第11話[天地と理]

「奥様、お客様がお見えになっております」


「ん〜···先生は?」


「旦那様でしたら賢聖アルテア様の依頼でお一人でベトナ山に向かわれました」


「分かったわ応接間に通して、すぐ向かいます」


 リズが簡単な部屋着で応接間に向かうとディアナが紅茶を飲みながら待っていた


「貴女だったのですね?先生ならご不在ですわよ」


、急ぎの用件と確認で来たんだ」


「申し訳ありませんが夜勤明けで先程まで寝ておりましたから、先生がステュパリテスを連れてベトナ山に向かったとしか存じてません」


リズお前はさぁ、ルーク旦那と喧嘩でもしたのか?」


「何の事でしょう?身に覚えがございませんが」


「実はさぁ···」


 ディアナはアルテアの研究所ラボでの事を話した。普段おどおどして礼儀正しいルークが人が変わったかの様にイライラして攻撃的だったからだ


ルークあの人1人にさせると前みたいにならねぇかって皆心配してンだよね」


「···先生は今、先生にしか解決出来ない事にイライラされてるのです。私もその原因を教えていただきましたが、歯がゆい事に私じゃ傍に居る事しか出来ませんもの」


「そっか。悪ぃ」


「剣竜ディアナ様にお願い依頼がございます」


「ど···どうしたンだよ改まって」


「ローディス子爵夫人としてルーク当主の護衛をお願い申し上げます。ジェイムズ」


「はい、そうなさると思っておりました。剣竜様、お納めください」


 ジェイムズは袱紗ふくさに包まれた大金をディアナの前に置く。貴族1人の護衛の相場の倍近い金額だ


「···アタシも冒険者プロだ。チョイと私情を挟むが依頼された受け取った以上は必ず遂行する。ただし···」


「分かっております、先生の性分ですからを要求しておりません。先生もディアナ貴女達も生きて帰って来てください」


「分かった」


 ディアナは指でテーブルを


━━トトトン、トトトン━━


 と2回叩く、コレは[スパイに気をつけろ]というリズとディアナ2人だけの合図だ


「また、お茶でも飲みにいらしてくださいね」


「そん時ゃレオン先生も連れてくよ」


 時の賢者モンドの転移魔法ゲートでベトナ山の元鉱夫寮に到着したモンドとレオンの2人は累々と倒れている異形のゴブリン達の中で立ちつくす1人の人間体を警戒する


「···モンド様とレオンさんですか?」


「その声···ルーク?どうしたんだその姿は」


「分かったんですよ」


「お前···を解いたのか?」


「それも合わせて話します、やっと自分なりに理解と納得が出来たんで」


 そういうとルークは


人達も来てください。知っている限りの情報も提供致しますし、ケガをされてるなら最低限の治療をします」


「おいおい、そうやって素直に出てきてくれたら偵察の意味が無いだろが」


「いえいえ、最初っからバレバレでしたよ」


 すると倒れていた筈の鉱夫がゆっくりと立ち上がる


「なぜ分かった?」


「そのままファルザードとやまとに戻るなら勝手にどうぞ、単純に外交圧力ペナルティを課すだけです。話に応じてくれるなら寮内の会議室で治療しつつ待っててください」


 鉱夫達はレオンの監視の元、そのまま寮内に移動する


「しかし良く分かったな」


大スベリハズレ覚悟でカマかけただけです」


「お前は魔法使いより役者に向いてるよ」


「それにあの地震から数ヶ月経つのに白骨化していないの死体なんぞ一番不自然ですからね」


 ルークの観察眼にレオンとモンドはハッとする


「どうせボクを騙すなら冒険者の格好をした方が騙せたかも知れませんね」


 ルーク達は会議室に向かうと、しとしとと雨が降り始める


「さて、話して貰おうか?どうやって封印を解いたのかを」


「解けてませんよ、今も賢聖アルテア様の封印は健在です」


「じゃあ姿はどう説明するんだ?」


「それはボクが封じられた彼等を認識し、受け入れたから使える様になったんです。それでも彼等本来の力の1%にも満たないでしょうね」


「ルーク···コイツらスパイが居る前で何だが、どうするんだ?」


「一応、地下2階までは解放します。ボクも用事がありますから」


「大丈夫なのか?」


「ある程度のリスクはありますね、この遺跡はあなた方が見た様に遺体···特に人間型ヒューマノイドが亡くなった時に然るべき処置をしなかった場合、別の生物と融合されて新たな化け物となります。必ず生きて戻れる算段があれば調査して、帝国マグナ・カルタよりボクに情報を共有して欲しいのです」


「お前は俺達を道具として利用するのか?」


「探索認可も下りてないのに勝手に荒らしたあなた達が被害者ヅラするんですか?」


 スパイ達は何も言えない


「たとえウッドランドさんと流桜さんがボクの恩人とは言えどになるならそれなりの覚悟はして欲しいです」


 ルークの言葉にスパイ達は沈黙してしまい、会議室を後にしてしまった


「ルーク、良く言った!」


「別にモンド様に褒められる為に言った訳ではありませんよ」


「分ぁかってるって。でもよ、一部解放して大丈夫なのか?」


「先程も言いました様に地下2階までなら中堅クラスの小隊パーティでも対応出来ます」


「単独での行動はやめてくれませんか?ルークさんの護衛を頼まれているのでね」


「流石に地下3階に行くのにボク1人じゃ無理ですよ。その時は冒険者プロの指示に従います」


「ルーク」


「なんでしょう?」


ディアナ後続合流は明後日だ、それまでお前の能力チカラを教えてくれ」


「···に行きましょう。モンド様の短距離転移テレポーテーションなら入り口を開放せずに入れるし、彼等スパイも来れないでしょう」


「そうだな、レオン。アンタはここで待っててくれ」


「ああ、最初っからそのつもりだったよ」


 別にルークは自分の能力チカラを隠すつもりでは無い、単純に雨の影響が無い場所を選んだだけだ


「モンド様、ボクから聞いて良いですか?」


「どうした急に」


「ボクの封印···いつから何の目的でやったンですか?」


「知られなきゃ墓場まで持って行く予定だったンだがな···気づいたってンなら仕方ねぇな」


 鉱夫が休憩する長椅子にどっかと座る


「コレはオレの先代、時の賢者ランドリット様お前の曾祖父さんから聞いた話でな。お前のお袋さんがお前を懐妊宿した時にある託宣を受けたそうだ」


「あ、続けて下さい。聞いた所でグレるほど子供では無いです」


ルークお前は世界を滅ぼしかねん魂の系譜を継いだ者、天地五行の封印をもって隠遁させよと言われてな。お前が3歳みっつになるかならんかの時に亡き先代の代わりにアルテアが選んだ天を司る五大天使と地を司る四大魔王とお前を守護する4頭の獣で破滅の因子を封じた」


(破滅の因子···降天の言ってたホワイトってヤツか)


「だとするとンですよね」


「何が?」


「封印の紋章は中央に十字は五大天使、それを囲む2つの四角が四大魔王と4頭の獣とするなら天地には1つ足りませんよ」


「そりゃお前、五行の残り1つはお前だもの」


「ボク···ですか?」


「お前がどういうを求めてるのかは知らんが、4頭の獣を武器具現化できたならお前自身の心ってぇヤツも実体化出来るハズだ」


「ボクの···求めてるモノ···」


 ルークは目を閉じて黙考する、今の自分に足りないのは何なのか?自分自身のを満たす為に現状で何が足りないのかを考えて脳内にイメージした白い霧の中に手を入れて掴みあげた


━━じゃらり···ゴトッ━━


 気づくと右手にやや細目の鎖を握りしめて、その鎖の先には直径40センチほどの円形のラウンドシールドの内側と繋がっていた


「盾?でもなんで鎖で?は?」


「それは[ディスカーマー]ルーク貴方の心が生み出した貴方が求めてるモノ」


 坑道内の薄暗がりから黒翼の天使降天が実体化する、どうやら実体化出来るのは降天と4頭の獣だけらしい


「お初にお目にかかります、私は天使マンセマット。親しみを込めてフレンドリーにマーシーとでも呼んでいただいてもよろしいですよ」


「アルテアの封印は解けてないのになんで出れる?」


「たかがの封印、どれだけ上手に張ったとしても我々には大して影響はございませんが好き勝手に出れないのもまた事実。私がこうして現世うつしよ伝令役メッセンジャーとして出れる時は他の12柱の皆さんは能力が使えなくなります」


「···お前か、ルークをからかって遊んでたのは」


「コレは心外な、ベトナ遺跡ここを守っていただく為のを解放しただけに過ぎませんよ。それにあなた方もルーク宿主の身体を改造しいじったではありませんか」


「モンド様?」


 ルークの瞳からハイライトが消え、まるでバリ島の仮面の様に牙が生えている様な錯覚を覚が見える


「その話は置いといて、だ。ベトナ遺跡にあるモノはお互いにルークコイツが管理して無いと困るって訳だろ?」


「······仰る通りで」


「ボクとしては無かった事にしたいんですけどね。この際ですから聞きますけどあの遺跡に何があるんですか?」


「崩壊して消滅したはずの3つの並行世界それぞれ救世主メシアとでも申しましょうか···神の台座メルカーバ神の影身ルシファー三千世界の王アスラ


「あの怪物キマイラそいつらメシアを守って居るのか?」


「いいえ、土着の生物が余波を受けただけです。そうですねぇ···ゴブリンがゴブリンでいる事をやめた···とでも例えれば良いのでしょうか」


ランドリット師匠の言葉を借りるなら「この世界のことわりから外れた」って所か」


「そういう認識で概ね間違いありません」


「ボクが地下3階に施した結界は間違って無かったって事かな?」


「本来ならばルークあなたが従えるべき事柄なのですが残念ながらが満ちて無いのです」


「それってボクが未熟だから?」


「いいえ、あの救世主共のことわりを担うにはルークあなたの魂は余りにも未熟。輪廻を繰り返し鍛え上げねばならぬのです」


ルークお前の役目は遺跡の守護者か」


「···ボクが?守護者?」


 降天マンセマットの姿が薄れ始め


「ルークさん!人は裏切りますが世界はあなたの味方です。決してお忘れ無き···」


 坑道の闇に消えてしまった


「あっ!」


「ど···どうした!ルーク」


ディスカーマーコレの事聞きそびれちゃいました」


「鎖の部分は分からねぇが当面は盾として使うしかあるめぇな。さて···これからどうするよ?」


「ディアナさんと合流して、正式に地下3階を封じます。そして戻ったら一通り武器の扱いを習おうと思ってます」


「ベトナ遺跡の所有者は紛れも無くルークお前だ。お前がそうしたいならそうすれば良い」


「例え、朋友を失ったとしても守り通してみせます」


 帝国マグナ・カルタ城下町、ルークが手配貸切にした宿では


「久しぶりだな、彦十郎」


「お互い、歳をとったもんだな。セルジュ」

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