チャプター①-8
🖤
カンナがヒムロっちの部屋へ向かって数分後。
ドタバタと階段を降りる音が聞こえたかと思えば顔を赤らめたアリシアが急いで駆けていった。
「マジか!」
それだけで何があったか容易に想像できる。
あの鉄壁で潔癖なアリシアが吸血鬼の魅了に酔った? その驚愕な事実にマリマリ先輩も困り眉だ。
「アリシアさんでああなら私たちも可能性はありますね……」
魅了には相性があるという。
たまたまヒムロっちの魅力がアリシア特化かもしれないが……ヒムロっちは指輪タイプ。
無いとは言い切れない。
「ヒムロっちへの説明どうします?」
「たぶんもう聖銀を身に着けてるでしょうから行っても問題なさそうですが、アリシアさんの方も気になりますし」
あの生真面目を超えた鬼真面目のアリシアのこと。
初体験のことで取り乱した後どうすればいいかはわからないか。
「なら、手分けしましょう。私がヒムロっちの方に行きますよ」
「それはありがたいですが……カンナちゃんも部屋に戻ってると思うので試してはいけませんよ?」
「いやいやいや。さすがにしませんって」
「リーナちゃんの好奇心はたまに私の想像を超えますからね」
疑いの眼差しを向けられる自覚はある。
「じゃあ、行ってきますね」
そして否定出来ないぐらいヒムロっちに興味が出てきた。
◯
カンナが出ていってからちゃんと寝巻きに着替えた後。
クルス島の歴史についてある程度知識を入れるために本を開こうした時。
――コンコンコン
『ヒムロっち〜ちょっといい〜?』
この声はリーナ。
指輪を付けていること再度確認してから本を閉じる。
おっと、口調に気を配らないとな。
「はい、大丈夫ですよ」
「お邪魔しまーす。読書の邪魔しちゃった?」
「いえ。少し寝付けなくて」
俺の答えにリーナの視線がベッドへ向けられる。
さっきの騒動の後に直していなかったので少し乱れていた。
「おやおや? 入寮早々お楽しみというわけですか」
わざとらしく口元を手で覆いニヤついている。
咎められるより弄られるほうがどう反応していいかわからないから困るな。
「吸血鬼絡みでトラブルがありまして。お騒がせしてすみません」
「私はこういうハプニングは面白いからいいと思うけどね。とりあえず真面目な話から」
リーナは入室するとベットに腰掛ける。
結構長話になる感じか?
「ヒムロっちは明日からクルス学園に編入するんだけどね。道わからないでしょ?」
「ええ、まぁ」
「学園までは私たちと一緒に登校するから遅れないでね」
最悪地図アプリがあるから大丈夫と思っていたがこの申し出はありがたい。
オルレアンが訪ねてきたのはこういうことか。
「わかりました。具体的には何時ぐらいですか?」
「少し早めの七時半すぎには寮を出るかな。あ、朝食は七時ね。マリマリ先輩の朝食は美味しいよ〜」
「それは楽しみですね」
妙な違和感の正体。
リーナの視線が俺の指輪に注がれている。
「ねえ、ヒムロっち」
「何でしょうか?」
「指輪……外してみない?」
「やめておきます」
好奇心旺盛。
興味津々と言うように目が輝いている。
「えー、ちょっとぐらいいいじゃーん」
ベッドから立ち上がった瞬間にリーナが急接近。
初対面の時もそうだったが速い。
だが、今回は狙いがわかっているので手荒にならずに手首を掴めた。
「ふーん。ヒムロっちって案外猫被りの演技派?」
一瞬見せた表情で気づかれた。
「さぁ? どうだろうな」
少なくとも悪い印象は持たれていない。
むしろ好感触だ。
指輪から俺に意識が変わったので手を離す。
「君との共同生活。楽しみになってきたよ」
「それはそれは光栄ですね」
「えー、もう猫被らなくていいじゃーん」
「さて、何のことやら」
厄介な子に目をつけられたな。
「あ、血を吸いたくなったら私に言ってね。マリマリ先輩はカンナが吸うし、アリシアはたぶん拒否るだろうし」
まー、あんなことがあれば敬遠されて当然だが……。
「たぶん大丈夫と思いますよ」
「なんで?」
「今まで血を吸わずに生きてきましたが問題ありませんでしたから」
「え? 一度も?」
「? はい」
「………………吸血◯貞?」
「不名誉すぎる呼び方はやめろ」
「あ、剥がれた」
「それにリーナさんも吸われたことないんですよね?」
「バラしたのはカンナだな。後でとっちめてやる」
やはり血を吸ったことがない吸血鬼は珍しいようだ。
あまり言わないようにしたほうが良さそうだな。
「ねぇ、ヒムロっち。何なら今ここでお互い卒業してみない?」
わざと
誘惑の甘い香り。
血を求めて自然と喉が鳴る。
「あ、反応してる。やっぱりヒムロっちも吸血鬼だね」
リーナは挑発的な笑みを浮かべているが……少し肩が震えている。
触っていいものかと思ったが彼女の肩を掴んで服を正した。
「入寮早々お楽しみするプレイボーイじゃないので」
「気を遣っているように見えて単にヒムロっちがヘタレなだけでしょ?」
「まぁ、吸血◯貞ですから」
「いや、めっちゃ気にしてるじゃん」
ひとしきり笑ったリーナは部屋を出ていく。
ようやく一人きりになったので仰向けでベッドに寝転んだ。
「まったく……心臓に悪いな…………」
酒を飲んでいなかったら吸っていた?
満月だったら襲っていた?
いや、たぶん……。
アリシアの時に感じた本能の叫びがなかったからだろうな。
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