青い薔薇への想い 

 日曜日の朝、僕は青い薔薇を受取る為に近所のコンビニにやって来た。

僕はついでに朝食のパンを手に取り、レジ前に並ぶ。

僕の前には2人ほど並んでいて、すぐ前は髪の長い若い女性だった。

後ろで並んでいたら彼女からなんだかいい香りがしてきた。

こんな事を言葉にしたらきっと『キモいやつ』なんて思われるんだろうな…


 その女性の会計も終わり、やっと僕の番が回ってきた。

レジに向って一歩踏み出した時、僕の右側から「パタン」って音がしたので顔を向けた。

すると、さっきの女性がクレジットカードを落としたのを気づかずそのまま出て行こうとしていた。

僕はレジに一声かけてクレジットカードを拾い彼女に声をかけた。


 「あの… 落としましたよ」

彼女はくるりと振り返り僕を見る。


 「あっ、ありがとうございます」

カードを渡しながら僕は心臓の鼓動が早まるのを感じた。

その彼女は僕の記憶の中の懐かしい人物と同じ顔をしていた。


「あの… 大原麗子さんですか?」


 彼女も僕を見て何かを思い出した様な素振りだった。

「それ、昔言われた事があります。でも違います。私は桜内亜紀です」


 「えっまさか… 桜内さん? 生きていたんですか? 僕、桜内さんと中3の時のクラスメイトだった青谷です。覚えていますか?」

僕の心の底から驚きとも喜びとも違う感情がこみ上げてきた。

つい嬉しくなって、でも何を話したらいいのか分からなくてその場で立ち尽くした。


「あの… もしよかったら歩きながら話しませんか? 私、店の外で待ってます」

桜内さんにそう言って貰えて僕は嬉しくなって急いでレジに戻った。


 そして僕はパンと青い薔薇を受取り急いで店を出て行く。

店の外では桜内さんが待っていてくれて…

僕はホッとすると同時になんだか涙が出てきた。


「あの… ソレって…」

桜内さんが僕の持っている青い薔薇を見て驚いていた。


「あぁ、コレ頼まれて買ったんですけど… やっぱり桜内さんに貰って欲しいです。どうぞ」

僕は青い薔薇を桜内さんに差し出した。

突然の僕の行動に桜内さんは理由が分からず戸惑っている。


「エッと… 夢で桜内さんと出会ったんです。そしてその夢で桜内さんに青い薔薇をあげる約束しました。だから…」


 僕の行動は明らかに不審者だ。

桜内さんが困っているのが僕の目から見てもハッキリ分かる。

でも、ここで引き下がる訳にはいかない。

コレは夢の中の話しではない。

桜内さんは生きていて此処にいる。


「夢の中で桜内さんは『迎えに行くから』と言ってくれました。だから僕は青い薔薇を用意したんです」

途中何人かすれ違う人が居て、みんな僕の事をチラチラ見ていく。

でも、そんな事を気にしてなんか居られない。

死んでもう会えないと思った人が目の前に居るのだから…

せめて生きてる桜内さんに僕の気持ちだけでも伝えたかった。


 そんな必死な僕を見て桜内さんが口を開いた。

「ゴメンね。実は私、癌というのは嘘だったの。当時父さんに酷い虐待を受けていて母さんと二人で逃げたの。だから私、アナタに合わせる顔がない」

そこまで話して桜内さんは俯いてしまった。


でも、桜内さんが癌で無い事が分かって僕は嬉しくなってしまった。

「桜内さんが癌じゃなくて良かった。青い薔薇は奇跡の花だよ。二人の再会という奇跡を祝って貰ってください」


 さっきまで俯いていた桜内さんが顔を上げ僕の事をじっと観た。

「分かったわ、ありがとう。」

青い薔薇を桜内さんが受取り、照れくさそうに笑った。

そして不思議そうに僕を見て聞いてくる。

「青谷君の夢の中で私… 『青谷君を迎えに行く』って言ってたの?」


「うん! ハッキリそう言ったよ。てっきり桜内さんが死神になって僕の事を迎えに来ると思っていたから…」

僕は途中まで言って桜内さんの反応が気になってしまい覗き見た。

良かった、桜内さんは笑ってた。


「そうだよね~ あんな別れ方したらそうなるよね? ねぇ、青谷君はつきあってひと居るの?」


 あんなに桜内さんを口説いていて桜内さんから聞かれた一言に僕は耳まで真っ赤になった。

それを見ただけで桜内さんは察した様だ。


「それじゃ青谷君、最初はお友達から。恋人同士になれたらいいな〜」


「うん、ヨロシクお願いします」

コレって…

あまりにも話しが順調に進み過ぎてる。

そういえば今年の僕は女難の相が…

このまま進んで大丈夫なんだろうか?


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そ・そ・ソクラテスかプラトンか… アオヤ @aoyashou

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