第6話
学校へ着くまでずっと私は顔に微笑をたたえていた。班長らしく、班の集合場所に来た一年生に余裕のある笑みで声をかけ、揃い次第出発。友達と今日の教科について話しながら進む。そうこうしているうちに、歩道橋で他の登校班に出会う。一組の子は、席替えの希望で頭がいっぱいだ。好きな人と隣か、もしくは同じ班になりたいと煌めく瞳で頼んでもいないのに語ってくれた。
時折、振り返って低学年の子がついて来れているかを確認する。一応副班長がいるのはいるが、大抵仲良い同士でトークを繰り広げているため、結局自分で見た方が早い。
真っ直ぐなストロークを進めば、校門が目の前に。学校敷地内に入ったら班は四散する。
「解散でーす」
申し訳程度に伝えるだけ伝え、靴箱を足早に目指す。朝のうちに雪乃に会っておきたい。彼女の行動パターンは把握している。四年になってから多少の差はあれど、私が着いたニ分弱過ぎた頃に来るはず。
毎日の習慣通りに考え事をしながらも、体はオートマティックで靴箱に到着する。機械的に靴を脱ぎ、上履きに履き替える。話しかけてきたのは、やはり雪乃ではなく自分大好き系のあの子だった。
「おっはよー風凛」
最初に感じたのは、同情だった。私に巻き込まれて可哀想に。きっとこの子はそのうち私を攻撃することになるだろう。自分を好きでい続けるために。不確かな自分を守るために。なぜなら、攻撃が最大の防御であるからである。私のような得体の知れない奴に自分を破壊されないように。その健気な抵抗も、私には無意味ということも、きっとこの子は気が付かない。
「おはよう」
そもそもこの子は、大なり小なり私の雪乃への言動に疑問を抱いているはずなのだ。もちろん私の真意でなく、表面化している部分のみを根拠にしたものであり、その疑念は今の私にとって、とても利用価値がある。ちょっとやりすぎなんじゃないかしら、なんて思った矢先に、都合の良いように隠蔽に動く私。正義ごっこにうってつけと言えるだろう。
とにかく、この子と共に歩を進める。現代の子供に多い、沈黙を恐れ嫌う性質に配慮し、すごい晴れているね、体育の時間に焼けそうだね、などと愚痴のようなものを話した。
「ホントだよー、晴れはなんかうれしいけどさ、日焼けとかがねー、残暑で暑いし」
と返ってきた。その場しのぎの笑みをふわりと載せているのは一目で分かる。この子はずっとそうだ。いつも嫌われないよう振る舞っている。だから私なんかに嵌められるんだ。
私達は廊下を過ぎ、地味に一段の高い階段を登り四年ゾーンへ。二組は前から二番目の教室となる。一組付近にたむろする輩を尻目に、二組に入る。私は前から三番目の廊下から数えて四列目の席。この子は私の前の前の席だ。どうせ今日も五分休みに始まり何かとやって来るのだろう。
教科書、ノート、連絡帳を机の引き出しにしまう。雪乃が着くまであと一、二分程だろうか。こまめに扉を目視する。正直、横目で隠れて気にしていることがこの子に見破られても平気だ。いっそのこと、分かりやすくやって見せるのも一興。
流石にそんな大それたことはやらず、私は大人しく席に座っていた。あの子も持ち物を移すのに忙しく動く。さりげなく観察してみる。こういう動作は、眺めていると暇つぶしになる。四秒に一度やはり前方のドアを確認。まだだ。そう直ぐには来ない。
同じ行動を三度繰り返したところで、彼女は入ってきた。
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