第2話

昌範まさのりお前は、将来どうするつもりだ...?」俺が18になった、秋口の昼下がりの事。小豆をとろ火でじっくりと煮詰めていた。そんな俺の後ろから、親父が聞いてくる。


なんでこんなことをしているのかというと、甘味好きが高じた俺は菓子作りに手を伸ばしていたからだ。


趣味の甘味作りについては、親父から風変わりだと言われたが「慣れれば好きなものが作れるようになるんだ、こればかりはやめられそうにない」と冗談まじりに返すと病気になるなよとため息と共に、呆れた笑いが返ってくる始末だった。


そんな親父から、この手の質問が来る事は此処しばらくなかったから違和感を覚えつつ「将来の職についての心配か?」と聞くと「そうじゃねぇ...。」と新聞を渡しつつ「少し前のことになるが、満州できな臭い事が起こったみたいだ。」と記事を見せてくる。たしかに、記事には満州鉄道で爆破との記載があった。記事の端端を読んでいくとどうやら軍の関与が疑われたりしているらしい。「...もしかしたら戦争になるかもしれないって話...ですね...?」居住まいを正して聞くと親父は首を傾けて肯定の意思を示した。


そうなると親父がさっき言ってた将来をどうするかという質問の意味が変わる。職業の心配ではなく、戦争に行くかどうかの心配になる。より正確に言えば、進学して、徴兵制を一時的にでも逃れるかという話だった。「いや、飽くまで俺は引き取ってもらってる立場だ。戦争が嫌だからって進学なんて出来ない。進学するにあたっての負担だって決して小さいわけじゃないんだろ?...だから、大丈夫だよ。卒業したら兵士になるよ。」と答えると、「ウチのことを思ってくれるのはありがたいが、戦争なんてもんは大人同士でやり合えば良い。子供が持ちたくもない銃を握らなくて良いんだ。」と外で誰かに聞かれたら非国民と謗られそうな事を語った。日清、日露からまだ日が浅い。世論的にはそこまで厳しくはないが、戦わなくて良いなんて言ってられるほど平和でもなかったから、後ろ指を刺される発言ではあったろう。だからこそ「親父、それ以上はダメだ。」と留める。「なぁに、お隣さんとドンパチなりそうってだけだろ?運が良ければすぐに終わるよ。だから、そんな心配そうな顔するなって...な?」わざと明るく反応する。


そうして、時は流れ学校を卒業し、軍に志願することにした。

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