天使の分け前

 「おい青谷、大丈夫か?」

そうだった、僕は花見の場所取りをしていたのだ。

横になった僕を同僚の山木が心配そうに覗き込んだ。


「ハイ大丈夫です。少し酔ったみたいです。」


「酒は飲んでも呑まれるな。青谷には高給ウィスキー山崎は少し勿体無かったな」


「勿体無いとは失礼な! でも、場所取りの役に立たなくてゴメン」


 桜はハラハラと舞い落ちて僕の周りを埋め尽くす。

僕が寝ていた所だけ桜の花びらが溜まって無くて…

まるでドラマでよく見る死体現場のシーンみたいだ。

桜内は僕を死の世界に連れて行くつもりなのか?

僕はいつか本当に刑事ドラマの様なシーンを体験するんだろうか?


 「いいか青谷、ウィスキーっていうのはな〜 樽の中で毎日天使が見守りながら造られるモノなんだ。そして毎日毎日天使達は少しずついや、味見しているんだ。」


「あ〜、分かった分かった。使の話しだろう?」

他人の事酔っ払いみたいに言っておいて山木だって酔っ払ってるじゃないか?


「なんだ青谷は知ってたのか? ウィスキーは樽で寝かせて熟成させると少しだけ量が減って行く。別に誰かが飲んでいる訳ではない。樽に染み込んだり分解されたり、おりとなって沈んだり。その減り分を使と言うらしい。」

山木はヨダレを垂らしそうな口ぶりで続けた。

「毎年変わって行くウィスキーの味。俺も天使になって毎年味見したいものだ」


 山木の突拍子も無い話しだが、僕もそれに関しては同じ思いだった。

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