第九話 大きな船と小さな船と

 シュカ・ハイーユ・ペインの能力により、ボクド村の村民の活気を取り戻し、セウゾンとキジュウの協力により船を作り出す手立てが整った。

 村の人々は門であったモノや倉庫であったモノなど、かつて人々が利用していたモノに使われていた材木を丁寧に加工し、船の材料へと変化させた。また、ボクド村から船のある海までは長い道のりであるため、村の人々と材料を運び出すことが必要であった。幸いなことに、キジュウの「力持ち」の能力により船の材料の大半を運び出すことができたが、その他の材木に関してはアルト一行と村の人々が協力する形で海辺まで運び出した。その距離は、アルトたちが3回ほど焚火を囲うほどの距離であったが、ボクド村の人々は1回の野営で済むほどの時間でたどり着いてしまった。


 セウゾンは船の設計図を作成し、その指示のもとで村の人々が船を作り出した。このチームに音楽家がいたのであれば陽気な曲とともにリズミカルに造船をしていたところである。ハイーユとシュカは、自身の旅の目的の一つである脚本制作をしつつ、楽し気な音楽を考えていた。ペインは船の外装を塗装することで、通常の材木ではなしえない強度を確保した。アルトはキジュウらの作業を見て、声援を送ることしかできなかった。そのことが影響したためであるのかわからないが、人々の作業効率が良くなり、セウゾンの予定していた造船日程を大きく短縮させた。


 アルトたちが今までに使ってきた船よりも小さい船が完成した。村の人々は船の完成をよろこび、アルト一行の旅の成功を祈った。今や、アルト一人の目的のためだけでなく、この国の人々の暮らしがかかった旅である。そのことについてアルトはより一層、気を引き締める思いであった。


 船の完成からほどなくして、アルトたちはどちらの船に乗るかを話し合った。小さい船は文化の根へ、大きな船はウコジヨウ地帯へ。話し合いの結果、アルト・ペイン・ハイーユが文化の根へ、セウゾン・シュカ・キジュウがウコジヨウ地帯へ向かうことになった。シュカとハイーユは脚本を書くため、どちらの旅も見届けようと考え、二手に分かれた。また、セウゾンとキジュウは妹のソプラを中心とした奴隷の解放と、クロノテージ王の説得のためにウコジヨウ地帯へと向かう。アルトとペインは、クロノテージ王に抜き取られた記憶の返還のために文化の根へと向かう。

 彼らの旅の目的は「文化の根への記憶の返還」であるが、一行の目的はそれぞれである。


 次に向かうは、旅の目的地である文化の根とクロノテージ王の支配するウコジヨウ地帯。果たしてアルト一行は無事に旅を終わらせることができるのだろうか。

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