四十八日目
学校を休んだ。
時間になっても一階に降りてくる気配の無い俺を、母親はなんも気にかけてなかったようだった。九時頃になって、彼女は誰かと電話しながら、何事も無く家を出ていった。
普通こういうのって、学校から何か連絡があってもいいんじゃないのか、と俺は不思議に思った。
学校側は、なんの前触れも無く突然ズル休みする生徒がいても、そこまでお節介を焼く必要は無い、ということなのだろうか。
まあ、正直そんなこと、どうでも良かった。
「変わらなきゃ、いけない」
俺の声は、誰も居ない六畳の部屋に響いて、そして、吸収されるように消えていった。
俺自身は実は「生きたい」と思いたいのかもしれない、と考えてみた。
そもそも俺は別に、好き好んで、こんな生きたくも死にたくもないような、中途半端な気持ちを抱いたわけじゃなかったのだ。なんなら、出来ることなら長生きしたいと思ってるし、もし死ぬなら満足した死を遂げたいとも思っている。
でも、生きている間に何をしようと、死んだら全て無駄になるとも思っていた。
裏を返せば、これは、今すぐ死んだ方が最も
しかし、これは、俺以外の人間にとってはどうだろう?
家族は俺という身近な生命を失ったことで、深く悲しみ、ショックで精神を病んでしまうかもしれない。
…………そうか。
つまり、より多くの他人にとって、俺が「身近な生命」に分類されるとき、俺という人間は「生きなければならない」と思えるのだろう。
仕組みは単純。
身近な生命が何かすれば、
…………いや。
俺は、俺を身近な生命だと思ってくれる
桜やゆうかが、葬式で俺のためだけに涙を流すことを、俺は防ごうと思えるだろうか。
わからなかった。
わからなかったが、直感的には、無理そうに思えた。
…………でも。
俺はもはや、追い込まれている。
桜は、俺がもしもこのままの人間だったら、別れる気なのだろう。
ゆうかの命令で付き合うことになって、勝手にケンカして別れたとなるのは、何となくダメな気がした。
それを防ぐためには、無理そうでも、やれることはやるべきだろう。
「……よしっ」
俺はおもむろにスマホの画面を開いて、メッセージアプリを起動した。
桜とのトーク画面を開いて、タタタタッと簡潔にまとめた。
「自分は生きていても、大丈夫ですか」
送信ボタンを押して、俺は早めの昼ごはんを食べに、一階へと降りた。
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