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「ほら、なにぼんやりしながら、空を見ているのですか? 若竹姫。畑仕事を始めますよ」

 白藤の宮をそう言われて背中をぽん、と叩かれたところで、若竹姫ははっとして、ようやく古い森の上に広がっている美しい青色の空の風景を見ることをやめて、その小さな顔をさげて、白藤の宮を見た。

 白藤の宮は若竹姫を見て、にっこりと優しい顔で笑っている。

 そんな白藤の宮の顔を見て、それから若竹姫は「はい。わかりました」と白藤の宮にはっきりとした声でそう言った。

 二人は畑仕事の道具を持って、(大きなかごや、鍬や鎌などだった)鳥の巣の近くにある小さな畑に移動をした。

 小さいけど、とても美しい畑だった。

 そこは白藤の宮がせっせと愛情をこめて、いろんな野菜を育てている畑だった。

 畑仕事のやりかたを簡単に白藤の宮に教わってから、若竹姫は白藤の宮と一緒に畑仕事を始めた。

 都の由緒ある大きな神社の家系に生まれたお姫さまである若竹姫は、こんな風に顔や手に土をつけながら汗をかいて、畑仕事をすることは、生まれて初めての経験だった。

 そんな初めての畑仕事は、……、なんだかとっても楽しかった。(白藤の宮が一緒にいてくれたからかもしれないけど)

 それから二人は黙々と畑仕事をした。

 白藤の宮はときどき、自分の横でせっせと畑仕事をしている(真剣な顔をしている)若竹姫の様子を見ていた。

「若竹姫。あなた畑仕事がとっても上手ね。あなたはもっと手が不器用な人だと思っていました」

 と、若竹姫の手際のよい、呑み込みも早い畑仕事ぶりを見て、感心したような顔をして白藤の宮は言った。

「……、そんなことはありません。白藤の宮の教えかたがいいんですよ」

 少し照れながら、頬を薄く桃色に染めて、土を顔につけている若竹姫は、同じように土を顔につけている白藤の宮を見て、子供っぽい顔でそう言った。

 ……、若竹姫は体を使うことについては、ほかのことよりも、(都のお姫さまたちが学ばなければいけないさまざまな作法のようなものや、教養としてみにつける必要のある古典の本を読むことや、みんなが集まったときに歌や詩などを読むことだった)少しだけ自信があった。(体は密かにみんなが寝静まった夜の時間などに、こっそりと起きて、都の暮らしでなまったりしないように、鬼退治やもののけを払ったりしながら、きちんと鍛えたりしていた)

「私はもうだめね。畑仕事をしていると、すぐに腕や腰が痛くなってしまうの」

 とぽんぽんと自分の肩を叩きながら、白藤の宮は大きく背伸びをして、楽しそうな顔をして若竹姫を見て言った。

 緑色の大きく実った瓜を一つぷちっと手にとった若竹姫は、そんな白藤の宮を見ながら、「なら、私が白藤の宮のぶんまで働きます」と小さく笑って、ほほの土をぬぐってから、白藤の宮にそう言った。

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