第二十二話 寝ましょうか

 しかし、

「二人とも言うことがあるのではないですか?」

 ワゴンを片付け、今日は一日中二人で寝てるかと思っていたところに現れたのは、ロンダルギアとキャト・リューズだった。

 二人とも執務室ではなくレゼンの部屋にいる。

 持ってきた椅子に座り、何かと待っているようだった。

「昨日はラズリルが、今日は二人して朝食の席に来ない。調子が悪いのであれば、わたくしはかまいません、が、言うことがあるでしょう。こういうのは早い方がいいのです」

 ロンダルギアは髭を撫でるだけでキャト・リューズに任せいる。

 これは「知っている」のだろう。むしろ、昔から知っていたかもしれない。

「順序を間違えてしまったのは重々承知の上です。俺は」

「待って、僕から言わせて」

 喉がガラガラなのをキャト・リューズは一瞬、目を見開いたが、すぐに落ち着いて視線をラズリルに合わせた。

「父上、母上、僕はレゼンのことを愛しています。昨日、初めて互いの想いが繋がりました。僕の人生で愛する人はレゼン以外にいません」

「俺もそうです。ラズリルのことを愛しています。共に生きることを約束しました。どんなに遠くに行こうとも互いのことを想うように」

 二人は手をつなぎながら二人に語った。

 少しだけ怖かったが、

「お前たちが好き合っていたのは知っているよ」

 杞憂だった。ロンダルギアは笑いながら言う。

「互いに気づいていないのは、分かっていましたが。一日でこうなるなんて」

 呆れながらキャト・リューズは額を触りながら、かぶりを振る。

「う」

「そこは申し訳なく思っております」

 言葉が詰まる二人にロンダルギアは、

「十年分の想いだ。反動もあろうよ」

 はっはっはっと笑い、キャト・リューズのため息を誘った。

「僕は親不孝です。この先のシャリュトリュース国に対して、妻を娶らずにいるというのは異質です」

「それは養子を迎えればいい話です。互いに見た養子の子なら間違いないでしょう」

「え」

「異質な訳がないでしょう。そういう国だってあります。別にここが特別という訳ではないのですよ?」

 キャト・リューズは何が疑問だという風に答えると、

「今後はレゼンのハルタ国への帰国ですね。もう二人で話し合いましたか?」

「まだ、です。俺は何をしたいかは決めていますが、あちらで、どれだけの勢力を見繕うことができるか」

「できないのですか」

「いいえ、できます」

 呪文を唱えて、レゼンは背を正した。

「それには、この国の力が必要です。お願いできませんでしょうか」

「よろしい」

 そう言ったのはロンダルギアだった。

「わしの私兵だと知られた時に問題になるだろう。ラズリル」

「レゼン、僕の私兵なら、すでにハルタ国にいる。頼って」

 頷くとロンダルギアとキャト・リューズに頭を下げた。

「俺をここまで育ててくださり、ありがとうございます。必ず、ハルタ国を変えます」

「……よろしい」

 ロンダルギアとキャト・リューズは二人は、納得した顔で「息子」を見、またラズリルを見た。

「久しぶりに全部の仕事をするか」

 椅子から立ち上がったロンダルギアが腰を伸ばして楽しそうに言う。

「父上!?」

 とレゼンは腰を上げる。

「今日は二人でゆっくりしなさい」

「そうですね。こう二人でゆっくりすることも少なくなります。今のうちに一回ぐらいは体験しておきなさい」

「母上!?」

 ラズリルの声が聞こえないような素振りをされ、畳みかけるように言われて、椅子は片付けられるし、そそくさと二人は出ていってしまった。

「え、えぇ」

 レゼンの部屋には、ぽつんと二人だけが残されて、小さい嵐は去って行ってしまう。

「僕たち、すごく覚悟してたのに」

「そうだな、してたんだが」

 あっさりと許可、なのか。受け止められて呆然としてしまった。

 しかも「好き合っていた」のが分かっていた、というのは何だろうか。

「ねえ、レゼン。僕たちって無自覚ってやつだったのかな?」

「いや、ううん、そうだ……ったんじゃないか?」

 二人で疑問を抱いていると、パッと一日中休みだと言われて顔を見合わす。

「僕、リーヴ兄ちゃんにお世話になったから、お礼をしたいんだけど」

「俺もだ。でも、ここで行くのは、何故かすごい顔をされそうだな」

「街に出る? それともバウンド兄ちゃんのギルド行くとか」

「街はいつでも行けるし、ギルドに行って挨拶でもするのか? すごい顔されそうだが、それより腰は大丈夫なのか?」

「……」

「……」

 ラズリルは、ばっと駆け出してベッドに飛び込んだ。

「寝るー!」

「はは、そうだな、寝るか」

 そう言ってから、二人で寝間着に着替えてベッドの中に滑り込む。

 ベッドが軋んだ音を聞きながら、二人は並んで互いの顔を見ていた。

 両親の後押しがあるとは思わなかったが、そうでなくても手を離すつもりはなかった。それこそ、ラズリルは事が終わるまでハルタ国にレゼンと行ったかもしれない。

 空色の瞳と黒曜石の瞳が交わされて微笑み合う。

 これからレゼンは忙しくなる。それを手伝える程度の戦力がハルタ国には残っているし、ラズリルは影ながら助けられる。

 そのラズリルに対してハルタ国の状況を伝えて適宜支援を求めるだろう。

 互いに互いの事ができるよう、支え合うと約束した。

 手を取る。指先を絡めながら、

『愛してる』

 と、口にした。

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