第21話 潮 あいなの大人なアそび方 レベル1
「えっ? 今日は違うバイトに?」
「ああ。ごめん、あきつぐ!」
教室でのいつものやり取り。
それは何かというと、いつからかHRが終わると後ろの席から光丘くんが俺に声をかけ、そのまま強引に教室から連れ出す――という流れ。
光丘くんと二人だけで一緒に帰り、そのまま俺の家に上がり込んでは何かするというまでが日常になりつつあった。
しかし、HRが終わると光丘くんは俺の席に来てすぐに両手を重ね、俺に謝ってきた。
「すげーーっすね……流石、入江氏」
その光景だけで判断されてしまってもって話だったけど、江口くんは光丘みなとが俺に頭を下げているという姿を見て、俺を神のように崇めていた。
周りの男子たちも唖然としていた中、俺に謝罪したかと思ったら光丘くんは照れることなく正直な気持ちを明かし始めた。
「本当はいつもお前にくっついておきたいのが本音なんだけど……、あたしはあたしなりに頑張りたいってのがあって。だから今日は行けないんだ。寂しい思いをさせることになるけど今日はぼっちで我慢な!」
男装バイトをやめたかと思いきや、それ以外にも続けているバイトがあるらしく、今日の俺はとても平和で静かなくつろぎを送れるのが確定したらしい。
……そう思っていたのに。
「今日、ぼっち?」
光丘くんが教室から速攻でいなくなり、琵琶さんも声をかけてこない中、まるで気配を感じさせない状態で潮さんが俺のそばに立っていた。
というか、驚いた……。一体いつの間に後ろに立っていたのやら。
「い、いえ。一人で帰るのは普通ですよ。家だって大体一人でいるものなんじゃないかと……」
「そうとも言える。けど、安心していいから」
「安心?」
「みなともみやびもいない。だから、私が一緒に……」
何でか分からないまま、光丘くんがいないのをいいことに潮さんが俺の家についてきてしまった。
鬼の居ぬ間に……的なことなんだろうけど、よほど俺が寂しそうに見えた?
とりあえず潮さんの思惑は不明ながらも俺は潮さんを家に上げ、しばらくは大人しく他愛のない話で何も問題が起きずに過ごしていた。
――しかし。
「何もしないのも面白くないから、入江と遊びたい。遊ぼう?」
「えっと、ゲームとか?」
「子供に戻って遊ぶ。ゲームじゃない遊び」
子供心に戻って遊ぼうとか言うので、俺は何の疑いも持たないまま潮さんと一緒になって庭の土いじりをすることに。
それ自体には何も問題がなかったのだが。
「うぶっ!? えっ? み、水!?」
「そう。やっぱり泥遊びが最強だから」
しまった、ホースが見えるところにあったのか。
「ま、待っ――!」
――というわけで、俺の全身は見事に泥水をかぶって泥だらけになった。
「びしょびしょだね。私、ほとんど濡れてないから、だから……シてあげる」
大して汚れていない潮さんがお詫びに洗ってあげるというので浴室に移動したのが運の尽きというかなんというか。
「……はい、脱いで。全身くまなく洗う。だからいい子にして待つだけ」
うう、何でこんなことに。
「泥を落とすって、何か強力なシャンプーが必要だったり?」
「入江の家の普通のボディーシャンプーで平気」
――そう言ってたのに。
明らかに俺の家に置いてあるボディーシャンプーじゃなくてどこからか持ってきた不明の容器を手にして、潮さんは自分の手にそれをゆっくりと垂らし始めた。
「……あ、あのさ、洗う前に家のボディーシャンプーで十分とか言ってなかったっけ?」
何か泡立つよりも全身ヌメヌメしてる感じだし、透明で冷たいんだけど。
「そう、これはローション」
「ロ、ローション!?」
もしかしなくても、とてもよろしくない遊びをやろうとしているのでは?
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