第10話

 パリン。


 それは小さな音だった。その次に黒い生き物が大量に雪崩れ込んできた。


「くそっ!なんだよ」


 狼男は爪を振り回して応戦している。


その間にわたしの縄を解き、立たせてくれる手があった。


「ブラッド伯爵!」

「無事だったかなヴォルテール男爵」

「どうやって!」

「隠している奇術の一つや二つあるものさ」


 伯爵はにこりと笑った後狼男を見やった。


「返してもらおう。このひとはわたしのものだ」


 狼男は全身を狼に変化させ走り迫ってくる。伯爵も黒い狼へと姿を変えて応戦した。どちらのものかわからない鮮血が舞う。伯爵が狼男の首に噛み付く。勝負は決した。


 狼男は衛兵に突き出された。噛み跡と歯を照合すれば真犯人だとわかるだろう。


 牢に入れられ運ばれていく狼男を見ながら、わたしはひとつの疑問を伯爵にぶつけた。


「あれはどういうことだ」


 伯爵はなんのことかという顔をしている。


「このひとはわたしのものだと言っただろう!」

「ああ、それなら」


 伯爵は跪いてわたしの手を取った。


「わたしはあなたを愛している。わたしの伴侶になってくれないか」

「……わたしでいいのか」

「あなたがいい」

「……喜んで」


 伯爵、いやレイブンは破顔してわたしを抱きしめた。大雨の夜、抱き止められたことを思い出す。あのときから全てが始まったのだ。


 ある夜会で連続殺人事件が解決したことが発表された。功労者としてレイブン・ブラッド伯爵とゴメス・ヴォルテール男爵の名が呼ばれた。二人は夜会で引く手数多だったがその全てを断った。


「わたしと踊っていただけますか? ゴメス」

「もちろんだレイブン」


 わたしは年甲斐もなく踊り疲れるまで踊った。


 風が涼しいバルコニーで、わたしとレイブンは休憩をとった。そしてどちらともなく見つめ合う。


「ゴメス」

「レイブン」


 名前を呼び合い、わたしたちはキスをした。


「くっく」

「どうして笑うんだゴメス」

「若い娘でもあるまいにこんなところでキスなんて」

「いいじゃないか」

「そうだな」


 月は明るく、二人の笑顔を照らしていた。

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悪徳男爵が吸血鬼伯爵に愛されるまで おおつ @jurika_otsu

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