【プロローグ】
貴方は目を覚ます。ぼやけた視界に、見慣れないコンクリートの天井が映る。違和感を抱き目を擦る。ようやくはっきりとしてきた視界の前に、青い紅を付けたブロンドヘアの女が佇んでいた。
「おはよう。ようやく起きたわね。貴方が最後よ。ついて来なさい」
わだかまりを抱えながら、貴方は女の背中についていく他ないだろう。起き上がり、周囲を見渡せば、そこはまるで刑務所のようだった。いや、刑務所なのだろう。そう理解させたのは女を挟んだ向こうの鉄扉。その上部、丁度人の目線辺りに短い鉄格子が見えたからだ。扉の前に立てば、女は貴方の方を振り替える。その青い紅は微動だにしないが、静かな視線は貴方を急かすのに十分だった。
□□□
「さて、全員揃ったことだし、始めましょうか」
かつかつ、とヒールの音を鳴らしながら、女は二、三歩、貴方達へと歩み寄る。
「……急にここへ連れられて、混乱してるでしょう。安心して。私は貴方達に危害を加えるつもりは無いわ。寧ろ、安全な道を用意するつもりよ」
女は淡々と語る。皆、状況を飲み込むために女の冷たい瞳を見つめ、耳を傾ける。
「私はとある研究所に勤めていた、研究員のキャシー。貴方達をここへ連れてきたのは、私の研究に協力してもらうため」
キャシー。そう女がそう自己紹介をすると、所々にツギハギの縫い目があるアンデッドのような青白い肌を持つ黒髪の男が鼻を鳴らして口を開いた。
「唐突に連れられ、大人しく言うことを聞く者は、何人いるんだろうな」
皮肉のように、キャシーに向けて男はそう言う。この中にいる数人は、男の発言に同感したことだろう。けれど、次のキャシーの言葉でその同感も覆った。
「……貴方を知能のあるアンデッドにしたのが、私だと知っても?」
「……何?」
キャシーのその言葉に、男は表情を途端に曇らせ、眉間に皺を寄せてキャシーを睨み付けた。
「先に言っておくけれど、怒りだけをぶつけられても、私は何も答えないわ。答えが知りたいのなら、理性のある会話をしてちょうだい」
男の睨む爛れた瞳を見つめ一蹴した後、キャシーは話を続けた。
「話を戻すわ。ここには私を含めた研究員が作り出した9名の人工のアンデッド。そして、9名の先天性抗ウイルス細胞を持った人間。18名がいる」
そこで、そっとある1人が「あの~……」という言葉と共に手を上げた。糸のような目をしている女か……男か。
「……その、自分は恐らく、先天性、抗ウイルス?細胞を持った人間側だと思うんですけど……。それって、具体的にはどういった細胞で……?」
「……人類の0.00003%しか持ち合わせてない、先天性の細胞。アンデッド化してしまう変異型ウイルスを補食する力を持っている。つまり、余程のことがない限り、アンデッド化しない細胞。これで答えになってるかしら?」
「あ、はい!ありがとうございます」
キャシーは二回ほど咳払いをした。
「これ以上の質問は個別にお願いするわ。話が進まない」
「さて。研究内容について簡易的に話すわ。具体的に貴方達に協力してもらうことは、アンデッドと人間で互いに輸血行為をすること。これらで互いに得られるものはちゃんとあるわ。アンデッドは食人衝動を抑えることができる。人間は食物を食べなくてもそれに代わるエネルギーを得ることができる。食事が不要ってことね」
「それで、誰が誰と輸血をするかについて、なのだけれど。貴方達が気を失っている間に、貴方達の適性を見つけたわ。分かりやすく、バディ、と呼びましょうか。今からそのバディ相手を伝えるわ」
キャシーは、机に置いた用箋挟を手にとって、また、淡々と、話を進めた。
「被験体No.1カフカ。四葩手毬」
名を呼ばれたこと、キャシーの視線に各々が向けられたことから、互いがバディだと理解すれば、二人は目を合わせて、片方が声をかけた。
「……あはっ、君がバディ……!よろしくね!カフカさん?俺は四葩手毬!気軽に四葩様でいいからね!」
「四葩様。わかりました。カフカのことはお好きに呼んでください」
バディ同士の挨拶が済んだところで、またキャシーは淡々と次へ移る。
「被験体No.2デイヴィッド・リード。ヨアン・リーヴァ」
「バ、バ、バディって、……ぼ、ぼ、ぼくだけの、に、人間ちゃんって、こ、こと???え、エヘヘ、よろしくね、人間ちゃん」
「うん。よろしくね。デイヴィッドくん」
「被験体No.3リズ=ロバーツ。ネイピア・リード」
「……えーと、……おぉ、貴方がリズさん!自分はネイピア・リードと申します。よろしくお願いしますね」
「あなたがバディね。ネイピア・リード……覚えたわ!私はリズ=ロバーツ。よろしくね?」
「被験体No.4ヒュー・ウェイド。マリオン」
「……君が、わたしのバディ?わたしはマリオン!好きに呼んで!君は、ヒュー・ウェイドって言うんだね?よろしく、ヒュー!」
「…………あぁ。……よろしく頼む」
「被験体No.5チューリエ。カタリナ・ベアトリス・マドリガル」
「…………バディ。…………あなたが、……私の、主……??」
「…………えっ、あっ…………ある、じ……??あー……っと、……べ、ベアトリス、だよ。…………あたしの、名前。……よ、よろ、しく」
「…………うん!!あたしはチューリエ!よろしく、主!!」
「被験体No.6エイプリル・ルイス。ノーバディ」
「…………ぁ、アッ、す、すす、すみ、ませ、…………わ、わ、わたし、が、バディ、で…………す、すみません、ごめ、なさ…………」
「…………なんで、謝るんだ。…………。…………よろしくな。……エイプリル」
「被験体No.7ミスティ・デ・ローナン。アダム・キャスパー」
「輸血…………、ふふふ、なんだか素敵ですね♡わたしはミスティ・デ・ローナン。ミスティとお呼びください。アダムさん、必ずお守りしますね……わたしの血で……♡」
「血、ッ……ま、じか、…………、あ、いや、……独り言……。えっと……よろしくお願いします、ミスティさん……」
「被験体No.8シーラ・ベーカー。マディ」
「バディ……唯一の……!貴方がマディさん?ふふ、シーラちゃんは、シーラ・ベーカーと申します!!お気軽に、シーラちゃん!と、お呼びください!マディさん!」
「……随分元気だね。…………まぁ、よろしく。適当に」
「被験体No.9あんじぇら。ローザ・シルヴィーク」
「…………そう、貴方が。…………ローザ。よろしくね、お嬢さん」
「……ぅお、…………で、でっか、…………。あ、あんじぇらは、あんじぇら、…………だ、…………。よ、よろ、しく…………」
全員の適性、及びバディを述べた後、視線を用箋挟から、貴方達に視線を向けた。
「以上よ。さて、一先ず、ここ、アナーキー刑務所の案内した後に、貴方達の自室、そして行動制限について話すわ。それが終われば、一旦自室で休んでもらって構わないわ。私の研究室以外であれば、刑務所内を自由に見て回って構わないし、被験者同士での交流も構わないわ。個人的に聞きたいことがあれば、私の問診室に来なさい。答えられる範囲だけ、答えてあげる。それじゃあ、ついてきなさい」
□□□
「案内はこれで終わりよ。各々、先程言ったとおりの事は破らないことを条件に、今日は自由にしてもらって構わないわ。それじゃあ、お疲れ様」
一通りの説明を終えたキャシーは一言と共に軽く会釈した後、問診室へと戻っていく。問診室の扉の前で立ち止まり貴方達の方へ振り返り、口元だけ微笑んだ。
「今日からよろしくお願いするわ。私の希望達」
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