第三話 部下と主人と

俺はセシルとハンターを連れてフルデリ城から1番近い村でぶらぶらと歩いていた。


あの宴会の後、母上が実家から慌てて帰って来ている最中とのことで宴会は1週間後にも執り行うことに決めてお開きとなった。


まぁ、母は貴族に憧れた父が子爵家に仕える家柄の良い侍女と聞いて結婚したので母の実家は領都であるルーテル城下にあるそうで、情報収集がてらよく実家へ帰っている。


反逆者の妻が元の主家の城下に出入りして大丈夫なのかと言う話ではあるが、どうやら結婚の事はあまり大っぴらにしているわけでなく、大して知られてもいない父の知名度すら領都ではほぼ無いに等しいのにそんな人間の伴侶など話題にもあがらないとかで案外安全らしい。


今は暇つぶしをしているわけではなく村人への顔見せと小競り合いなどの仲裁をするために支配域の村を歩き回っているのだった。


「若様、お館様がまもなく大きな戦を起こすそうです」

「大きな戦?あの派手好きの父のことだ。賊の討伐を酒の席で大きく言っているだけだろう?」

「いえ、どうやら隣接する城であるルカント城を攻めるそうなのです」


セシルの言葉に俺は彼の顔を二度見してしまう

「城攻めだと?幾ら父が山賊に対しては連戦連勝とはいえ城攻めとなると勝手が違う」

俺の言葉に無言を貫いていたハンターが口を開いた

「それに、一度の失敗は家の崩壊を意味する。ただでさえお互いに睨み合っている状況だ。弱ったところに食いつかれてはひとたまりもないな」

「ハンターは逆にこの家が滅んだ方が自由の身なんじゃないか?」

と意地悪な質問をすると彼はため息を着いた


「それがな、俺みたいな賊出身の者は敵の中でも顔が知られていてな。お前の父の様な恩赦がなければ山からも出れぬ身分となる。積極的に仕事はしたくないがこの領地を守る事は俺の進退にも関わるわけだ」

「それはまた随分と生きづらい身分になったな」

俺が茶化して言うとハンターは何も言わず怪訝そうにまた黙りこくってしまった。


「兎にも角にも、一旦父の真意を問いただす必要があるな」

俺の言葉にセシルは頷くと城へと俺たちは歩き出した。


ーーーーーーーー

城へ行くと父は絵図を広げて武官達と話し合っていた、父の傍らには当家唯一の文官兼父の愛人であるカリンが立っており意見を戦わせる父と武官達の様子を静かに見ていた

「父上!他領へ侵攻する計画があると聞きましたが!」

俺が評定の席に入っていくと父は顔を上げて俺の顔を見た

「おぉ、ルイか!左様、我らの支配基盤も安定して来た。そろそろ版図を広げる頃合いだろうて」


「しかし、兵力差をお考えください」

俺の反論に父が自慢気な顔を浮かべて顎ひげをなでつける

「知っての通り、わしらは村三つを支配しておる。各村からはそれぞれ約50の兵力が集まる、カリンの調べに寄れば村三つからは約150の兵が集まりわしの直轄兵約50を合わせて200の兵が集まる。対して敵は支配しておる村の数から350は動員できよう」

「そうです!倍近い兵を相手にするのは幾ら父上が百戦錬磨といえど無茶です」


俺が慌てて反論しようとすると父は右手を出して俺の発言を遮って続けた

「まぁ、待て。まだこの話には続きがあるのだ。単独で勝てぬのなら第三者の協力を取り付ければ良い。そうであろう?」


なるほど、第三者による協力を得られればその限りではないと言うことか

「しかし、我らと協力関係になってくれるものなどいますでしょうか?」

「それよ!その関係を作る任をルイ、お主に与える」


あー、はいはい外交をね、俺にね、任せるのね

っておい!なんで14になったばかりのガキンチョにこの人は外交を任せようとしてるわけ!?

「ち、父上?流石に私では外交相手に侮られるかと……。」

「ふーむ、例えそうだとしてもお主以外に適任がおらん。考えてもみよ、わしの配下は武官が5人に村長3人、そして文官のカリンが居るのみじゃ。村長は村を離れられず、武官は交渉事に向かぬ、カリンはわしの懐刀であるからにしてそばにいてもらわねば困るのじゃ」


嘘つけ、このスケベ親父め。カリンと毎晩寝てるのは知ってるんだぞ?寝床の相手が居なくなるのが嫌なだけの癖に仰々しい理由をつけやがって。

と、思っては居たがそんな事お首にも出さず然もありなんと言った風で神妙に頷いておいた


「それに、嫡子のお前が行けば向こうにもこちらの本気具合が伝わると言うものじゃ。お前も領外に出て見聞を広げてこい」

まぁ、その言には一理あるか……。俺も14になるまでこの領地の外に出たことがない。ここは父の胸を借りて他領を見てくるのも一興かもしれない。


「わかりました。その任謹んでお受けしたします。それで、どこに協力を要請するのです?」

「うむ、ここフルデリ城の南には交易で栄える港街がある。そこを治めるベートン家のノーブル殿に助力を要請してくれ」

港町か確かに協力関係を築けると何かと便利そうだ

「わざわざ、ノーブル殿と名指しにしたのは何故です?」

「かの家は現在、港の支配権をめぐって兄弟が争っている状態なのじゃ。彼の地は大小二つの港があり、兄のハーレー殿が大きい方、弟のノーブル殿が小さい方の港を有しておる」


それで合点がいった

「なるほど、弟のノーブル殿と協力し我らは兵を貸してもらう代わりに兄弟喧嘩に加担すると言うわけですね?」

「そういうことだ、話が早くて助かる」

そうなると交渉のポイントは我々の力をどれだけ示せるかにかかっているわけだ。兄弟喧嘩に介入する俺たちが弱くては話にならないからな


「では、すぐにでも出立いたします」

「あぁ、頼んだ。わしはお前が帰ってくるまでに動員を済ませておく」


俺は頷くとセシルとハンターを連れて評定の席を後にした。

「セシル、ハンター。聞いたように俺はノーブル殿のいるヒューズ城へ向かう。共をせよ」

「「はっ!」」

セシルは恭しく頭を下げ、ハンターは雇い主に対してするような何処かよそよそしい様子ながらも頭を下げた。

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