「新鮮ななつかしさ」という矛盾表現と切り替わっていく「深さ」
- ★★★ Excellent!!!
まずこの作品を読んでみて最初に思ったのは「読みやすい」ということだ
文章のつなぎ方が綺麗で1文1文が短く簡潔にまとまっており、導線も丁寧に作られていて読み進める抵抗感がない。
ただ、どこか懐かしいというべきか、自身が好む2000年代の雰囲気を感じる。そして1~2章まで少しずつ文章の「濃さ」が増していき、3章で一気に主人公や物語における「深さ」が出てくる。それ以降はどんどん話の「ギア」ともいうべき濃さと深さのボルテージが上がっていき、その山場で一気に前述の雰囲気・匂いが濃く出てくる。それ以降はそのボルテージのままグイグイと掘り下げられていく。そんな作品だ。
前置きが長くなってしまったから結論から述べると「2000年代のビジュアルノベル、セカイ系作品が好きな人は間違いなく好き」である。それが「なつかしさ」であり、一方で文章のつくりや組み立ては古さがなく、新鮮でのどごしの良いものになっている。
「昔こういうのあったな」という共感がありつつも「初めて」の新鮮さも併せ持つ。あの頃の作品を知る人やその二次創作にのめりこんでいた人なら間違いなく気づくであろう「あの匂い」は確かな技術力と新鮮な作風のもとに今ここにあるのだといえる。
書籍化・コミカライズ化決定とのことでこれから先が非常に楽しみである