第3話 交渉の始まり②
勇者ギルドの役人たちが去り、村には重い静けさが戻ってきた。竜星は集まった村人たちを見渡し、力強い声で言った。
「みんな、聞いてくれ。一月後、俺たちはギルドにこの村の価値を認めさせる。そのためには、ここからの一歩一歩が重要だ。」
しかし、村人たちの反応は鈍かった。役人たちが去ったばかりの不安と疲労が顔に滲んでいる。
「一月で結果なんて出せるのか?ギルドに勝てるわけがないよ…。」
「俺たちには力も資金もないんだ。」
弱気な声が飛び交う中、竜星は歩み寄り、声を張り上げた。
「力や金がないなら、知恵を使えばいい。俺はそのためにここにいる。俺たちの価値は、ギルドに対抗する力じゃない。生き延びるための仕組みを作ることだ!」
その言葉に、村人たちは少しだけ顔を上げた。竜星の自信に満ちた姿は、彼らに小さな希望を与えつつあった。
竜星は村人たちを広場に集めると、次のような指示を出した。
1.狩猟の効率化
「まずは狩りの効率をさらに上げる。スライムやウルフは引き続き狩るが、新たなモンスターにも挑戦しよう。加工に使える素材の幅を広げるんだ。」
村人たちの中には戸惑う者もいたが、狩猟経験のある若者たちが「やってみよう」と声を上げた。
2.加工技術の向上
「次に、加工技術を改良する。スライムゼリーの乾燥だけじゃなく、皮や骨を使った新しい製品を作る。これで商品のバリエーションを増やす。」
竜星は村の道具を改造し、簡易的な革加工の装置を作り出した。村人たちはその工夫に驚きながらも、一つずつ操作を覚えていく。
3.流通ネットワークの拡大
「そして最後に、売り先を増やす。町だけじゃなく、他の村や旅人にも商品を届けられるようにしよう。」
竜星は、数人の村人に商品を持たせて旅商人を探すように指示。これまで村を出たことのない村人たちは緊張しながらも新たな仕事に挑む決意をした。
作業を進めるうちに、村人たちの間に変化が生まれ始めた。
「竜星さんの言う通りにやってみたら、意外とできるもんだな。」
「これまで捨ててたモンスターの骨が、こんな役に立つなんて…。」
彼らの中に少しずつ自信が芽生え始める。竜星はその様子を見て、笑みを浮かべた。
「そうだ、その調子だ。最初から完璧じゃなくてもいい。一つずつ積み上げていけば、結果はついてくる。」
村人たちが笑顔を取り戻し始める中、竜星は自分のスキルにさらなる可能性を感じていた。この異世界の住人たちに「経済」の概念を根付かせることが、彼の新たな使命だと実感する。
夜、村の加工場として使われている納屋では、スライムの乾燥ゼリーとウルフの皮で作られた試作品が並んでいた。竜星は村の若者たちと完成品を確認する。
「これが、ギルドに対抗する最初の武器になる。」
村の青年リックが、興奮気味に竜星を見つめる。
「本当にこれでギルドに認めてもらえるのか?」
「認めさせるんだよ。俺たちがここまで作ったんだ。結果を出せば、誰だって目を向ける。」
竜星の言葉に、村人たちの目が希望に輝き始める。
しかし、竜星たちが試作品を前に笑顔を浮かべているその夜、村の外れには数人の影が潜んでいた。
「奴ら、本当に商売をしてやがるな。」
「どうする?役人に報告するか?」
「いや…それよりも、ここで潰してしまった方が手っ取り早い。」
低い声が闇に響き、その影たちは村へと忍び寄り始めた。
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