秘密の露呈から溢れる蜜

第21話  深まる関係

 寝れるわけがない。

 1日が24時間だと言うのが信じられないぐらい色々あった。

 色々あったからあっという間に過ぎるならよく聞くし体験もする。

 しかし今日に限っては長かった。


 だけど私の今日の記憶は数時間前の出来事だけ鮮明に覚えてしまってる。


 唇に指を当てる。

 なんで彼女はあんな事をしようと思ったのか。実行したのか。

「とんでもない後輩がいたんだね…」

 タオルケットを頭まで被り雨湯児さんを思い返す。


 私はどうしたらいいのだろうか。

 そもそも彼女は私の事をどう思っているのだろうか。

「せっかく一人に慣れたのに…」

 正確には一人であることに納得し始めたところだ。

 部屋は別でそれぞれ違うゲームで一人遊んだとしても寝る時は一緒に寝て、一緒に起きてご飯を食べて…

 人の温かさに依存していた私から彼女が居なくなりポッカリ穴が空いてた私に…

「あんな事されたら…欲しくなるじゃない…」

穴を埋めてくれる彼女はもうこの世に居ない。

 人の記憶は曖昧である。

 ファスとキスした感触は思い出せない。

 匂いは記憶と強い結びつきがあるとされるがその匂いそのものは思い出す事が出来ない。

「薄れていくのは当然なのは分かってるけど…」

 これが時間が経つにつれて死んだ人は遠くなると言う事か。

 目を瞑ると雨湯児さんの顔が浮かび再びキスされた事が呼び起こされる。


「寝れないのは雨湯児さんの所為にしておこう」

 本当になんでこんな辛い事を…

 だけど。

「感触はすごく良かったのがなんか悔しいと思うかも」


 思考はグルグルと止まらない。

 それでも眠気はだいぶ遅刻してやって来た。


 少し失礼かも知れないが。

 毒を喰らわば皿までの精神で行くしかないかも知れない。


 私自身、雨湯児さんを拒絶すると言う感情や選択肢はないようだ。

「責任…取ってもらうしかスッキリしなさそう」

 それでもいいよねとファスに祈りを込めて目を閉じて眠気に誘われた。


 日曜日の朝は当然ながらいつもより遅く目が覚めた。

疲れは取れたような取れてないような、中途半端な目覚めだった。


 スマホを覗けば9時を過ぎていて雨湯児さんメッセージが届いてた。

「んー、となになに『昨日は運転お疲れ様でした紗凪先輩の事教えてくれてありがとうございます。また月曜日に会いましょう!』…ねぇ…」

 結局あのキスの釈明は無しか!返事はどうしたらいいのか悩む!

 はぁぁ、とため息を漏らし『おはよう、うんまた明日』とだけ返信して朝ごはんの準備をする。

 トーストにイチゴジャム、ダーリンティーを用意してタブレットで動画を流しながらの朝食だ。

 今日は特に予定はないが夜はもう外食しよう。

 どこにいても一人が寂しくなる。


 私は食べ終え食器を片付けて着替える。


 自室に戻った私はゲーム機を起動して朝からゲームをすることにした。

「フレンドさん、もう起動してる。誘ってみるか」


 フレンドさんにメッセージを送ると一緒にしてくれるという事で決まり結局夕方までゲームをしてしまったのだった………


 ゲームをやめて出掛ける準備をし何を食べるか考える。


 うどんを食べに行こうかラーメンにしようか…麺類が食べたい…

 麺類が食べたい!


 という事で私はコッテリの豚骨ラーメンを食べに行くことにした。


 が、しかし……


「「なんでこういう時に同じところにいるんですかね」」


 食券を買ってカウンター席に座ったがいいが、隣に座ってたのは雨湯児さんだった。

「先輩もコッテリなラーメン食べるんですね。それでそのスタイルなんですね!そしてほんとにそんな服装なんですね!」

 語気を強めじーっと私を見る。

「今日は黒のハーフキャミに––」

「みーたーらー分かります、私には無理な服装ですからね!」

 いや、雨湯児さんも細身だと思うんだけど。

「あぁー、よりにもよってあんなことした翌日に会うなんて……」

 そう、昨日あんな事されたから聞きたかったんだが…

「そうそう、昨日のアレは––」

「ここのラーメン美味しいですよね、ここのラーメンを完食するのと何処ぞのコーヒー軽食を提供してる甘々ホイップクリームだらけの飲み物とカロリーは大きく変わらないそうですね」

「昨日あの後しばらく寝れな––」

「ここの他に味噌ラーメンが美味しいと評判のお店もあるそうですけど先輩しってますかーー」

 答える気はない、そういう事らしい。

 タイミング悪く雨湯児さんの注文したラーメンが届いた。

 んー、何かやり返したいところである。

「それじゃ、私食べるので。いただきます」

 隣で上に乗ってる野菜をパクパクと食べだす彼女が可愛く思える。

 じーっと見てると。

「そんなに…見ないでください。食べにくいです」

 何かやり返したい事を考えて考えて思いついた。

「ごめん、可愛くてついね」

「冗談なら結構ですー」

 ズルズルと麺が口の中に入ってくのを見える。

 私は耳元で囁いた。

「他のラーメン、私も雨湯児さんと一緒にイッてみたい」

 無駄にイッだっけ強調しておいた。

 ブグホと吹き出すのを必死に耐え急速で咀嚼し飲み込んだ雨湯児さんが半笑いで睨む。

「先輩、ちょっと趣味が悪いのでは?」


 大満足である。

「さぁ?私もラーメン来たしいただきます」

 それにしても雨湯児さんは何を想像したんですかね?

「聞いたら怒りますから」

 そう言うと残りのラーメンに向き直すのだった。

 心、読まれてましたか……


 食べ終えた私達は一緒に店を出てスイーツは別腹という事でコンビニでスイーツを買った。

「お茶もあるし私の部屋に来る?」

 誘う事にした。

「折角ですからお邪魔します」


 という事で私の部屋に集まるのだった。


「広いですね…」

「まぁ、2人で住むからそれなりの物件を選んだからねー、部屋数は十分よ」

 リビングに通して待ってもらいお茶を淹れる。

「ほんと、お二人仲が良かったんですね」

「でなければ、一緒には住めないよ」

 当然の答えを返して紅茶を目の前に置いて私も着席する。

 「「いただきます」」

 私はチーズケーキ、雨湯児さんはモンブラン。

「紅茶と完璧な相性です!」

 彼女の顔も明るくなる。

「チーズケーキとの相性も素晴らしいんだよ、食べる?」

「え、じゃあいただきます」

 答えを聞いた私はフォークで切り分け刺して口元まで持っていく。

「えーっと先輩?」

「ん?どうぞ?」

「えー、はい、いただきます」

 ハムって音が聞こえそうな感じにチーズケーキは口の中に入っていく。

「美味しいですね!コンビニスイーツ侮りがたし」


 最近のコンビニスイーツは美味しい。


 あっという間に食べ終える。


 明日が仕事という事で食べ終わると帰る事にした。


 玄関まで付いて行き見送る。

「それで、雨湯児さん」

「………私にも分かりません」

 聞く前に答えられてしまった。

「そっか、じゃあ、私にキスしてどう思った?」

「心臓バクバクでしたよ、それ以外は覚えてないです……嫌でしたか?」

 振り返った彼女は不安なのは見てわかった。

「ううん、嫌じゃなかったよ」

「え?」

 雨湯児さんが少し驚いてる。

 嫌なら問い詰めてると思うんだけどな。

「嫌じゃなかったよって言ったの」

「………もう一度しても…いいですか?」

 上目遣いで見てくる雨湯児さん。

「私としたいの?」

「はい、先輩にしたいです」


 私が目を瞑ると少し震えてる柔らかく温かい唇が私の唇に重なってるのが分かる。

 離れた後に目を開けると顔の赤い雨湯児さんが慌ててる。

「そ、それじゃまあ明日です!」

「はーい、また明日」

 扉を開け出て行った雨湯児さんを見送った後、玄関に置いてるファスの写真に向く。

「私はもう大丈夫だよ、お休み…」


 これでいいんだよね。

 そう祈り部屋に戻った。

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