第13話
雪乃は、何処だろう。第一に彼女に報せなければ。席には居ない。教室の後ろに、うまいこと擦り寄ろうと企む二人と無難に喋る彼女の姿。
駆け寄ると、二人は眉を顰める。
「どうしたの?」
雪乃は柔らかな声色で尋ねた。私は二人など居ないかの如くラフにお誘いをする。
「昼休み、ちょっとお喋りしない?」
「もちろん。庭のところでいいかな?」
私たちも、などと二人が口を挟む隙は与えない。
「うん、屋上で待ってるね」
ちょっぴり強引だ、と言わんばかりの視線。印象操作も順調だ。所詮は小学生か。始業まであと十三秒。最近の私は、綱渡りみたいな真似ばかりしている。教室の外からも非難の眼差しを感じるが、私は知らん振りを決め込む。下手に反応しない方が身のためだ。
廊下からの足音。威厳もへったくれもない聞き馴染んだそれに急かされつつ、教科書とノートを引き出しから机上へ移す。一時間目の始まりに、ひと心地着いた。怠。どうせ私手あげても当てられないし。いつもそう。分かってはいる、という意思表示の為の挙手を漫然と実行した。
「では、堤さん」
え、私?
「はい」
淡々と答えを述べる。無論正解、なのだが。担任が、私をじっと見つめ、そして目を細めた。口角は平常時と全く同様に上がったまま。かと思えば、直ぐ黒板に向き直りチョークを手に取り板書を書く。授業は進んでいく。自分も、努めて説明を聞く。
が、それと同時に、手がじっとりと湿る。誰にも、何もまだ行っていない。証拠など一つも存在しない。あの程度、何でもないじゃないか。気に病む方がどうかしている。何より、『バレたとて』だ。行動は変わらない。しかし、こびりつく思考もまた、否定せどもせども剥がれ落ちない。なぜなら、奴が私とまともに目を合わせたのは三ヶ月前の面談以来だからだ。
いずれにせよ、次の時間が終わったら、私が屋上へ向かうのは決定事項だ。
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