第26話 合流

 線路の修繕作業は貨車の登場により劇的に加速した。人員と資材の輸送力の向上が与えた影響は非常に大きかった。

 そうして一日の作業を終え帰ってくるとギルドのロビーにはゲイルの姿があった。


「ゲイル!もういいのか?話は聞いてるぞ!」

「ああ、済まねぇ!遅れちまったな!」

「大怪我じゃなくて良かった!」

「あんなの怪我のうちに入らねぇよ!デシュペルト家が過保護だったんだよ。まぁ、悪い待遇じゃなかったけどな!」


 ゲイルはその”過保護ぶり”が満更でもなかったようで笑いながら答えてきた。


「それだけレール魔法が今後の魔物との戦いで重要な役割を持つことになるって事さ。」

「俺も聞かれたぜ?他にレール魔法を持ってるヤツ知らないかってな。ハズレ魔法だったからな、持ってても公表してねぇやつの方が多いだろ。」

「まあな。でもな、ここにももう一人いたんだぜ?」

「マジか?!どいつだ?」


 一日の作業を終えロビーで仲間たちと談笑しているベネに声をかける。


「ベネ!前に話したレール魔法もってるヤツが来たぞ!」

「おお!そいつか?」

「生意気そうなやつだな!」


 口では生意気そうと言いつつゲイルは嬉しそうに笑っている。ベネの方もお互い様だという感じの態度をとっている。

 ベネとゲイルは気が合いそうだな。ついでにこの場に居ないアウラ以外のビビフィカのメンバーにゲイルを紹介する。


「折角だ飯でも食いながら話でもしようぜ!」


 と、サックロがナイスな提案をする。


「そうだな。ゲイルもいいよな?」

「ああ、俺も待ちくたびれて腹減ってたしな。」


 こうしてビビフィカのメンバーと一緒に食事に行く事になった。食事はいつもギルド近くの酒場で取っているのだが……。そこではペルフィとアウラが演奏をしていた。ソウレイスで演奏があるのは珍しいので大盛況だ。丁度演奏がひと段落したところだったので声をかける。


「ペルフィ!丁度良かった。今帰ってきたぞ~!」

「あ、リガレお帰り!今から食事?あたしも一緒に食べる!アウラも食べるよね。」

「サックロたちも一緒だしそうするわ。で、そっちの人は?」


 アウラにゲイルを紹介する。ペルフィとメーシスさんは以前会っているからこの場ではアウラだけだ。


「ペルフィ、魔法式の方は?」

「もう少し。なんだけどね……もう演奏したくて仕方なかったから今日は早めに切り上げちゃった。」

「あまり詰めて作業しても効率が良くないですから。」


 すかさずメーシスさんがフォローする。


「それならバフでゾッグ戦も有利に進められそうだな。こっちは新しい召喚で修繕速度が上がったから予定より早く終わりそうだ。」

「あたしも明日頑張って終わらすよ!」


 そんな話をしながら食事を始める。


 食事をしながらレール魔法を持つ3人でレール魔法について色々と情報交換をする。ベネはどちらかと言えば直接車両を運転する事に関する運転系の魔法が多く、ゲイルは自身が直接レールの上を走行することに関した走行系の魔法が多い。そして俺はその運転系、走行系の両方と合わせさらに補助、補修系など様々な分野をバランスよく持っている感じだ。


 こうしてみてみるとレール魔法と言ってもかなり幅広い感じだ。レール魔法の有効性が広く認められれば研究も進んでこの辺りの全体像もいずれ分かってくるとは思うが今は”感じ”止まりだ。そういや、初代時計卿の召喚魔法はレール魔法のように召喚魔法と相互作用があるような事ってあったんかな?

 時計卿はギルド前に停車している装甲軌道車をじっくりと観察していると思われるので、後で時計卿に聞いてみることにしよう。いや、話が長くなるかもしれないから明日にしようかな。


「ああ、そうだ。」


 思い出したようにゲイルが話題を変える。


「明日辺りあいつらが来ると思うぜ。」

「あいつら?」


 乱闘の原因を知らないベネは当然ピンと来ていない様子だ。


「ああ、乱闘になった原因か?詳しくは知らないが、評判悪いらしいな。」

「ああ、最低だ。今日だってあいつらと一緒の馬車でソウレイスまでとか言われて、言ってきたデシュペルトのヤツの頭がおかしいのかと思ったぜ。乱闘した相手だぜ?だからもうさっさとレール走ってきたんだ。」

「そうだったのか。」

「その乱闘の原因ってなんなんだ?俺はレール魔法もっている奴が負傷したって事しか知らなかったんだけど。」

「ノダムのトップ冒険者バーティだな。」

「トップ!トップなのに評判悪いのか。」

「力に驕ってるんだと思うぜ。魔物を倒す実力はあるんだろうけどな。」


 ゲイルは苦々しい表情をしている。確かに評判は悪いが魔物に対する戦闘力もずば抜けていると聞く。


「それだけ強いなら丈家に召し抱えられるんじゃねぇの?」


 ベネがちょっとした疑問を呈するが、すぐさま過ぎ近くに居たペルフィとメーシスさんに否定される。


「無いよ。」

「ありえませんね。丈家は人格も考慮されます。例え名家の出でも人格的に問題があれば放逐されます。」

「そういうこと。」


 そうなのか。確かに今まで出会った丈家の人たちって全員ちゃんとしてたな。


「……リガレ、もしかして知らなかった?」

「え!いや知ってた知ってた!」

「へー。」


 ニヤニヤとした視線をペルフィから受けてしまった。ばれてら。


「ですから、実力があっても素行の悪い方々は冒険者として必要な時だけ”利用”させてもらうのです。」

「素行が良かったら?」

「召し抱えられることも当然ありますよ。」

「へーそうなのかぁ。」

「ちなみにリガレ様はすでにデシュペルト家で囲われているので逃げられませんよ。」

「は?」


 俺の知らないうちに俺がデシュペルト家に囲われていた件。


「もうすでにご実家のホディアンダ家は郎党として召し抱えられておりますし。」

「良かったねリガレ!」


 ペルフィはニッコニコだ。


「リガレは装甲軌道車で頭がいっぱいだったからねぇ。くすくす。」

「え、あ、はい。え?いつの間に?」

「そもそもお嬢様とパーティが組めた時点で家臣的な意味合いがありますから。」

「あ!なるほど!……”なるほど”じゃねぇ!」

「……嫌なの?」

「嫌なわけないだろ?俺自身が気づいていなかったのがショックなんだ……。ペルフィ達と一緒に居るのが自然すぎたんだよなぁ。」


 軽く落ち込むなぁ。確かに丈家の作法とか全く分からないし、なんとなく流れでそうなってたから意識してなかったけどそうかぁ。デシュペルト家の郎党かぁ。出世したなぁ。


「あっと、じゃ、素行には気を付けないといけないわけだ。」

「はい。今後よりいっそう立ち居振る舞いにはお気を付けください。」


 横ではゲイルとベネが俺の状況を見てゲラゲラ笑っている。笑っているベネ達の様子からサックロたちもこのことを知りやっぱり笑い出した。


「いいじゃねぇか!出世!出世!良かったな!」

「普通真っ先に気づくんだけどな!」


 サックロ達が祝ってくれているのは本心なんだろうけど、”からかい”の成分もかなりの割合含んでいるな。……いいけど。


「普通は召し抱えられたくて頑張ってそれでも難しいのにねぇ。」


 レスピラもあきれ顔だ。

 こうして和気あいあいとゲイルとビビフィカの顔合わせも済み、ゲイルは早速翌日から一緒に行動することになった。

 そして皆が解散し……俺は残業となる。残業というか時計卿に付き合って限界まで装甲軌道車の召喚をすることになる。


「おお!なるほどなるほど!ほれ!見てみぃ!」

「へー面白いなぁ。」


 時計卿は装甲軌道車のある一部分のみを素材を使って召喚生成することでその一部分の部品を複製する事を提案してきた。部品ごとに素材を使用して召喚生成し、それ以外を魔力で構成すると召喚物を破壊した際に魔力で構成されていない部品だけ残るというわけだ。

 その部品の取り出しに装甲軌道車を破壊しなければならないが、その装甲軌道車の破壊も部品の確認をしながら取り外していくような形にし、装甲軌道車がどのような構造になっているかの調査も並行して行った。


「これはの、初代が召喚した時計を複製する際に考案した方法でな。このおかげで部品や構造の把握が容易にできるようになったのじゃ。」

「はー……確かにこのやり方なら確実だなぁ。」

「じゃろ?しかもこの方法を使うとな?量産もできるのじゃ。」

「!」

「思いもよらなかったという顔じゃな。ふふふ。吾輩の目的は装甲軌道車の量産化じゃ!」

「量産化!」

「そうじゃ!楽しみじゃろ?」

「ああ、ああ!滅茶苦茶楽しみだ!」


 とはいえ、この方法にも欠点がある。


「使用されている素材によっては素材が無くて召喚生成できない事もあると思うけど、その辺りはどうする?」

「そうじゃなぁ。素材の手持ちが少ないからのう。お主に頑張ってもらうしかあるまい。」

「え、俺が頑張るってどいうこと?」


 もうかなり頑張ってると思うけど。


「この場にそのものの素材が無くても大気や大地から素材の元を取り出して生成できるらしいのじゃ。少なくとも初代の手記にはそう書かれておった。まぁ、魔力の消費が大きくなると思うがの。」


 ストードへの街道で召喚した軌框ききょうなんかは地面が凹んで辺りの大地から素材を取り出して作ってた。その場合はむしろ逆に消費する魔力は少なくて済んだ。素材を魔力で作る必要がないからだ。


「いや、今までも召喚魔法を使う時に付近の素材、物質を使う事で魔力の消費を抑える事が出来たんだ。でもそれだと付近に必要な素材が無い場合には素材を使った召喚ができないんだよ。」

「んん?吾輩が言っているのは”付近に必要な素材が無い場合”の事じゃぞ?」

「……話がかみ合ってなかった?」

「そうじゃ、この大気や大地あらゆるものから”必要な素材を取り出す”と初代は残しているのじゃ。」

「ってことは……物質を生み出すとほぼ同義じゃ……。」

「そうじゃの。」


 時計卿はにやにやしながら俺の驚愕を眺めている。


「召喚魔法が規格外であることが分かるじゃろ?」

「規格外どころの話じゃない……。」

「吾輩ら歴代の時計卿はこうして召喚された時計から生成素材を分析し、召喚生成を全く使わない同等品を目指し研究を重ねてきたのじゃよ。まぁ、初代の召喚した時計の同等品は未だ再現できておらんがな。」

「え……それじゃ、装甲軌道車の量産化は難しいんじゃ?」

「そうでもなさそうじゃ。」

「どういうこと?」

「うむ。どうも見た所、装甲軌道車の精密部品が時計卿の召喚した時代よりも大分前のモノらしいのじゃよ。」

「大分前?時代?」

「そうじゃ。魔力回路に似た部品がの。実に原始的なのじゃ。吾輩らにも再現できそうなくらいにはのう。」

「それって……もしかして……?」


 時計卿の言葉を聞いて俺はあることに思い当たった。


「まるで装甲軌道車の量産をするために時計の召喚生成が存在したかのようじゃの?」


 俺の想像した事と全く同じことを時計卿も考え至っていたようだ。


「ああ、そう思う。」

「時計の召喚が無ければ魔法回路の登場も無かったであろうのう。」


 時計卿は遠い目をしている。

 結びの女神様は200年も前から装甲軌道車の、いや、線路で世界を繋げていく事を想定したって事か。


「という事は逆に装甲軌道車の解析が進むことで時計の方も進むのでは?」

「うむ。実はその期待もあるのじゃよ。だから一刻も早く装甲軌道車の解析を進め、さらには初代の時計の再現も実現したいのじゃ。」


 そうなると俄然楽しくなってきた。独立していると思っていた時計の召喚と装甲軌道車の召喚がこんな形で繋がるとは思ってもみなかった!時計卿に付き合って召喚しては魔力に還元してっていうのを続けてきてちょっと面倒になってきていたけど、明日以降も張り切って召喚して解析を進めていきたいね。

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