チャプター②-1
流れで寮生全員で通学路を歩くことになったが早くも後悔した。
「氷室君、どうかしましたか?」
「いえ……別に」
オルレアンの心配をよそに辺りを見渡す。
学園に近づくにつれて生徒の姿は増えていく。
こちらを見た全員に二度見されるのはまだいい。
問題なのは男子生徒たちからの憎悪と嫉妬が入り交じった視線だ。
「鏡夜」
カンナに袖を引っ張られて少し後退すると幾分かマシになった。
「もしかして原因はオルレアンか?」
「正解。アリシアは学園で人気者」
リーナとマリア先輩の三人で仲良さそうに談笑する彼女。
まー確かに顔は整っているし、スタイルもいい。
性格も真面目な部類で非の打ち所がない。
「特に吸血鬼からは大人気」
そういや視線のほとんどが吸血鬼だったな。
「つまり俺がオルレアンに唾をつけたと思われたわけ?」
「鏡夜の問題じゃない。普段アリシアは吸血鬼の男子生徒を避けている」
「は?」
再びアリシアに視線を向ける。
そんな素振りは一度も見受けられなかった。
「アリシアが避けている理由は不明。けど、鏡夜は大丈夫みたい」
「ますます謎だな」
ま、友好的なら何でも……どうやら良くないようだ。
「ちなみにオルレアンの熱狂的ファンみたいな奴いるか?」
「いる」
「そうか」
さっきから約一名殺気を飛ばしてくる。
カーブミラー越しに見たが、見た目はいいとこの坊っちゃん的な感じだ。
「あれは吸血鬼じゃないから鏡夜が手を出すと校則違反」
「正当防衛は?」
「成立しない」
「大人しくやられろと?」
「唯一向こうが聖銀術を使ってきたらセーフですね」
急にマリア先輩が会話に参加してきて驚く。
「マリア先輩いつからお聞きに?」
「氷室くんがアリシアさんに熱狂的なファンがいるかとカンナちゃんに聞いていた辺りです。あ、それで思い出しました。オルレアンではなく名前で呼んでください猫かぶりくん」
「なら、マリア先輩も変な呼び方をやめてください」
年上の女性って特有の有無を言わさない雰囲気。
一度飲まれたらズルズルいきそうだ。
「だって、カンナちゃんばかりに心開いてズルいです」
「別に心を開いたとかそういう話ではなくてですね」
俺と仲良くなってもメリットはないと思うんだがな。
「マリアも鏡夜と出かければいい」
……は?
「あ、それは名案ですね。今週末あたりにどうですか?」
「マリア先輩からデートに誘っていただけるとは光栄ですね」
こういうのは茶化すに限る。
さぁ、『デート? 何を自惚れているんですか?』と引くといい。
まさに計画通――。
「では、今週末よろしくお願いしますね」
「はい……」
マリア先輩はにこにこ顔で二人の元へ戻っていった。
「ちなみにマリアも人気者」
「だろうな」
さっきとは別の方向から数多の視線を感じる。
「大丈夫」
朝食の時と同様に肩に手を置かれる。
ただ今回は悟りを開いたような顔。
こいつわりと表情豊かだよな。
「鏡夜は吸血鬼。簡単には死なない」
「カンナ……お前そろそろしばくぞ?」
誰かこの娘に"フォロー"の意味を教えてやってくれ。
「私をしばいたところで憂さが晴れても現実は変わらない」
「そんなど正論言う前に妙案を出してくれ」
「鏡夜とアリシアは同じクラス。そしてアリシアの性格上鏡夜を放置しない」
「つまり接触は防げないというわけか」
「ちなみにアリシアの親切を無下にすると男子生徒たちだけでなく、女子生徒たちからも反感を買う」
「ほうほう。それで?」
「……グッドラック」
「まさかの運任せ? 嘘だろ?」
どうやらこの島で俺の安住の地は存在しない模様。
最初からそういうのには期待はしていなかったが……もう少し弄んでくれてもよかっただろう。
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