれない。

「リュダったら。仕方ない子ね」

 ルフィーナは眉を八の字にして、困ったように微笑むのであった。

「リュダは本当にルフィーナのことが好きだね」

 アレクサンドルがやって来た。

 彼は困ったように苦笑しているが、ヘーゼルの目は愛おしそうにリュドミラを見ていた。

「だってストロガノフ伯爵家にはお兄様しかいないもの。ルフィーナお姉様とはこれからも色々なことがしたいわ。だけど、サーシャのことも忘れてわいないわよ。わたくし、サーシャのことが好きだもの」

 リュドミラは嬉しそうにムーンストーンの目を細め、ヘーゼルカラーのスフェーンのネックレスと髪飾りを見せる。


 ちなみに、リュドミラは兄が四人いるのだ。


「ありがとう。嬉しいよ、リュダ」

 アレクサンドルは愛おしげにヘーゼル目を細め、自身が身に着けているムーンストーンのカフスボタンに触れる。


 婚約者同士お互いの目の色のアクセサリーを贈り合い、仲睦まじいリュドミラとアレクサンドルだ。


(リュダとサーシャ、本当にお似合いね)

 ルフィーナは幼馴染二人の様子を見て、まるで自分のことのように嬉しくなっていた。


「だけどリュダ、今日の本来の目的を忘れていないかい?」

「そうだったわ」

 アレクサンドルの言葉にハッとするリュドミラ。

「今日はルフィーナお姉様にご紹介したい方がいるのよ」

 ふふっと笑うリュドミラ。

わたくしに紹介したい方? 誰かしら?」

 ルフィーナはきょとんとしていた。

「お待たせしてごめんなさいね」

 リュドミラはアレクサンドルの後ろにいた令嬢に謝罪をしていた。

「ルフィーナお姉様、こちらはサルティコフ侯爵家の次女であられるマルファ様ですわ」

 リュドミラが紹介すると、マルファと呼ばれた令嬢はルフィーナにカーテシーで礼をる。

(彼女が以前、リュダが紹介したいと言っていた方ね)

 ルフィーナはロマノフ家主催の夜会でリュドミラから言われたことを思い出していた。

「楽になさってください」

 ルフィーナは微笑みながらマルファに声をかけた。

「ありがとうございます。改めまして、サルティコフ侯爵家次女、マルファ・イリーニチナ・サルティコヴァと申します」

わたくしはクラーキン公爵家長女、ルフィーナ・ヴァルラモヴナ・クラーキナです。よろしくお願いしますね」

 ルフィーナはマルファに優しい目を向けていた。

 ルフィーナ達はマルファを含めた四人で談笑していた。


 その様子を見ている者がいることには、ルフィーナは気付かなかった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 その日の夜会の帰りにて。

 ルフィーナは侍女のオリガと護衛のザハールと共にクラーキン公爵家の馬車に乗った。クラーキン公爵家の帝都の屋敷タウンハウスに帰るのである。

(今日も少し疲れたわね)

 ルフィーナはホッと肩の力を抜き、馬車の柔らかな椅子に深くもたれた。

 馬車の窓からは、アシルス帝国の帝都ウォスコムの夜景が流れるようである。

(帝都に来たのは去年の成人デビュタントの儀が初めてだけど、一年も経てば慣れるものね)

 ルフィーナは一定の速度で流れていく景色をぼんやりと見ていた。

 その時、後ろから別の馬車の音が聞こえた。

 辻馬車である。

(まあ、同じ方面なのね)

 ルフィーナは同じ速度で走る後ろの馬車にチラリと目を向けた。

 この時は特に何も気にしていなかった。

 しかし、辻馬車はずっとルフィーナが乗っているクラーキン公爵家の馬車の後ろを走っている。

(……後ろの辻馬車に乗っている方は、この辺りに用事があるのかしら?)

 チラリと後ろを見てルフィーナは怪訝そうな表情になる。

 ほんの少しだけ、ゾクリとした。

「ルフィーナお嬢様、どうかなさいました?」

 ルフィーナの隣に座る侍女オリガは不思議そうに首を傾げていた。

「いいえ、オリガ。何でもないわ」

 ルフィーナは柔らかく微笑む。

「お嬢様、馬車酔いとかは大丈夫ですか?」

 今度はルフィーナの正面に座る護衛ザハールが気遣うようにルフィーナを覗き込む。

「ザハール、大丈夫よ。ありがとう」

 ルフィーナはオリガの時と同じように柔らかく微笑んだ。

 辻馬車はクラーキン公爵家の馬車の後ろを走っているが、ルフィーナは特に気にしないことにした。

(きっと偶然行き先が近くというだけよね)

 ルフィーナはそう結論付けた。

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