知らない単語ばっかぶつけんのやめてくれ!

「では……そのバイクの怪人はバルナイザーと名乗っていたんだね?」

「はい。間違いなく。」

「私も聞きました。」


 戦乙女機関関東支部。

 そこに設置されたとある研究室で、一人無数のモニターに繋がれたコンピューターを動かしながら、アカリとアイ話を聞く白衣の人物が居た。


 ボサボサな長い黒髪に目の下にクマを浮かべたその人物は、何かを考え込むようにパソコンを打ち続けている。


 彼女の名は『倉成くらなりハズキ』……アイやアカリの使う戦乙女の武装や装甲――通称『アームズ』の開発者でもある。


 厳密には、その土台を作ったのは彼女の母『倉成ユウガオ』であるのだが……その土台から実用段階まで進めたのはハズキ自身であるため開発者と言って誤解はないだろう。


 そんな彼女は蟹型イグザムとの戦闘から数日経った頃、アカリやアイから相談を受けていた……その内容は、2人が出会った謎の怪人バルナイザーについてだ。


 以前にも謎のコスプレイヤー、バイクの怪人と言うキーワードを2人から貰い上層部に調査を依頼したが、結果は全くもって成果なし。


 このまま、戯言のように薄れていくのかと思いきや……先日のイグザム戦で、遂にアカリとアイが本格的にバイク怪人と接触。戯言では済まなくなってきた。


「あのっ、バルナイザーは一体何なんですか?」

「私にもさっぱり……だが、イグザムの反応は無く、戦乙女の反応も皆無。そして人体を無視した変形。戦乙女機関としての主な見解は『何者かが作った対イグザム用の戦闘ロボット』と言うのが主になっているね。」


 戦乙女の使うアームズに仕込まれている戦闘データ記録用のカメラから取られた映像には、バルナイザーの変形や戦いぶりも記録されていた。


 その常軌を逸した記録に、少なくともロボット類と言うのが、戦乙女機関の科学者や上層部の一般的な見解だ。


 勿論、ロボットにしては人間的な行動も多くそこが引っかかる者も少なくはないが……少なくとも、身体は機械であるというのは全員変わらぬ意見だった。


「何者か……とは?」

「さあね。私が分かるのは相当な特撮ヒーロー好きって事位かな?」


 ハズキが困った表情でそう笑うと、アイはうんうんと目を輝かせて頷き続ける。アカリは何と言えない目線をアイに向けながら、ハズキへ問いかけた。


「それで……戦乙女機関は、彼を……バルナイザーをどうするつもりなんですか?」

「現状、イグザムの反応もなく、人を襲う気配も無い……一先ずは『敵』では無く『第三勢力』として接触を図ろうとしているようだ。」

「第三勢力……ですか?」


 すこし、どっちつかずな言い方だ。アカリの疑問を察して、ハズキが答える。


「こう言う時に意見ってのは割れるもんで……『共に戦う協力者』として扱うか『未知の力を持ったオーパーツとして分解解析するか』……半々ってところかな?」

「分解って……そんな事をしたら彼は!」

「だから、半々。戦力になり得る存在をみすみす失うのも良しとは出来ない。って意見もあるからね。」

 


 戦乙女機関は裏の組織ではあるが、政府からの認可を受けている大規模な組織だ。


 それだけ無数の考え方をするものがいる……一つ確かなのは、皆がイグザムから世界を、人を守りたいと願っていることだけだ。


「……因みに、ハズキさんはどちらに?」

「……私は、そうだね。科学者としては解析したい気持ちもある……いや!正直に言うとだね、私も好奇心が疼きっぱなしなんだよ!なんだいあの変形、あの出力、あの駆動系!並の代物ではない!解体して隅から隅まで調べ上げたいよ!!!……あっ。」


 ハズキはアカリやアイから白けた目を向けられたのを自覚すると、少しバツが悪そうに一度咳払いをして言葉を続ける。



「ごほんっ……だけど、それで何も得られなかった場合が悲惨だからね。イグザムへの対抗手段を我々の手でみすみす壊してしまう事になる……君達はどうなんだ?」


 ハズキの問いに、アイは口籠り……アカリははっきりと言葉にする。


「私は、曲がりなりにも彼に助けられた身です。彼がそうしてくれるなら、私は彼と共に戦いたい……そう思います。」

「……そう言うとは思っていたよ。まぁどちらにしろ、そのバルナイザーを見つけなければどうしようもないがね。」

「見つかるんでしょうか?」

「恐らくはバイク形態で潜んでいると考えるのが妥当だ、映像もあるから時間は掛かるかもだが必ず見つかるだろうね。」


 前までは手掛かりが少なかったが、ここまでとっかかりがあれば見つけ出す事も可能だ。

 

「まぁ、その辺の事は調査部の連中がやってくれる。餅屋は餅屋、私達は自分に出来ることをしようじゃないか……私はアームズのさらなる調整を、君達は……身体を休める事を、ね。」

「……はい。」

「わかりました。」


 アイとアカリは納得したのか軽く頷き、その場を去っていく……そのあとに残されたハズキは、一人考え込む事になる。。


(バルナイザー、一体何なんだ?イグザムは戦乙女にしか倒せないはず……戦乙女とは平たく言えば『体質』。イグザムを倒すことの出来るアームズや魔術を操れる因子を持つ者……と言う事はやはり、アレはアームズそのものであり……ロボット?しかし自動操縦のロボットによるイグザム討伐はどれもこれも失敗してきた……一体何が違うというのだ?そもそもアレは機械なのか?大体一体なぜ――――)


 完全に一人自分の世界に入り自身の考えをまとめるハズキ。膨大な思考をしながらも、アームズの調整をする手は止まらない。そんな彼女を止められる者は、最早この部屋には居ないのだろう。




《hr》


 あぁ……夜の港にいると潮風が寒い。

 あ、こんにちは、海沿いの港にいるバルナイザーです。


 なんでこんな所にいるのかって?いや、実はね……さっきまでは普通に駐車場とかに居たんですけど……俺って実はナンバープレート付いてないんですよ。


 それで警察呼ばれてレッカーされそうになったので、隙をついて逃げました。


 恐らくはてんやわんやになってるでしょうが……スクラップはやだ!スクラップは嫌だ!と言うわけで、許してほしいっすね。


 いやぁ……改め考えると、俺本当にどうなってるんでしょうかね。


 バルナイザーなんて訳わかんない奴になっちゃって……名前とか見た目とか妙に俺好みなのが気になるんですよね。こんな俺の趣味に合うことある?って感じで。


 まぁ、なってしまったもんはしょうがないけど……それにしたって気になることが多すぎる。あの痴女……間違えた、アカリやアイって子達は何者なのか、あの子達が戦っている化物は何なのか……


 まぁ、無理して関わる必要もないんだろうが……どうにも一度遭遇してしまうと気になってしまう。それに、このままずっとバイクで暮らしていけるのかも謎だ。


 いっそ、あの時アカリやアイについていけばよかったのかもしれないが、まぁそれはそれで何があるか分から無い。これで改造されたり変なことされたら嫌だし……あれっ、俺既に魔改造されてるみたいなもんか……。


 あーあ、メスのバイクと結婚して幸せな家庭を手に入れたいなあ。


 前世の俺って彼女とかいたのかな?……前世の事殆ど覚えてないのもネックだよな。死んだ直後の記憶しか無い。


 人生であったこととかも朧気だ。家族の事なんか殆ど思い出せない……年齢もあやふやだ。その癖くだらない特撮ネタとかは覚えてるのがどうなってるのかわからなくなる。


 どんな脳みそしてんだ俺は……と言うか今の俺に脳みそがあるのか?……流れてた血も明らかにオイルだったし……やっぱり俺はロボットなのか?ザ◯ーガーなのか!?オー◯バジンなのか!?


 そんな風にくだらないことばかり考えてしまうが、そんなことでも考えておかないと理解不能な状態すぎて気が狂いそうになる……特撮ヒーローなのは良いよ、なんでバイクなんだよ!人間で居させてくれよ!


 まぁ、起こったことに文句を言ってもしょうがないけどな……兎に角、次は何処行くか考えとかないと。



「……。」


 んっ?足音……?こんな所で、誰だ?


「ふむっ、そこにいるな?……バルナイザー、とか言ったか。」


 うわ、軍服みたいな服だけど露出高くね?ムチも持ってるし……何?この世界痴女しか居ないの?それになんで俺の名前知ってるんだよコイツ。


「異世界より力を携えた転生者……と言うべきか?……ふふっ、それがこんな二輪車だとはな。ふふっ」


 何言ってんだコイツ怖っ。

 転生者……いや、まぁそうだけど、そうなんだろうけど……異世界?そうこっちの世界と変わんないけど……異世界と聞いてファンタジー思い浮かべる俺が間違ってるのかな。


「ふふふっ……」


 なんでこの女ずっと笑ってんだよ。怖いよ……


「我らイグザムの繁栄を阻む障壁は……滅さなくてはな。」


 イグザム……?何を言ってんのマジでさっきから……っ!?ムチがビームサーベルみたいにっ……って危な

っ!!??


「ふんっ!!」

『チェンジ!バルナイザー!』

「うおっと!?」


 な、なんとか変身して避けられた……地面で裂けてる……まともに食らったらヤバいかもしれないな。


「ほぉ、自身で名乗るとはとんだ酔狂者だな。ならば、私も名乗ってやろう……私はジェナス。この世界、戦乙女からはでは上級イグザムと呼ばれる者。」


「ジェナス……だとっ?」


 ジェナス、それが名前か……いや、その前に…………イグザムって何?上級って何!?戦乙女って何!?知らない単語ばっか並べるのやめてくれって!訳わかんねぇんだよ!!誰だよお前!?


「ふふっ、私の事を知っているのか?大義な事だ。」

「……いや、知らな」

「今回お前とこうして顔を突き合わせたのは語るべき事があるからだ。」


 話聞かねぇ!?なんだこいつ!?誰だよお前!?


「……我々の仲間になれ。我々に手を貸せば、お前を生かしてやる。お前はあの戦乙女達の仲間ではないのだろう?我々と手を組んだほうが安心で安全だ。そうは思わないか?」

「……意味が分からん。」


 本当にっ!!本当に!!意味がわからない!さっきから何いってんだよアンタ!頼むから何も知らない人でも分かるように説明しろよバカ!!!!


「……そうか、やはり交渉は不成立か。まぁ、分かっていた事だ。残念だが、さようなら。」

「っヤバ――――」


 そう言って目の前のジェナスがムチを振るう……俺は咄嗟に回避しようとするが、俺が高速移動を始めるよりも早く、そのムチの刃は俺の胴体を深く切り裂き……俺の胸から緑色のオイルのような血を迸らせた。



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