魔女の助手になった話(仮)
釣鐘人参
1
今日も、大いなる冒険が始まる。
――突然だけど、暇をもて余して昼間から街をブラついてるチャラい冒険者を噴死させる魔法を思いついたよ。
彼女は気が短かく癇癪もちだった。この性格でよくも魔法使いの試験に通ったものだ。
――泡を噴いて悶絶して泣き叫ぶんだ。
彼女は瞳を爛々と燃え滾らせ、そう嬉しそうに語る。まるで新しい玩具を手に入れた子供のように。
――さぁ、見ろっ。
いつの間にか彼女の手に人形が握られる。子供がママゴト遊びに使うような大きさの、ただし形状は滅法不気味だ。
人形に彼女は何事か唱え始める。すると、その土と藁でできた人形は全身をブルブルと痙攣させて瞬く間にドス黒く変色し、床に落ちて潰れて消えた。
――ど う だ?
ど う だ?と言われても…。彼女の質問にわたしは質問で返した。
…また外で嫌な目にあったんですね。
――そう!そうなんだよ!よく気がついたな。
彼女がニヤりと笑みを作っで嬉しそうにわたしの肩を叩く。
昨日、城門裏の終夜営業の商店へおやつとペンのインクの買い出しに出たんだ。そうしたらアレだよ、店の前の通りで前の方から三人組が歩いて来たんだ。風体からして階級の低い冒険者らしくてね。
冒険者になってまだ一ヶ月そこら、って感じ。親の金とか簡単な依頼で儲けた報酬でとりあえずセール品で一式揃えた。って感じのチグハグの装備だった。
ほら、最近、氷河期とか物価高で食い詰めた奴が騙されて犯罪組織に加担したり、魔物の国に売り飛ばされてるだろう。
で、私は三時のおやつの事で頭がいっぱいで全方位不注意だったんだ。認めよう。そこは私の落ち度だ。
そうしたら……だ!店の前で三人組の一人、リーダー格の少年っぽいおっさんが私の肩にぶつかってきたんだ。
少年っぽいおっさん?わたしの質問に彼女は力強く頷く。
そうだ。むかし流行っただろ!竜にさらわれた姫を救いに行こう。とか。聖なる水晶に選ばれた仲間と悪のナイトにさらわれた姫を救いに行こう。とか。……知らない?まぁ、そんな雰囲気の連中だった。
姫、さらわれまくってますね…。でも、ゴメンなさい。ちょっと…ピンと来ないです。……その頃わたし、多分まだ生ままれてないと思います。
歴史だろう、勉強しておきな。平身低頭、謝るわたしに彼女はそう言ってテーブルに置かれたカップの茶を一口。話を続ける。
とにかくだ。そのおっさんども、私の肩にぶつかっておいて「きょとん」とした顔してるんだ。だから、キツく睨んでやった。そしたらさぁ……。
彼女が言葉に力を込めるために一呼吸おいた。
『お嬢さんこんにちは。これから一緒にお茶でもいかがですか?』だってええええぇぇぇ!!!
…くそォ!!写本の仕事の徹夜明けでこちとら神経がすり減ってんだよ!顔見りゃ相手状況くらい察せるだろ!もしかして、お前ら全員レベル1か?三人合わせてレベル3、そんなパーティー序盤で即全滅だわ!!
「結局朝までかかったんですか!?」
彼女は魔女だった。戦闘は苦手でもっぱら、薬の調合、本の執筆、たまに入るヤバい呪いの依頼、で生計を立てている。彼女の本当の名前は、知らない。
「なんとか締め切りに間に合った…ぜ。当分細かい字は見たくない。」
魔女はげっそりとした表情でため息をついた。よくよく見れば前髪が額にでろんと垂れて、目の下にクマ、ロープではなくお気に入りの部屋着。くたびれ感が半端ない。
「…ああっ!思い出したらまたムカついてきた!!」
容姿端麗(万全の時)お肌もぷるぷる(万全の時)の魔女は私の前で何度目かの地団駄を踏んだ。
「…そろそろ仕事の話、しません?」
日が傾いてから森に入りたくない。これ以上、話が脱線したら厄介だ。適当なところで雑談を打ち切る。わたしは本題のだった薬種の話題に入った。
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