第十一話 不在の王と奴隷たち

 ボクド村のある島から少し早く出発をしたセウゾン、キジュウ、シュカは五つの太陽を数えたころ、ウコジヨウ地帯へ到着をした。シュカは船の上での酔いによって体力をむしばまれていた。

「ここが僕たちの目的地、ウコジヨウ地帯だね」

「まっていろ我が妹、ソプラよ」

「.....張り切って、行きましょう」


 砂埃が立ち込めるこの島では、この国中から奴隷として攫われた者達がクロノテージ王の食料を生産している。彼らはしばしば「労働者」と呼ばれ、最低限の衣食住を与えられているものの、とても清潔感を感じられるような環境ではなかった。

 ウコジヨウ地帯の入り口には大きな石製の彫刻が左右に鎮座する大きな門がそびえ立っている。この門の裏口へ回ると小さな穴があり、セウゾンたちはその穴から中へ侵入していった。


「まずはクロノテージ王を探しましょう」とセウゾンが指揮し、シュカやキジュウも従った。

「奴隷たちを解放するまで、あまり目立たないほうが安全よね」

「言ってみれば我々は反逆者であるからな」とキジュウはくぐもった声で言った。


 彼らは多くの兵の目をかいくぐり、建物の最奥部へ進んでいった。そこにはクロノテージ王がいるであろう王の間が存在した。彼らは息を吞み、これから始まる重要な話し合いに対して気を引き締めた。

 王の間の前にいる兵が場を離れた隙を突き、彼らは王の間へ入っていった。

「ちょっとまってどういうことよ」

「王の座が空ではないか」

「とりあえずここを出よう」


 なんと、クロノテージ王がいるはずであった王の間の王座には、誰一人として存在せず、話し合いをする相手がいなかったのである。

「王が不在となると、先に労働者と呼ばれる奴隷たちの話を聞いたほうがいいね」

 セウゾンが指揮をとり、三人は奴隷の働く畑の間へ進んだ。そこでは多くの国民が畑を耕し、また収穫をし、また加工を行っていた。

 奴隷たちは皆一様に暗い顔をしていた。

「!! その顔は......我が妹、ソプラではないか?」

 キジュウが奴隷の中にいる一人の少女を指差して絶叫した。

「その声は、兄さま?」

 キジュウの絶叫に対し、その少女は反応を示した。彼の目的の一つである妹の発見は、彼ら三人にとって喜ばしいことであった。

 

 奴隷たちの生活状況や、この場所で行われていること、クロノテージ王の策略と目的など、多くのことをソプラは話してくれた。薄暗い工場の中で奴隷たちは、目の前にあるが手を付けられない食料を生産し続け、自身の芸術表現を満足に行えないということについて怒り、いち早くこの場から離れたいと願っていた。

「そうだ、ソプラよ、この場所を統治するクロノテージ王は現在どこにおるのだ?」

「クロノテージ王は現在、何者かが迫っていると言って文化の根へ向かいました」

「なんだって!? それじゃあアルト君たちが危ないじゃないか」

 クロノテージ王は、ボクド村の奇襲後、アルトたちが文化の根へ向かっていると洞察し、ウコジヨウ地帯から文化の根へ向かったというのだ。 文化の根の解放を目的に、クロノテージ王に交渉を持ちかけようとしていたセウゾンたちは、現在この場で行動をとることができなくなってしまった。


「そういえば、」とソプラが何かを思い出し、キジュウに重要な話をした。

「兄さま、私は思い出したのです。王は『金貨の呪いを発揮するときだ』と話していました。私には金貨について理解できませんでしたが、おそらく兄さまたちに重要な話なのではないかと思い、」と話しているとセウゾンが興奮気味に話をかぶせた。

「金貨といったかい。今、金貨と、、、」

「はい、王は金貨の呪いについて何か話をしていました」

「セウゾンさんどうしたのよ、金貨について何か知っているの?」

「あぁ、金貨は確か、ペインが持っていたはずだ。一際光を放つ黄金でできた金貨。それは確か、、、」


 セウゾンがソプラから金貨という単語を聞いた刹那、アルトたちと出会い、船で旅をしていた際にペインが自慢していた金貨について思い出した。そして、その金貨の記憶と、王の言う呪いに対し最悪の事態を想定した。セウゾンは混乱し、ペインが話していた金貨の話をもう一度思い返した。その間、キジュウとシュカは、その行動の意味が分からずたじろいでいた。

「金貨は、確か、アルト君、そうだアルト君からもらって、その前に、カイガの街、もっと前だ、始まりの地から、そうだそこから出発した道中の露店、そこに行かなくては、」

「露店とは何なのだ、セウゾンよ」

「そこに行くことでなにかあるの?」

 いまだ理解できていない二人に対し、セウゾンは落ち着きを取り戻した後にゆっくりと説明した。

「アルト君は旅の出発地点である始まりの地、そこから南に進んでカイガの街を目指したと言っていた。その道中にあった露店で、ある金貨を手に入れた。その後、カイガの街でペインと出会い、仲間になる際にその金貨がペインの手元へ渡った。その後はその金貨を手放していなかったはずだから、ペインがまだ持っていると思う」

「じゃあソプラちゃんが言っていた『金貨の呪い』が不吉ね」

「露店の男ならよく知っているかもしれない」


 金貨を持つペイン、そしてクロノテージ王が向かった文化の根、そこへ向かうアルトたちへの心配が募るセウゾンたち。一行は、ソプラを中心とした奴隷の解放のため、大きく動き出した。


「皆さん聞いてください。僕たちはこの工場の外から来ました。クロノテージ王のためだけに食料を作るなど、この国では起きてはならない。また、各町街や村の人々を攫ってくることで成り立つ工場などあってはならないのです」

「我々は、この工場にいる皆様とともに、北の王クロノテージに対して暴動を起こし、自身の生まれ育った故郷へ帰るべきなのです」

「私たちと一緒にこの工場を出ましょう」

 三人は大きな声で「労働者」たちに演説をした。ソプラを含めた数十人はその意見に賛同したが、多くの者は王の報復を恐れ、賛同できずにいた。そこでシュカは歌声を響かせた。彼女は自身の持つ歌の力によって、「王は私たちが説得をし、この国を変化させようとしている」ことについて説明した。また、セウゾンは自身の持つ造船の力によって、シュカの歌声に推進力を付与し、この工場にいる「労働者」の心を動かした。その間に、騒ぎを聞きつけた兵が向かってきたが、キジュウの土木の力と持ち前の力持ちによって、兵を薙ぎ払い、工場の壁に穴をあけて見せた。

 彼ら三人の力によって、「労働者」たちは、王の報復を恐れることなく、彼らの演説に賛同し始めた。


 彼らの演説により、この工場にいる国民は暴動を起こした。その結果、この工場は崩壊し、国民は自由となった。セウゾンらは、国民を船に乗せ、サイショ王がいる始まりの地へと向かった。

 次なる目的地は、ペインが持つ金貨の謎を知るであろう露店の店主。アルトたちの無事を案じながら、大きな船で始まりの地へと向かっていきます。

 果たして、セウゾンたちはこの国を救うことができるでしょうか。ウコジヨウ地帯の地面は、乾燥し、地割れを起こし始めている。

 



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