第7話
橋本は再び街を去り、行脚した。
交通機関は発達しているが、それでも橋本は歩く。
これは、修行である。
橋本の肉体とは常人よりも丈夫にできていた。
何里ほど歩いただろうか。
橋本は寺につき雑務を済ませ、お経を読んでいた。
すると、外が何やら騒がしかった。
若い男が叫んでいた。
「誰か!誰か助けてください!!この女何かに取りつかれているようで...」
身なりの派手な女は家庭用の包丁を男に向けていた。
「構ってくれないならお前を殺す!!そして私も死ぬ!!」
男も派手なスーツに金髪であった。
金無垢の時計や、アクセサリーを付けていた。
おそらくホストと客であろう。
「だから、売掛金払えないと、まちゃみんには構えないんだって...」
「私の事、お金だと思ってるんでしょ!!ATMだと思ってんでしょ!!私春樹の為にたっくさんがんばったんだよ。汚い親父に唾つけられて、頑張ったんだよ!!」
「でも、売掛金払えないと...」
橋本は庭内で騒いでいる男女に声を掛けた。
「何をやられてるんですか?」
「この女が包丁持って暴れてるんですよ!この辺人が全然いなくて...警察呼ぼうと思ったら、3台とも携帯キレてるし、公衆電話もないし...」
「他の女の携帯は切っとけって言ってんだろ!!」
「いやいや、仕事だし...」
よく見たら画面がバキバキであった。
「おっさん邪魔したらあんたも...」
橋本は人差し指を女に向けた。
「何だよその指....早く警察...」
「喝!!!!」
辺りの草木が揺れた。
ホストと女はその場に倒れた。
橋本がやったのは、超音波であった。
2
警察が来た。
殺人未遂の疑いで女は逮捕された。
ホストは警察の事情聴取に応じたのであった。
「最近何かと物騒ですよね。」
橋本は駆けつけた警察官に言った。
「そうですね。最近このあたりで連続殺人が起こってるのはご存じですか?」
「いいえ。今日来たばかりですから。」
「そうですか。体の一部が欠損しているらしいんですが、被害者は全員女性なんですよ。」
3
夜。
街灯が町を照らす。
女は、徒歩で帰っていた。
最近、太ってきたように思うからだ。
といっても、少し、歩けば、それで痩せれると思っていた。
派手な格好をしていた。
職業はない。
ギャラのみであった。
自分の容姿にそれなりに自信があった。
だから、食えているのだろう。
だから、親父に気に入られているのであろう。
成金どもは、学生時代モテなかったコンプレックスを金で解決しているのである。
需要と供給がマッチしている。
金さえ払ってもらえれば、どんな飲み会にも付き合う。
正当な対価と思っていた。
もう少しもらってもいいのだが、あまり吹っ掛けすぎると声を掛けてもらえなくなる。
バランスが重要であった。
こつ
こつ
ヒールが鳴る。
カバンも高級である。
身につけるものすべてが高級品であった。
贋作は一つもない。
安い女は贋作で喜ぶが、私は喜ばない。
なぜなら、匂いで分かるからだ。
高級品独特のにおい。
時計であれ、バックであれ、ネックレスであれ、安物と、贋作と、本物の匂いが分かる。
理由は分からない。
私にだけ備わった特殊能力のようなものだろう。
他の女には当然教えない。
だから、嘘をついてやるのだ。
「この時計本物?」
と頭の悪い女が聞いてくる。
男の様子を見てから、匂いを嗅ぐ。
実際に鼻を近づけるわけではない。
観察するのだ。
男の反応と、時計を。
それを見て言ってあげる。
「本物だよ。」
大抵は偽物である。
安物でも、贋作でも同じ。
エルメスのカバンでも、そうでなくてもそう言ってあげる。
男と女が、喧嘩しようとどうでもいいのだが、他の女が私よりいいものを買ってもらうのが我慢ならないのだ。
だから、嘘をつく。
裸の王様なのよ。
女はそんなことを考えながら歩いていた。
すると、前から、分厚いコートを着た女が近づいてきた。
「すいません、駅はどちらにありますか?」
女は振り返る。
「あっちですよ。」
高級品の女が言うと、分厚いコートを着た女は礼を言った。
「ありがとうございます。」
すると、分厚いコートを着た女が、口を開き、高級品の女に襲い掛かった。
「ぎゃああああ!!」
ぎゃぶ
ぶちぶちぶち
女は首をかまれた。
ネックレスが引きちぎられた。
コートの女の口が赤く染まっていた。
そして、金色のネックレス。
それを飲み込んだ。
その次に耳を食った。
耳にはイヤリングがついていた。
その次は、腕であった。
コートの女は、高級品の女を、地面に倒した。
そして、アスファルトに、頭を叩きつける。
女の抵抗も虚しく、頭が血で染まる。
続いては、足であった。
ぼり、ぼり、ぼり、
女は痛みがなくなっていた。
血が流れすぎて、意識がもうろうとしている。
叫ぶ気力すら残っていない。
あとは、されるがままになっていた。
「や、やめてください....」
女は言うが、やめない。
派手な化粧に包まれた顔を、コートの女は食べていく。
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