第4話 選択肢
「天雅剣?」
その名は、ファーラルの歴史に深く刻まれた伝説の象徴であり、誰もが知る神聖な存在だった。しかし、その剣が今どこにあるのか、誰も知らないはずだった。彼女の微笑みと、掌に浮かんだ謎の紋様が、彼の心に不穏な影を落としていた。
少年は椅子に腰を下ろし、背中の白い翼をそっと動かした。羽根が擦れる音が、静寂の中で小さく響く。掌の紋様をじっと見つめ、フィアーナの言葉を反芻する。
「私達は、天雅剣をどうしても手に入れたいのよ、でもね…それを手に入れる事の出来るのは貴方のような羽根人でしか手に入れられ無いのよ」
「それで僕を捕らえた…と言う訳ね」
「どう解釈するかは自由だけど、少なくとも貴方は私からは逃れるられ無い運命にあるのよ」
「はあ…?もしかして、魔法薬の事を言っているの?」
「どうかしらね?まあ…今日は、この辺にしておきましょう。明日までにどうするか考えておく事ね。天雅剣を手に入れるか、それとも…釈放を望むのか、貴方の判断に任せるわ」
フィアーナは、そう言って出て行く。
「魔法薬、か……」
彼は呟き、唇を噛んだ。あの水を飲んだ瞬間から、彼女の言う通り、何か得体の知れない力が彼を縛っている気がした。だが、悔やんでも遅い。今は彼女の目的を知り、どう動くべきかを見極めるしかない。
翌朝、薄暗い牢獄に朝日が差し込むと同時に、扉が再び開いた。フィアーナが一人で現れ、昨日と同じ異国の衣装に身を包んでいる。彼女の赤毛が朝の光に輝き、まるで炎のように揺らめいた。手に持っていたのは、革製の鞄と一冊の古びた本だった。
「おはよう、ロディウォンス君。よく眠れた?」彼女は軽い口調で言ったが、その目は鋭く少年を観察していた。
「こんな場所でよく眠れるわけないだろ」ロディウォンスはむすっとした表情で答えたが、内心では彼女の次の言葉に身構えていた。
フィアーナは椅子に腰掛け、鞄から地図と数枚の羊皮紙を取り出した。
「さて、昨日話した天雅剣について、詳しく説明するわ。興味あるでしょ?」
「興味っていうか……巻き込まれたって感じだな。で、なんで僕なんだ? ただの羽根人だぞ、僕は…」
彼は不満げに言ったが、フィアーナの微笑みは揺るがなかった。
「ただの羽根人? いいえ、ロディウォンス。貴方は特別よ。貴方の白い翼、藍色の瞳……それは預言に記された『救世の少年』の特徴と一致するの。尊師と呼ばれる者たちが、ずっと探していた存在よ」
「預言?」ロディウォンスは眉をひそめた。
「そんな話、聞いたことない。僕の先生はそんなこと一言も言わなかった」
フィアーナは静かに頷き、持っていた古びた本を開いた。ページには、古代の文字と複雑な紋様がびっしりと描かれている。
「この本は、蒼天歴の初期に書かれた預言書よ。そこにはこう記されている。『白き翼と藍色の瞳を持つ少年が、ファーラルの混沌を終わらせ、天雅剣を手に光を灯す』。そして、もう一人の少年……彼もまた、翼を持つ者だとされている」
「もう一人?」
ロディウォンスは目を細めた。
「それって……?」
「そう。もう一人の少年も、貴方と同じく羽根人よ。貴方と同じ白い翼と金色の瞳を持つ少年。預言では、二人揃って初めて天雅剣の真の力を引き出せるとされているの。でも、問題は……その少年の行方がわからないこと。そして、天雅剣自体が歴史から消えて久しいこと」
ロディウォンスは黙って聞いていたが、内心では混乱していた。預言、救世主、天雅剣―そんな大それた話に自分が関わるなんて、想像もしていなかった。彼はただ、自由に空を飛び、先生の教えを守りながら生きてきただけだ。
「それで…僕にいったい何をしろって言うんだ?」
彼は少し苛立ちを込めて尋ねた。
フィアーナは地図を広げ、指で一つの場所を指した。それはファーラルの北西、険しい山脈と深い森に囲まれた地域だった。
「貴方には我が国の為に、ある場所に行って貰うわ」
「ある場所?それはいったい?」
「天雅剣、それは2つの剣が揃ってこそ意味があるもの…古文書によれば、天雅剣は、天聖剣、聖雅剣の2つが存在するわ、どちらがどんな役割をするかは我々には不明ですけど…ただ一つ分かっている事は、我が国メルディアンス国に対して大国セーディオロン帝国が何らかの動きを見せている事よ。帝国が動けば小王国は太刀打ち出来ないから、今のうちに貴方には我が国の使者として働いて貰う事が我々の目的よ」
ロディウォンスは腕を組み、彼女を睨んだ。
「いきなり捕らえて、この国の為に働けって、少し都合が良く無い?」
フィアーナは少し笑みを浮かべ、目を細めた。
「そう思われるのは仕方ないけど、貴方が伝説の剣を手にして、やがて起きるかもしれない動乱を納めれば、貴方の身は自由になるけど…まあ、どうしても嫌なら、交渉決裂と言う事で、貴方を解放させても良いわよ。ちなみに…だけど、解放した後、私が特殊な呪文を唱えた場合、貴方が何処に居ようとも魔法薬の効果で、貴方の身は3日以内に朽ち果てる事になるかもしれないけど…?」
フィアーナは意地悪そうに笑いを堪えながら言う。
ロディウォンスは掌の紋様を見て、改めて自分の置かれている状況に不安を感じた。理由も分からないまま、自分は知らない間に伝説の剣を手にしなければならない状況に立たされていた。それも選択肢はあるが断われば絶命確実の、ほぼ強制的の選択肢でもあった。
「アンタ…もの凄く性格悪いって言われるでしょう?」
少し苛立った様子でいながら、何処か呆れて様な表情でロディウォンスは呟いた。
「褒め言葉として受け取って置くわ」
彼女はフフ…と笑いながら答える。
天雅剣の伝説 じゅんとく @ay19730514
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